第4話 ボッチの決意

 やってしまったかもしれない……。僕は調子に乗ってこの1週間の間、学院が終わるとテレポートで森に跳び、荒くれメタルナイトスライムを大量ジェノサイドしたり、覚えたての時空魔法を使い、魔物を大量ジェノサイドしたりしてしまった……。


「……僕のレベル……どれくらいだろう……?」


 目の前に首無しで横たわる、災害クラスB級のトロルや災害クラスC級のオーガの山を見て溜め息をつく。レベル計測は学院やギルドなどでしか計測出来ない。目安としてトロルの討伐レベルが30で、レベル30は騎士クラスになる。そのトロルを無双できてしまう時空魔法のぶっ壊れ具合はマジヤバい。


 気が付けば今日も東の空が明るくなってきていた。


「……やっちゃったものは仕方ない……帰ろう」


 倒した魔物はリュックに入れる。これだけの魔物の死骸を放置するのは気が引けたからだ。僕のリュックは空間操作魔法を使って作った、亜空間に物を入れられるマジックバッグになっている。


 この亜空間だけど、僕がここ数日で分かった事は、先ずは果てしなく広いってこと。多分この世界に並行して存在している無の空間だ。そして亜空間内には『魂有る者』は入れない条件があり、亜空間内には時間的概念は存在していない。


 僕のマジックバッグは、その広い亜空間に部屋を作り、その部屋の座標をリュックの中に固定する感じで作成出来る。


 更にはその部屋の中を幾つかに仕切られた小部屋があり、収納時は用途別の小部屋に入れる。そうでないと取り出す時に苦労するからだ。


 因みに取り出す時には、マジックバッグの亜空間内を、空間把握魔法でサーチして取り出す。ゲームのようなインベントリリストみたいなものは無いから不便だよね。


 亜空間内は時間の流れが無いので、倒した魔物が腐ることはない。いずれは素材として役に立つことを期待しよう。


「テレポート」


 覚えたての空間転位魔物で宿の部屋へと跳んだ。テレポートの魔法は座標指定型で、見える範囲の場所、空間把握魔法で座標指定が出来る場所、過去に訪れて座標指定が可能な場所に限られた。前世のSFと呼ばれる記憶から考えると空間歪曲的なテレポートであると思われる。


 早朝に帰宅した僕は、汚れた体をタオルで拭き学院服に着替えた。


 まだ時間も有るので空間把握魔法を練習してみる。空間把握魔法は魔力で広げた範囲内でおおざっぱに状況把握が出来る魔法だ。例えばこの宿屋にいる人の場所が分かる程度の魔法である。


 更に上位魔法の索敵魔法を練習する。索敵魔法は空間把握魔法よりも狭い範囲となるが、より詳細な状況を把握できる。


 宿屋の状況として1階では宿屋の旦那さんと女将さんがいて、他の客はまだ部屋にいるって事が分かった。


 部屋にいると眠ってしまいそうなので、早い朝食を食べてさっさと学院に登校した。


 早朝の学院に通う生徒は誰もいない。門を抜けてグラウンド脇を通るとグラウンドを走っている人影が見える。綺麗な淡い青みのかかった長い銀髪が揺れるたびに、朝の暖かい日差しに反射してキラキラと光る。


「……綺麗だ……」


 キラキラ光る髪だけではなく、グラウンドを走る女の子が絶世の美少女なのだ。吟遊詩人達に美しき戦姫として詩われる公爵令嬢のエレナ様。男子学生の憧れの的であるエレナ様の走る姿に見惚れているうちに、エレナ様が僕の近くを走り抜ける。


「おはよう」

「えっ!? あっ……」


 エレナ様が僕に朝の挨拶をして走り去って行く……。僕は戸惑い返す言葉も出なかった。何故なら学院に入って初めて挨拶をされたからだ。勿論エレナ様だけではなく誰からも挨拶をされたことがない!


 入学そうそうに暴走編の第2王子アーベルト様に睨まれてしまった平民の僕と仲良くしようなどと思う学友がいる筈もなく、ボッチ街道まっしぐらな僕だ。挨拶の一つもされる事がないのは仕方が無い。


 しかしそんな僕にあのエレナ様が挨拶をしてくれた。ニコッと微笑まれた訳ではないが、僕は感動に打ちひしがれて、エレナ様の後ろ姿にぼーっと見とれていた。


 暴走編のシナリオでは、あのエレナ様がアーベルト様の奴隷になる未来が待っている。あの美しく勇ましいエレナ様が……。


 僕は僕が死ぬ未来を変える。僕が未来を変えられるのなら、エレナ様の未来も変えられる筈だ。未来が変わる事を僕が証明して見せる。僕は拳をギュッと硬く握りしめ、野営会に望む想いを更に強くした。

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