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そして、わたしは先生の家までやってきた。玄関を叩くと、下女が出てきて、中に通してくれた。
「あら、何の用でしょう」
すでに高齢ながら、まだ美しさと気品を残しつつある女性が中には居た。
「失礼ですが、先生の奥さん、つまり、静(しず)さんでしょうか」
わたしは単刀直入に話すことにした。
「ええ。わたしが静(しず)でございます。あの人の妻でした」
「そうですか」
静さんは落ち着いていた。まったく動揺しているそぶりはない。しかし、決して、気品のある女性だからといって無罪なわけではない。
「わたしは探偵です」
「あら、探偵さん」
「そうです」
「探偵さんが何の用でしょう」
「いわなくてもわかっているでしょう。先日起きた不審死について、うかがいたいことがあって来たのです。いえ、先日の不審死だけでなく、三十年前のKという男の不審死についてもね」
静さんは、手をはたりと落とし、軽い動揺を見せた。
「不審死?」
「そうです。不審死です」
「わたしには悲しいことですわ」
「ええ、悲しいことです。ですが、自殺と本に書いてあったから、現実の事件が自殺であるなどという証拠にはまったくなりません。いわば、わたしは、奥さんを疑っているわけです」
「まあ」
静さんは穏やかに、それは穏やかに驚かれた。
「そう、平然としていられるのも今のうちです。あなたは夫である先生を殺した。それだけではなく、三十年前、自分に言い寄ってきたいやらしい男Kも、殺した。そうでしょう」
わたしは、奥さんの前で、顔を近づけてすごんだ。
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