第5話 死刑!? こんな所にも死亡フラグが!
「お前聞いたか?」
「何をだよ」
「朝に同じ宿の冒険者の人達が話してたんだけどさ、知っているか?」
「だから何をだよ」
「王都の近くの森に最近ヤバい魔物が出たって話しだぜ」
朝のホームルーム前の時間、僕の席の近くの男子達が何やらヤバゲな話しをしている。
「ヤバい魔物って何だよ」
「それが分からないらしい」
近くの森なら僕も昨夜に行った場所だ。そんなヤバい魔物がいたのか!?
「何でも森に行った冒険者パーティーがトロルやオーガを見つけたって話しだぜ」
「あのトロルやオーガがか!」
僕もトロルやオーガを倒したけど……。
「全部の死骸の首が胴体から鋭利な刃物みたいなもので斬り落とされていたらしい」
「マジかよ! 何だその魔物は!?」
「冒険者達も正体が分からないらしいぜ」
僕も空間切断魔法で首を刈りまくったけど、マジックバッグに収納した……よね? あれ? 幾つか入れ忘れたかな? ……暗かったし……。
「………………」
うん! 今の話しは聞かなかったことにしよう!
♢♢♢
昼休みはいつも校舎裏にあるベンチで、昼食のパンを食べている。学生食堂もあるけど、基本が貴族様価格なため、平民の僕からしたら毎日そんなに高い豪華なランチを食べることなんか出来やしない。
校舎裏には幾つかベンチがポツリポツリとあり、僕みたいなボッチな子が各ベンチに1人座り寂しくランチを食べていたりする。
パンを食べ終わり、僕は空間把握の魔法の練習をする。この魔法はアクティブ系魔法なのだが、修練度でパッシブ系魔法にすることが出来ると魔導書に書かれていた。常時発動に出来れば何かと便利だからね。
空間把握魔法を唱えてふらふらと歩く。視覚や聴覚、足裏などからの感覚の中に、新たな感覚として空間把握によるビジョンが混ざってくる。
並列思考などのスキルの無い状態で新たな感覚が増えるている今、頭は船酔いのような感覚でめっちゃめちゃ気持ち悪い。この感覚に慣れないとパッシブに使うことは出来ないだろうと思う。
僕は校舎裏からフラフラ~フラフラ~とヨタヨタ足で校舎の表側に出る。前の方に2人の女の子がいる。ぶつからない様に気を付けようと思った矢先に、空間把握の範囲に飛来物が来るのを察知した。
其方の方を見上げれは野球の玉が放物線を描いて飛んで来ている。あの軌道なら僕には当たらないな。……僕には当たらないが、前の女の子達には当たりそうだな。
地面を蹴ってピュンと跳ねる。魔物退治での経験値アップの甲斐が会って跳躍力も上がっている。空中で野球の玉をキャッチして着地……あっ!?
パしゃん
着地点には花壇の水撒きで出来た水溜まりがあった。
「ちょっとあんたあ! 何してくれちゃってるのよ!」
女の子の1人が僕の胸ぐらを掴み怒鳴り散らす。
「あんた! 誰に泥を飛ばした分かってんの!」
え~? この子は誰だっけ? 自慢じゃないが、クラスメイトの顔も名前も碌に覚えていない。
「す、済みません」
「私に誤って如何すんのよ! 謝るのはあちらのお方よ!」
あちらを見ればそこには清楚で可憐、緩いウェーブの掛かった金髪の美少女がいる。
「ひ、姫様!」
清楚可憐な女の子はセントシエル王国の第2王女レミーナ様だった! そしてレミーナ様のスカート、白磁のような御御足と白い靴下に僕が飛ばした泥がついているよ!
「す、すみません!」
胸ぐらを掴む女の子の手から逃れてその場で土下座して謝る僕。
「本当にすみませんでしたあ!」
土下座くらいで済むことを祈りたい。王族や貴族への不敬で首が飛ぶ話はそこら中に転がっている。死亡フラグがこんな所にも有りました! 前世の記憶が『死刑』って尻をふる子供刑事の映像を思い出していた。
「大丈夫ですよ」
鈴の音の様な澄んだ声で、そして女神のような優しい微笑みで、大丈夫と言ってくれる王女様。何て優しいんだ! 僕は今、猛烈に感動している!
「大丈夫じゃないです! 王女様ともあろうお方が、泥の着いたお洋服では午後の授業は受けられません!」
「そうですね……困りましたわ」
優しく僕に微笑んでくれた顔が少しショボンとしている。
「ちょっといいですか?」
僕は立ち上がり、王女様の近くによって膝を着いた。そして手を翳して魔法を唱える。
「……∀∧♭∮∋*♭♭∂∇∧」
「え!?」
「何?」
王女様のスカートや御御足、靴下についた泥が剥がれ、泥達は元の水溜まりへと帰っていく。白い靴下にも染み1つなく綺麗になった。
「あんた、クリーンの魔法が使えるんだ!」
「えっ、ええ、まあ……」
王女様ではない方の女の子が少し褒めてくれたけど、この魔法は水属性魔法のクリーンではない。僕の魔法自体はショボイけど、ジャンル的には超ヤバい魔法に属する。
「あの~、今のは……」
王女様が少し驚いた顔で僕を見ている。さて何て答えようか。って時にボールが飛んできたグランドの方から男子生徒が走ってくる。
「オーイ! 大丈夫かあ!」
左手に野球のグラブをしている。彼らが遊んでいた野球の玉が飛んで来たのだ。僕は左手に持っていたボールを右手に持ち替えて男子生徒に投げ返す。「えっ」「あっ」と王女様達が僕がボールを投げ返すのを見て驚いている。
「大丈夫だったよ」
「おう、そっか、玉サンキュー!」
グラブで受け取った男子生徒はグランドの方へ戻って行った。そして今が立ち去るチャンスだ。
「ぼ、僕もこれで失礼します!」
僕は校舎の方に走って逃げた。
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