第13話 僕の噂!?いえ女風呂は覗いてませんよ
次の日、僕はいつも通りに教室の後ろの扉を開けて中に入る。入り口の近くでお話しをしていた女の子グループから1人の女の子が僕の方にかけてきた。
「ル、ルイン君、き、昨日の(BL)朗読は素敵でした!」
そして女の子はキャーとか言ってグループに戻って行った。彼女達の横を通ると輝いた瞳で僕を見る視線に加えて不穏な会話が聞こえてきた。
「またルイン様の(BL)朗読を聞きたいですわ」(いえ読みませんよ)
「ルイン様とアーベルト様の絡み……尊い……」(尊くない!全然尊くない!!)
「ルイン君って今まで気にかけていなかったけど美少年だよね」(はっ?)
「私、誘ちゃおうかなあ」(えっ!?)
「「「抜け駆けは駄目ですよ!」」」(ふ、腐女子との交際って……な、なんか怖ひ)
そこを通り抜けレミーナ様の席の近くを通るとレミーナ様に呼び止められた。仁王立ち? 何で?
「ルイン様! 何やら女の子達に人気の様ですね!」
「そ、そんなこと無いですよ」
「そうは見えませんでしたわ!」
今日のレミーナ様は不機嫌なご様子でした? 僕に当たられても困るよね?
そして席に座るのだけど、隣の席のカトレア様とは昨日の事があり気まずい。まあ、今までも仲が良い訳でもなかったんだけどね。
とは言え相手は侯爵令嬢である。大貴族である侯爵家に睨まれたら一族郎党の首が飛ぶ。いつも通りに無視されるのは分かっていても、此方から挨拶をしなければ礼節をかいてしまう。
「おはようございます、カトレア様」
「………………ぉはようござぃます」
「えっ!?」
小さな声だったけどカトレア様が挨拶をしてくれた!?
「す、すみません、おはようございます、カトレア様」
慌ててもう一度挨拶をしてしまった僕。カトレア様は挨拶が恥ずかしかったのか俯いていた。
然しながら特に会話がある訳でもなく、普通に3時限が終わったのだが、午前最後の4時限目、カトレア様が鉛筆を落としたので僕が拾いあげる。
「落としましたよ」
いつもなら「フン」と言われて終わるのだけど、
「ぁ、ありがとう」
と予想外の言葉に驚いてしまった。そしてカトレア様が僕を見て
「……∧∪ηλον∂♭」
ん? 古代語? リンゴ?
「♭∇∂ορλАς*∀(ゴリラ)」
「えっ!∀…∀…∀ιθτάρОζη(ライオン)」
「ンって言いましたね。カトレア様の負けですよ」
「あ、貴方が急にシリトリなんて振るから! あっ!?」
大きな声を出してしまったカトレア様にクラスメイトの視線が集中した。先生からも「カトレアさん、授業中は静かにお願いします」と注意を受けてしまう。これは僕の責任なので手をあげた。
「すみません、僕がカトレア様に話しを持ちかけてしまいました」
クラスメイトからは『お前か』みたいな視線を受ける。「ルイン君も気をつけなさい」と先生から注意を受けてその場は落ち着いた。
……いや、落ち着かなかった。右斜め後方のレミーナ様からのプレッシャーが凄いのは何故だ!
♢♢♢
お昼休みは毎度おなじみの校舎裏です。校舎裏はいつも変わらぬ顔ぶれのボッチ少年たちで、複数あるベンチは埋まっている。毎日何気に顔を合わせているのだから、友達にでも成りそうなものだけど、孤独を愛するボッチ道としては話し掛けるのは無作法だ。という訳で僕はコッペパンを囓っていた。
パッシブで発動している空間把握魔法が校舎裏に訪れた人を察知する。
「ルイン君……」
「カトレア様?」
「あ、貴方に謝りたくて……」
「僕にですか?」
「昨日は……その……貴方の頬を叩いてしまいました。す、すみませんでした」
平民の僕に頭を下げる侯爵令嬢のカトレア様。いやいや不味いって! 侯爵家とは王家、王族の血族である公爵家を除いた貴族の中で最上位の爵位である。貴族オブ貴族! 其れが侯爵家だ。そのご令嬢が平民に頭を下げてはいけない。
「あ、頭を上げて下さい! 僕みたいな平民に頭を下げないで下さい」
「いいえ! そういう訳にはいきません。貴族であれ誤りが有れば謝罪をする。それが我が家の家訓ですから!」
な、なんて立派な家訓なんだ! 流石は品行方正、清廉潔白なカトレア様が育った侯爵家だけの事はある。その言葉だけでカトレア様の住まう侯爵領の政治が正しく、領民が幸せに暮らしている事が窺い知れる。
「ありがとうございますカトレア様。カトレア様のご両親はご立派な方なのですね」
「えっ!? 私の両親ですか?」
「はい!ご侯爵様の人となりが素晴らしいからこそ、カトレア様が正しい行いをしているのだと思います」
僕の言葉にカトレア様はキュッと口を結んだ。あれ? 不味いことを言っちゃったかな?
「私は……私は正しくなどありません。周りの言葉を信じて、貴方を見てはいませんでした。貴方はクラスでは、クラスのクズ(体育祭のあれかな?)、クラス1の駄目人間(そうなの?)、アーベルト様の腰巾着(ゲームの設定だからね)、女子寮のお風呂を覗く痴漢魔(それは冤罪です!)、公園で幼女を抱き締める変態(そ、それは否定出来ない!)、貴方の良からぬ噂は沢山ありました。それを私は鵜呑みにしてしまいました……(公園の件は伏せて行う!)」
涙を浮かべる程に悔やんでいるカトレア様。
「私を赦して頂けますか?」
「赦すも何もクラスの皆も似たようなもんですし。いや、レミーナ様とリビアンさんは違うか」
「レミーナ様?」
「はい。レミーナ様とリビアンさんには良くして貰っています」
「……そうでしたか。流石は王女様ですね。あのお優しいお心が有るからこそ、周囲の噂などを気にせずに貴方と真摯に向き合ったのでしょうね」
「あ、いえ、そこまで大層な話しでは……」
「そうですよカトレアさん」
そこに現れたのはレミーナ様だった。僕の空間把握魔法と僕を刺すようなプレッシャーで、校舎の影に隠れていたレミーナ様のことは分かっていた。
「私こそがルイン様の1番の理解者であり、最初のお友達です! カトレアさんがルイン様のお友達になるならリビアンに続いて3番目! 3番目ですからね! 1番は私ですよ!」
1番に固執するレミーナ様。やはりそこは王家のプライドなのかもしれない。
「は、はあ。では、私は3番でお願いします……? ルイン……君」
「はい」
「友達になってくれますか?」
「勿論です!」
なんか知らんうちにカトレアさんが友達になったみたいだ。
ホッと胸をなで下ろすカトレアさん……とレミーナ様? 何故にレミーナ様が?
「それでルイン君、お願いがあるのですが」
「何でしょうか?」
「私に古代語を教えてくれませんか」
「古代語ですか?」
「はい。私、どうしても読みたい古代の本がありまして」
「あの(BL)本ですか?」
「違いますッ!あの本だけは絶ぇ対に違いますッ!古代魔導具の本です!」
ハアハア息を切らすほどにあの本を否定するカトレア様。確かに18禁は不味いよね。
「私、どうしても作りたい魔導具があるんです」
カトレア様のお話しでは、古代にあった『遠くの人と話しをする魔導具』を作りたいとの事だ。しかしここ千年の歴史を見ても、その魔導具が作られた記録はなく、手探り状態らしい。それで片っ端から古代魔導具関係の書物を読み漁りたいそうだ。
「僕でお手伝い出来ることでしたら構いませんよ」
「ありがとうございますルイン君!」
カトレア様は僕の手を両手で握りしめた。
「ちょ、ちょっとカトレアさん、ルイン様と近すぎます!別に手まで握らなくてもいいのではありませんか」
僕とカトレアさんの間に割って入るレミーナ様。何をそんなに焦っているのだろうか?
「す、すみませんルイン君。嬉しくてつい……」
「いえいえ、カトレア様みたいな美人に手を握られるなんて役得ですね、アハハハ」
「び、美人…………(ポッ)」
アハハハと笑って誤魔化したつもりなんだけど、レミーナ様がガルルルと何故かカトレア様を睨んでいるのは、うん、きっと気のせいだよね!
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