第12話 古代文明の恋愛小説?

 今週は中間テストだ。今後の動乱に向けてやる事は多いが、目先の問題もクリアしなければいけないよね。


「勉強なんかより実践重視だろ!テストなんて無駄だ無駄あ!」


 アーベルト様がテストが近付き、だいぶナイーブになられている。クラスカーストのトップに君臨するアーベルト様だが、学力では侯爵令嬢のカトレア様が学年トップであり、武術であれば公爵令嬢のエレナ様がトップで、魔法ならガチでやれば間違いなく僕がトップだろう。っていうか、アーベルト様の成績は下から数えたら片手で足りてしまう。


 アーベルト様にあるのは王族としての権力だけだ。主人公キャラなのでポテンシャルはモブの僕よりも遙かに高いのだが、『王子様暴走編』は権力パワープレイだから他が疎かになるのは仕方ない。


 その日の放課後にナイーブなアーベルト様は、街中で喧嘩イベントが発生して大暴れしたみたいだけど、本編は僕には関係ないのです!モブキャラだからね!


♢♢♢


 そんなモブキャラの僕だけど前世の記憶が甦った影響で、学力も上がってきた。前世の高等教育グッジョブです。中間テストも無事に終わったような、終わらなかったような顛末だ。


 それは全ての答案を返された日の終わりのホームルーム。クラス順位の発表があり、1位から10位までが担任の口から告げられた。1位は僕の隣の席のカトレア様、2位はレミーナ様だ。


「5位ルイン」


 へっ? 僕が5位? それなりに手応えは感じていたけど、ベストファイブに入るとは思わなかった。


「ルインは頑張ったな。その調子で頑張れよ」


 先生が褒めてくれたが、ボッチの僕は、友達と街に遊びに行く事もなく、やる事も魔法の練習程度しかないから、空いている時間は勉強している。つまりはその調子とは、ボッチのまま頑張れよって事なのか?


「先生! アイツはカンニングしてますよ!」


 男子生徒が僕にカンニング疑惑を投げかけた。周りも「そうだ! そうだ!」と騒ぎだした。いや、僕はカンニングはしてないんだけど……。


 バン! っと斜め後方から机を叩く音が聞こえた。


「皆さん! ルイン様に失礼ですよ! ルイン様はカンニングするような方ではありません!」


 そう声を上げたのはレミーナ様だった。


「落ち着け王女様」

「ですが先生……」

「俺もルインはカンニングしていないと思うぞ。ただお前達がどう考えるかはお前達で考えろ。人を疑うことは時として必要だが、このクラスには貴族も多い。将来は貴族の矜持を背負う立場の者達だ。何が正しくて何が間違いなのかを養うことも大切だぞ」


 おおおお! この担任良いことを言う! ノブレスオブリージュか。平民の僕には関係ないけどね。そして先生の発言に薫陶を受ける学院生がいる中で、王族であるアーベルト様は鼻クソを掘って丸めて捨てていた。その丸めた鼻クソが前に座るニーチェ様の髪に付いてしまったことは黙っておこう。


「……貴族の矜持……」


 隣のカトレア様が小さく呟く声が聞こえた。


♢♢♢


 その日の放課後、僕はテスト勉強で借りていた本を返すために図書室を訪れた。


 ゲームでは図書室に行けば必ず会えるカトレア様。ゲームでなくとも図書室でしっかりと読書をしていました。


 借りていた本を持ってカトレア様が座る机の脇を通りぬける。どんな本を読んでいるのかと興味が湧き、チラッと本を覗き見た。


 古代書の様だ。古代書とは千年以上前に栄えていた古代魔法文明時代の書物で、当時の古代語で書かれているために、古代学や古代魔術学に興味がある人以外は中々手に取らない書物である。


 僕は時空魔法の古代魔導書が、体に取り込まれた影響なんだと思うけど、古代語が分かるようになっていた。勿論専門的な難しい文は無理だけど、古代の日常語は問題なく分かる。そしてカトレア様が読んでいた本は……。


「えええええええええ!」


 チラッと内容を見て激しく動揺してしまい、僕は大きな声を出してしまった。


「な、何なの貴方は! 図書室で大きな声を出さないで下さい!」

「す、すみません」


 カトレア様に怒られてしまった。


「で、何故大きな声を出したのですか!」


 キッと僕を睨むカトレア様。美人に睨まれると怖いです。


「い、いえ、別に……」


 これは個人の趣味であり、女の子ならよくあることだ。ただ清廉潔白なカトレア様だったので驚いてしまったのだ。


「ハッキリと言って頂けないかしら!」


 ええええええええええ!


「早く言いなさい!」


 流石に僕も恥ずかしいので、カトレア様の耳近くで小さく囁いた。


「カトレア様がBL本を読んでいたのが、意外だったので」

「………ビッ!」


 パーン!


 頬が痛いッス。カトレア様は僕の頬をはたき、涙目で僕を睨みつけた。


「馬鹿にしないで下さい!これは古代の恋愛小説です!」


 うん。BLは立派な恋愛小説ですよね?


「オイ、お前ら~、図書室では静かにしろ~」


 金髪ボサボサ髪で頭を掻きながら現れたのは白衣を着た女の先生だった。化粧っけの一つもない顔だけど美人の先生だ。ん~? 誰かに似ている様な?


「何を騒いでいたんだ?」

「こ、この人が私を侮辱したんです!」

「そうなのか?」


 キッと先生が僕を睨んだ。


「すみません。趣味嗜好に口を出した僕が悪いのです」

「しゅ……趣味嗜好って! だから私はBLなんて読んでません!」

「え、でもその本は……」

「だからこれは古代の恋愛小説です!ですよね先生!」

「いや、カトレア、お前が読んでいるのはBL本だぞ」

「…………え? でも先生がこれを……」

「だってお前が古代の恋愛小説を読んで古代語を勉強したいって言ってたろ? 女の子が読む恋愛小説つったらBL本が鉄板だろ?」


 ……いや、だろ? って言われても困ります。しかもBLが鉄板って……先生腐ってます?


 カトレア様は真っ白になり呆けてしまった。口から何やら魂の様なものが出てしまっているのはきっと気のせいだ。


「オイお前、名前は?」

「あ、はい、ルインです」

「ルインか、覚えておこう。で、何でこれがBLだって分かった?」

「いや、だって、ここら辺の描写が……」

「そこか? 何て書いてあるんだ?」

「……く、口にするんですか!? 男の僕が! これを!?」

「早く読んでくれ」


 と言う先生の口がニヤリと笑ったのは気のせいじゃないよね!しかし先生の指示であれば読まない訳にはいかない。僕は大きく息を吸ってそれを読み始めた。


「『か、カイン、焦らさないでくれ』

『ワリいなアベル、お前のピーが桃みたいで見とれてしまった』

『は、早く……僕はもう我慢出来ない』

『今からお前のピーに俺のピーでお前を行かせてやるからな』

『ああカイン、君のピーが僕のピーにピーするんだね、僕は、僕は』僕はもう読めませ~~~ん!」

「「「ええええええ~~~」」」


 見れば図書室にいた女の子達が頬を紅潮させ、瞳を輝かせて僕を見ていた。君たちも腐女子なの?


「続きを~続きを~」

「ハアハア」

「美少年のBL朗読……尊い」

「お姉様……私……いきそうですわ」


 腐女子でした。


「先生!これ18禁ですよね!?」

「どうやらそうだったみたいだな」

「みたいだなって、図書室に置くときに確認しますよね?」

「古代本は解読出来ない単語も多いからな~。いや~、そのワードがピーだったとは私も知らなかったよ。ピーを読めるルインは凄いな」


 先生に褒められた! 周囲の女の子達も沢山の拍手をしてくれる! 褒められているんだよね! 褒められているんだけど嬉しくないのは何故だろう! 何でだろうね!


 その頃にはカトレア様は謎のエクトプラズムを出して倒れていましたとさ。



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