第2話 レベルを上げねば死んでしまう

 僕の名前はルイン・ドロン。セントシエル王国の南方にある小さな町の商人の長男として生まれた。小さな町の小さな学校で天童と持て囃され、その気になってしまった両親が王都にある王立セントシエル学院に上げてくれた。


 入学してみれば成績は中の下。多少の魔法が使えるぐらいでは全然駄目だった。そして田舎者の僕が貴族様などの上流階級の人達と馴染める筈も無く、入学1ヶ月にしてクラスカースト下位のボッチ君になっていた。


 そして国内最大の名門校だけあって学費も半端ない。高額の入学費を工面してくれた両親には感謝の気持ちしかなく、ボッチなんか全然平気だし、こんな所で死んでいられない。


 学院には併設する学院寮が有るが、地方からの貴族様の御子息、御息女が住むだけに寮費もバカ高く、僕は近くの学生向けの宿で寝泊まりしている。僕みたいな平民の学生はほとんどがそうしている。


 そして僕は机とベッドしかない小さな部屋で、明日の休みに向かうダンジョンの為の荷造りをしていた。


「ヨシ! 見た目は酷いけど何とかなりそうだ」


 明日行くダンジョンは、ゲームの最初に行くチュートリアルの初心者向けダンジョンだ。戦闘などした事がない僕がたった1ヶ月で災害クラスB級のデスベアーに勝てる筈がない。普通にやっていればだけどね。


 何はともあれ武器と防具は必要だったので、包丁に箒の柄を巻き付けた短槍と、お鍋でヘルメットと胸当てを拵えた。僕が使える程度の弱い魔法より、確実にダメージを出せる物理攻撃の方が今回は有効だ。包丁だけどね。


♢♢♢


 やって来ましたチュートリアルダンジョン。初心者の冒険者さえも立ち寄らない、入って10Mで終わるショボイダンジョンだ。出て来るのはレベル1ゴブリン。森で生まれたゴブリンで、レベル1なんて言ったら赤ちゃんゴブリンぐらいだろう。その程度の超ザコゴブリンを冒険者が求めてやって来る筈がない。


 僕の現在のレベルは6。平民の15

歳でレベル6は即冒険者になれる逸材だが、学院では中の下。上位陣はレベル15前後、あの第2王子であるアーベルト様に至ってはレベル18。既に上級衛士クラスだ。腐っていても主人公キャラって事だね。


 レベルは熟練値と経験値の掛け合わせでレベルアップする。熟練値は修練や教練、勉学で得られ、経験値は修練と実戦で得られる。


 ゲームでは経験値だけでレベルが上がったが、この世界では熟練値という勉強や教練でもレベルが上がる。詰まるところ頭でっかちでもダメだし、実戦ばかりで基礎的な知識が無いとレベルが上がらない。


 貴族様達は小さい頃から修練と勉学を行っている事から熟練値と経験値があり、同年代でもレベルが高いのは当たり前だ。


 僕は勉学はしてきたから熟練値は程々有るが、修練も実戦もほとんど無いため経験値が低い。これがレベルが低い原因の1つだ。


 そこでこのチュートリアルダンジョンだ。魔物を倒すと魔物の魔素が体に流れ経験値を得られる。ここで実戦を積み重ね経験値を得るのが目的の1つ。


 とは言えレベル10や20程度では災害クラスB級のデスベアーから逃げ切るのは困難だ。単独であれば最低でも騎士クラスのレベル30は必要だろう。


「何はともあれ中に入ろう」


 左手に松明、右手に包丁箒の短槍を握りチュートリアルダンジョンに足を踏み入れる。チュートリアルダンジョンではレベル1ゴブリンが一匹出て終わる。ダンジョンから一度出ないとリポップしない。


「出たな! えい!」


 松明が照らす薄明かりのダンジョンで緑色の肌をした低級モンスターのゴブリンと遭遇。すかさず短槍で突き殺す。一撃で死んだゴブリンは霧のように消えて、漂う魔素が僕を包みほんの僅かな経験値が流れこむ。一度ダンジョンを出てリポップしたゴブリンを倒す。


 こんな作業を丸一日行った結果、それなりの手応えを感じている。レベルの確認はゲームのようなステータス表示などはなく、学院にあるレベル確認の魔導具で調べないと分からない。因みにこの魔導具は冒険者ギルドなどの各種ギルドにも置かれている。


♢♢♢


 平日はさぼらないで学院にはちゃんと行くよ。前世の記憶はほぼ『ドキプリ』のことだけで、それ以外のことはあまり思い出せない。それでも前世での高等教育の影響だろう、学院で受ける授業が以前より理解しやすくなった。特に算術は楽勝レベルだ。次の試験では良い結果が出せそうだね。


 クラスの雰囲気は相変わらずで、隣に座る侯爵令嬢のカトレア様も相変わらず僕をガン無視だ。そんなカトレア様が鉛筆を落としたので拾ってあげる。


「落としましたよ」

「ふん!」


 これだよ。



 体育の授業ではゴブリン退治の成果もあり以前より体が動いた。体育の授業はバスケットボール。相手チームからボールをスティールしてドリブルで走り出す。味方は誰もついてこれなかったので、1人でリング下までボールを運びレイアップシュートを決めた。


 しかし周囲からは「何を今さら頑張ってるんだか」「体育祭があれじゃあね」「カスのくせに」「死ね」などなど評価は上がらない。やれやれ。


 一先ず僕は学院ライフよりも頑張らなくちゃいけない事がある。そう! 僕の命がかかった事だ!週末に向けて体調は整えて行う。


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