5
「ちがいます」
「本当にちがいますか」
「ちがいます」
「それでは、しかたありませんね。証拠はありませんから。単なる探偵の余興としてやっていることです。逮捕しようとか、世間的に追い詰めようなどという悪意は微塵もございません。しかし、もし、これが自殺ではなく、殺人であったなら、真相は暴かれなければならない」
静さんは黙っていた。
「確かに、まだ証拠はありません。ですが、まだないだけです。いつか、見つかるかもしれませんね。あの事件が自殺ではなく、他殺だと知られたら。そうなったら、都合が悪いのは、奥さんなんじゃありませんか」
「いえ、あまり、主人と、そして、Kさんを侮辱するようなことはおっしゃらないでください」
「はい。わかりました。もう一人、話したい方がいるので、その人と話したら、わたしはすぐ帰ります。話したい相手というのは、あなたです」
わたしはびしっと指を指した。別室で様子を見ているらしき下女であった。
「これは仮説です。この家で下女として働いているあなた。ずいぶん、古くから働いていらっしゃるのではないですか? というのもですね。こういう可能性も考えられるわけです。三十年前にKと静さんの間で三角関係にあった一人の女が、嫉妬に狂ってKを殺し、自殺として隠蔽し、静さんの一生を不幸にするために付きまとっていた。と、こういう可能性もあるわけです。そして、先日、その女は隙を見て、先生を自殺に見せかけて殺した。どうです、この可能性は? 下女のあなた、あなたの名前は何というのですか?」
「妻(さい)です」
わたしはびっくりした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます