「この人が先生なんですか?」

 わたしが書生さんに確認を求めると、

「いえ、ちがいます」

 とはっきりと否定された。

「じゃあ、誰なんだ」

「ですから、わたしと将棋を指していた相手です」

 ああ、なるほど。

「からかってすまなかったね。書生くんの先生は死んだよ。まちがいなく」

 わたしは不謹慎なことにほっとした。

「あなたは犯人じゃないんですか」

「ちがいますよ。わたしはアリバイもありますし、ただ将棋を指した相手として出てくるだけです」

「ちょっと待ってください。それでは、怪しい人物に一通りこれから会いに行きますから」

「どうぞ。ご自由に。悪い人じゃなさそうだし」

 書生さんに案内されて、わたしは、書生さんを冒頭で海水浴に誘った友人と、海水浴場で出会った西洋人っと、書生さんの父と母に会った。

 そして、いよいよ、次は、先生の奥さん、静(しず)さんに会いに、先生の家まで出かけていったのだった。書生さんたちは、先生の家まではついてこなかった。

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