第3話 燕雀いずくんぞ

 紀元前221年、始皇帝が中華を統一し、諸制度を統一して、永遠につづくべき理想郷

を築いた。始皇帝は、中華の皇帝に即位し、およそ考えられるすべてのことを、完璧につくりあげた。逆らうことのできるものはいなかったし、始皇帝はそれをなしとげるほどに優秀だった。始皇帝は、民間の武器所持を禁止した。これは、現代日本で大きな成果をあげている政策である。また、始皇帝は、度量衡を統一し、貨幣を統一し、車の幅を統一し、漢字の標準文字を定めた。理想郷がつくられたと、人々は思った。

 そして、紀元前210年、始皇帝は病没した。

 話は遡って、楚の農村に陳勝という若者がいた。彼は、農民のくせに天下国家を論じ、始皇帝の政治を褒め称えた。

 聞いていた仲間が嫌気がさして、注意した。

「おい、陳勝。おまえ、ただの農民のくせにそんなこと考えても意味がないぞ」

 陳勝はそれを聞いて嘆いた。

「燕雀いずくんぞ、鴻鵠の志しを知らんや」

 ただの農夫である陳勝は、天下国家を研究して生きていた。

 そして、始皇帝が死に、紀元前209年、陳勝たちに夫役の仕事が命じられた。この始皇帝によって統一された理想郷では、すべての仕事は計算通りにつくられていた。すべてを計算通りにつくること、これが始皇帝の残した遺産であった。

 しかし、雨が降り、陳勝たちの隊は、荷物を運ぶのに遅刻してしまった。遅刻したら、死刑だ。計算通りにつくられた世界で、計算をくるわせれば死刑になるのだ。

 仲間たちが悲しくて涙を流していた時、陳勝は呼びかけた。

「雨が降ったからって、死刑になる世界がどこにある。そんなことが許されていいわけがない。雨が降ることを計算していない政府が悪いんだ。おとなしく死刑になることはない! 攻め込むぞ、みんな」

 一人の仲間がいった。

「だが、おれたちが原因で計算通りの世界を乱していいのだろうか。おとなしく死刑になるのが天下国家のためではないか」

 陳勝はいった。

「おれたちは完全な世界ができたと聞かされてきた。だけども、雨が降った。おれたちは悪気はないのに、遅刻した。悪気のない農夫が死刑になる世界は、理想郷なんかじゃない。計算通りの世界は理想郷じゃなかったんだ。理想郷ってのは、まちがいも許してくれる世界だとおれは思う」

 そして、意を決した農夫たちは役人たちに反乱を起こした。

 陳勝、役人より矛を奪い、立ち振る舞うこと、八十回、八十人の役人を斬り倒した。陳勝、その動きは、天の気脈に通じ、地の気脈を動かした。

 反乱は成功した。後にいう、陳勝・呉広の乱である。陳勝は王になる、と反乱軍は宣伝した。陳勝の反乱軍は破竹の快進撃をして、いくつもの城を攻め落とした。

 だが、呉広は、

「おれは逃げる」

 といって、姿を隠そうとした。それで、逆に役人に捕まってしまった。呉広が殺されると、仲間は、

「おれたち農民は、お偉いさんには勝ち目がないんだ」

 と嘆いた。陳勝は

「王侯将相いずくんぞ、種あらんや」

 といった。紀元前208年、天帝、始皇帝の築いた理想郷が崩壊するのに驚いて、わけを聞いた。天帝の臣は、

「陳勝という異分子が原因です」

 と答えた。天帝は怒り、陳勝の死を定めた。ここに、陳勝の死は決定した。

 陳勝は、秦の正規軍との戦争で敗れて死んだ。

 後、天帝が陳勝はどんな悪者だったのか調べてみると、

「陳勝の器は、始皇帝に並ぶかも」

 と出た。天帝、陳勝の死を嘆いたが、すでに遅かった。

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