第6話 幼女万歳! 結婚して下さい!

 それから数日、あの時の不敬は咎められる事もなく、平穏無事に過ごした。いや、妙な視線を感じて、右斜め後方の其方を見ると、王女様がニコッと笑って僕と目が合うことが何回かあった。都度、僕は慌てて視線を外して正面を向く。


 そして運命の日の1週間前のお休みの日。修練度を上げに森に行きたいが例の魔物騒動が落ち着いていない為に冒険者やハンター以外は森に入れないとの事だ。


 そんな訳でお金が無い僕が出掛けられそうなのは近くの公園ぐらいだ。宿で朝食を食べた後に公園に出掛けながら、空間把握魔法がまだパッシブで使えないので意識して魔法を行使する。


 ここ最近は歩きながら使っても足元がふらつくことがない程度には魔法に慣れた。それでも街中で行き交う人達にぶつからない様に気を付けて歩く。


 街中にある公園はそれなりに広く、公園の中央には大きな池がある。僕はその池の畔りにあるベンチに座り、池の中を含めて空間把握魔法を使う。日頃どうしても平面での意識が強いので、上方向の空と下方向の池の中を使って3次元的な感覚を養う。


 目線は池に向けてぼーっとしている為か周囲からは変な人と思われている様だよ。


「ね~お姉ちゃん、あのお兄ちゃん、どうしたのかな~?」

「マヤちゃん、変な者は見ないの!

忘れなさい」

「は~~~い、変な物は見ないするね~~~」


 変な者ではなく何故か物扱いになっているが、僕は気にしないよ。学院でも似たようなものだしね。あれ?目から水が出て来るよ?おかしいな?あは、あはははは……ははは……は……。


「……帰ろっかな」


 暖かい春の日差しの中、僕の心に木枯らしが吹いてきたので宿に帰ることにした。ベンチから立ち上がり軽く伸びをする。おや? 僕の空間把握のエリアの中で、何かが空へと上がっていく。


「ああああああああああっ! あたしの風船があ~~~~~~」


 声の方を見れば先ほど近くで話しをしていただろう小さな女の子とそのお姉さんがいて、小さな女の子が、手から離れて飛んでいく風船を追いかけ走っている。しかしその先にあるのは池だ。


「マヤちゃあああんっ! そっちはダメえええええ!」


 お姉さんが慌てて追いかける。小さな女の子は風船を見上げて走っているために、その先にある池には気付かない。って言うかもう落ちる。


「間に合え!」


 地を蹴りダッシュした僕は、先に走っていたお姉さんを抜き去り、小さな女の子に向かう。


 小さな女の子は池に足を伸ばして、そこに地面が無いことに気が付く。


「えっ」


 呆然とする小さな女の子。右足の靴が水面に触れる瞬間、僕は跳躍して女の子をキャッチ。しかし水面方向に跳ねたため、このままでは2人して池に落ちる。


「亜空間シールド!」


 空間操作魔法で作った青白く光る亜空間魔法の盾を水面上に展開。僕が操れる亜空間は魂有るものは入れないという制限がある。逆に魂有るものは弾かれる。それを利用した亜空間シールドだ。それを足場にして空にジャンプ。跳んだ先にたまたま風船があったので序でにキャッチする。


 「ほえ~~~」と小さな女の子は驚いているが、今は気にしてはいられない。


「大丈夫だよ」と優しく笑うものの、またしても池に向かって落ちていくので、空中に亜空間シールドを展開し、それを足場にしてお姉さんのいる池のほとりの方へと跳ねた。そしてお姉さんの近くに、無事に着地が出来た。


 抱えていた小さな女の子を下ろし、キャッチした風船を「はい」と渡す。


「お姉さんの言うことをちゃんと聞かないと危ないよ」


 小さな女の子の頭を優しく撫でる。


「う、うん…うん! うん! うん! ありがとう! カッコいいお兄ちゃん!」


 はっ?今、なんと?


「カッコいい?」

「うん! カッコいいお兄ちゃん!」


 可哀想に……、この子はだいぶ目が悪いみたいだね。僕がカッコいい筈は無いからね。


「あはは、冗談でも嬉しいよ。ありがとう」

「本当だよ! 本当にお兄ちゃんカッコいいもん! お空だってビュンビュン飛んじゃうし!」


 ええ子や~! ホンマにええ子や~! 思わず「結婚して下さい!」と声に出掛かるが、それをゴクンと飲み込む。それを言ったら幼女趣味の変態野郎確定だからね!


「そっか~、お兄さん生まれて初めてカッコいいって言われたよ。ありがとうね」


 またまた女の子の頭を優しく撫で、「それじゃ、気を付けるんだよ」と言ってその場を立ち去った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る