第15話 えっ、ズルい?いいえいいのです!
「ルイン様~」
「ルイン~」
学院近くにある公園の噴水広場。まだ朝7時と時間が早いため、朝の散歩をする人たちがいるぐらいで、リア充カップルは出没していない。
その噴水前で僕は待ち合わせをしていた。
今日はダンジョンに行く話しを予めしていたので、レミーナ様とリビアンさんは装備をしている。
レミーナ様は手に魔術用のロッドを持ち、白をベースにしたローブで緑色の柄がついている。リビアンさんは腰に剣を下げて、鉄製の胸当て、肩当て、腰巻きをしている。2人とも小さなリュックを背負っている。かく言う僕は野外活動用の普段着に同じく小さなリュックを背負っている。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「素敵なローブですねレミーナ様」
「あ、ありがとうございますルイン様。今日のために仕立ててきました!」
「姫様ズルいよな~。お洒落でいいよな~。鎧なんて無骨な物しかないもんな~」
「ドレスアーマーとかは売ってないんですか?」
「「ドレスアーマー?」」
前世の記憶でポロっと言ってしまったが、そう言えば『ドキプリ』は鎧とかはショボイデザインだったな。
「ドレスアーマーは女性用にデザインされたお洒落な鎧みたいです。古代書にそんなことが書かれていましたよ」
「へ~、ドレスアーマーか~」
「古代人は戦う女性にも気品を求めていたのですね」
いえ、前世っ子の世界が萌えなだけです。ドレスアーマーのデザインぐらいなら僕にも出来るかな? 今度カトレア様に相談してみよう。カトレア様は魔導技師を目指していて、スキルは錬成術を持っているからな。
因みにこの世界の錬成術は職人系スキルのオールラウンダーみたいな感じだ。魔導技師には多くの知識と器用さが求められる。そのためオールラウンダーな錬成術師がその職に就くことが多い。
しかし付与系魔法の修得のみならず、各分野の職人系スキルを修得し、様々な知識を有していないと錬成術師にはなれない。16歳にして錬成術師であるカトレア様はまさに天才と言っていいだろう!
「ではダンジョンに向かいましょう」
「ルインはその格好で行くの?」
「はい。僕が持っている鎧では着ても着なくても変わらないので」
鍋で作った鎧や兜は恥ずかし過ぎる。僕にも男の矜持が有るのだよ!
僕は2人を連れて公園の物置小屋の裏手に回る。
「ルイン様? ダンジョンに行かれるのですよね?」
「はい。レミーナ様、リビアンさん、僕の手を取って下さい」
僕が右と左に手を差し出すと、リビアンさんは少し恥ずかしそうに僕の手を握り、レミーナ様は何故か僕の腕に抱き付いてきた? 手を取って下さいって言いましたよね?
「テレポート」
「「えっ!?」」
♢♢♢
やって来ました久しぶりのチュートリアルダンジョン。僕のレベルでは災害クラスB級の荒くれメタルナイトスライムはお腹いっぱいだけど、この2人には有効な経験値稼ぎが出来る。
「ここは?」
2人は急に森の中へ空間転位したことに驚いている。
「これがルインの魔法か! レミーナ様からは聞いていたけど凄いな!」
取り合えず周囲の警戒をするが、空間把握魔法の範囲には魔物や危険な獣はいなそうだ。
そして僕は森の中にポッカリと口を開けているダンジョンを指差した。
「ここが冒険者も寄りつかないゴミダンジョンです」
「私、聞いた事があるよ。低レベルのゴブリンが1匹しか出ないって話しのダンジョンだよね」
「はい、そうですリビアンさん」
「さ、流石に私達のレベルを上げるにしても、それはないんじゃない?」
先の武術試験でリビアンさんは3位、レミーナ様に至っては魔術試験で1位だった。レミーナ様の光魔法は攻撃力は低いが、防御力はめっぽう高い。学院生レベルでは受けに回ったレミーナ様を崩す事は出来ず、皆が魔力切れでギブアップした。誰1人傷付けることなく優勝したレミーナ様に盛大な拍手が送られたとのことだ。
「勿論分かっています。まあ中に入りましょう」
僕が先頭で入り松明に火を灯そうとすると「ここは私の魔法で」とレミーナ様がライティングの魔法を唱えてくれた。
早速現れたレベル1ゴブリンを僕のパンチ一発で瞬殺。剣術が苦手な僕でもレベルによるステータスは高い。レベル1ゴブリン程度ならば徒手空拳で撃破できる。
「終わってしまいましたね」
唯一出現するゴブリンを僕が撃破。レミーナ様とリビアンさんは少し戸惑っている。
「目的はこの先です。先に進みましょう」
僕はダンジョンで岩に偽装されているスイッチを解除しながら進んだ。
「行き止まり……ですよね?」
「まあ、見ていて下さい」
僕は最後のスイッチを解除した。ゴゴゴと行き止まりの壁が動き隠し部屋が現れる。
「えっ!?」
「隠し部屋か!」
「はい。この部屋が本日の目的地です」
「あっ! 奥に宝箱がある!」
「すみません、あれは空です」
「え~~~。じゃあここに何があるのよ」
「お二人にはここに出現する魔物を退治して貰います」
「「魔物?」」
「はい。出現するのは災害クラスB級の荒くれメタルナイトスライム」
「「ビ、B級!」」
「はい。荒くれメタルナイトスライムはエクストラモンスターで非常に高い経験値を獲得する事が出来きます」
「いや、しかしだな、B級は無理だよね!?」
「分かりました!ルイン様が倒して私達がお裾分けを貰うのですね!」
「なるほど!」
「違いますよ? レミーナ様とリビアンさんで倒して貰います」
「「無理でしょ!!」」
確かに普通に考えれば無理な話しではある。
「大丈夫です。此方に来て下さい」
僕は例のポイントに2人を連れて行く。
「ここの床を見ていて下さい」
隠し部屋が開いて5分、床がボヤッと明るくなる。そして現れた荒くれメタルナイトスライム。
「今ですリビアンさん!」
「えっ! わっ! えい!」
床に現れた顕現直後の荒くれメタルナイトスライムはリビアンさんの一撃で撃破された。そして大量の魔素が漂い僕達の体に取り込まれる。その魔素量はB級モンスターの10倍、つまりA級モンスターなみの経験値を得られる。因みにD級モンスターであるオークなら1万匹に匹敵する。
「い、今のは?」
「凄い魔素量でしたね?」
「今のが荒くれメタルナイトスライムです。スピードと攻撃力に特化した魔物で、その攻撃力だけならA級に匹敵します」
「「A級!!」」
「しかし防御力は紙装甲。当てれば死にます。そしてこの部屋に限って発生場所が確定しているんです」
「それが此処って事か」
「はい。リポップタイムは5分から10分です。床がボヤッと明るくなったら待ち構えて下さい」
「「………………」」
こんなにも旨い狩り場なのに2人は微妙な顔をしていた。
「な、なんかズルいような……」
「流石にこれは……」
「ズルいとか、セコいとか、卑怯とか言っている場合じゃないですから、バンバン倒して行きましょう!」
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