第3話 ヤバい魔法を覚えたよ

 今週の休みもやって来ましたチュートリアルダンジョン! 僕の死亡フラグまで後3週間、クラスのことなどは気にしてはいられないよ!


 松明を照らしさっそくダンジョンに入る。レベル1ゴブリンが出てきたので包丁箒の短槍で瞬殺する。先週はこれを繰り返したが今日は違う。今の僕ではレベル1ゴブリンの経験値じゃレベルアップが遠い。そこで前世の記憶にある隠し部屋を探す。チュートリアルダンジョンに行くと決めた本当の目的はこの隠し部屋だ。


 隠し部屋は、ダンジョン内に5カ所あるスイッチを押すことで開かれる。スイッチは岩の形をしているため、隠し部屋の存在を知らなければスルーしてしまうだろう(そもそも誰も来ないダンジョンだけど…)。当然僕は前世の記憶で隠しスイッチの場所は把握していた。


「よし、これで開くぞ」


 全てのスイッチを押すと行き止まりだったダンジョンの奥の岩が動き隠し部屋が現れた。部屋の大きさは僕が寝泊まりしている部屋の5倍程度と意外に広い。そして部屋の奥に宝箱が1つ置かれている。


 僕は松明で明かりを灯しながら奥まで進み宝箱を開けた。


「あれ?」


 中には1冊の本が入っている。ゲームでは宝箱を開けると『テレポートの呪文を覚えた』となっていたのだけど……?


 このチュートリアルダンジョンの隠し部屋は、ゲームでは『第2王子冒険者編』の中盤頃に訪れる部屋だ。冒険者編は第2王子が世界中を冒険し、最後に魔王を倒すストーリーとなっていた。とは言え学院にも通いヒロインと仲良くする活動も行う。その為に第2王子は長距離移動の手段が必要であり、この宝箱を開けてテレポートの呪文を覚えた。


 僕が死亡フラグを回避する為に、野営会でデスベアーに襲われた時にテレポートの魔法で逃げるつもりだった。魔法を覚える手段の1つとして呪文スクロールがある。スクロールには単発系と取得系が有り、単発系は1回使ったら終わりで、取得系はその呪文を覚えることが出来る。僕はてっきり取得系のテレポートのスクロールが入っているとばかり思っていた。


 因みにテレポートの魔法は古代魔法文明のロストマジックで、この世界で使える人はいない。ただ、テレポートのスクロールは古代遺跡やダンジョンなどから極稀に見つかることがある激レアアイテムで、しかも単発系である。しかしゲームの流れ的にここで見つかるテレポートのスクロールは取得系であると思っていたんだけど……。


「これって魔導書だよな……」


 魔導書とは魔術師の中でも特に優秀な魔術師が魔術を伝える為に書き上げるもので、かなり価値の高いものだ。


「……古代魔法文字?」


 僕は宝箱から魔導書を取り出し表紙を見ると見慣れない魔法文字が書かれている。古代魔法文字は遙か昔に滅びた魔法人が使っていた文字で、その時代には今よりも高度な魔法があったと言われている。


 僕が読めもしない魔導書をペラペラとめくると魔導書が輝き出した。


「えええええええええっ!?」


 僕の手の上で輝いた魔導書が突然消えてなくなる。そして僕の頭の中にその魔導書に書かれていた内容が刷り込まれた。


「……時空魔法……初級編?」


 時空魔法ってなんだ? 僕はそんな魔法を知らない。時魔法? 空間魔法? えっ、そうなの!?


 時を操る魔法なんて存在するのか? 空間魔法はテレポートや空間把握などで超レアなスクロールとしてその存在は知っていたけど……。


 僕の頭の中に刷り込まれた時空魔法初級編を紐解く。この魔導書はどうやら学校の先生ができの悪い生徒用に綴ったものらしい。それでも高度な古代魔法文明の遺物だけあって、今の時代には無い魔法がたくさん綴られているのが分かる。その中にはお目当てのテレポートの魔法もあった。


「……大変な事になっちゃった……」


 僕の頭の中にリストアップされた時空魔法リスト。これが初級編かよ! ってぐらいにやばい魔法がある。


「な、なんだコレは!? 空間把握魔法、空間転位魔法、空間操作魔法、時間操作魔法……」


 時空魔法には異世界お約束の空間収納魔法まであった。時間操作系の魔法は数分の僅かな時間操作だけど、めちゃくちゃヤバい魔法だ!


 呆けている場合じゃない。3週間後には僕の命がかかっているんだ。テレポートが使えるレベルにまでならないと死んでしまう。


 この部屋に入って5分くらい立つ。


「そろそろかな?」


 僕はこの部屋の中央付近に移動して、それが湧いてくるのを待つ。このダンジョンに来た3つの理由はこの部屋に出現するモンスターだ。所謂エクストラモンスターと呼ばれる魔物で、 出てくる魔物は……。


「出る……!」


 目の前の足元の床が輝き魔物がポップしはじめる。


「りゃあああ!」


 ポップした直後の魔物に全力で包丁箒の短槍を突き刺す。現れた魔物は一撃で死亡。そして大量の魔物の魔素が空気中に漂い僕の体に吸収された。


「……一匹でこの魔素量」


 前世の記憶で分かってはいたが、体感すると得られた経験値は半端ないことが実感出来た。僕の足元に現れたのは荒くれメタルナイトスライムだ。スピード超特化の魔物で災害クラスはB級だが、その攻撃力は金属ボディを槍状にして超スピードで突貫してくるため、レベル30クラスの騎士でも一撃で死亡するほど高い。


 そして特筆すべきは得られる経験値の多さだ。ゲームなら今の一匹で僕の経験値はかなり上がっている筈だ。故にエクストラモンスターと言われているのだが、何しろスピードが速く攻撃が当たらない。その代わりに紙装甲と低HPなので当たれば一発で死ぬ。


 但し、このダンジョンに限って言えば攻略法が有り、ポップする場所が決まっているため、ポップ直後に一撃を加えれば簡単に倒すことが出来ちゃう。


 そして待つこと10分、荒くれメタルナイトスライムがリポップした。


「うりゃあああああ!」


 その日はリポップする荒くれメタルナイトスライムを日が暮れるまで倒しまくった。




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