ヒロインに振り回される
ヒロインズに捕まって説教を受けてから数ヶ月が経ち、俺の誕生日月である七月になった。
ヒロイン達との関係性が変わってきた、現在俺は、兄貴に相談を受けていた。
「デートに着て行く服を選んでくれ?」
「あぁ、そうだ。普段からオシャレなお前なら間違いないだろ。頼む!兄ちゃんを助けてくれ。雄介」
そう言って、頭を下げる兄貴。
俺はその姿を見た後に、部屋の端に畳まれている兄貴の私服を見て溜息を吐く。
兄貴に頼まれていることは普通である。内容は、最近仲の良い銀髪ツインテールのヒロイン
今まで、アニメキャラがプリントされているシャツを平然と着ていた兄貴が、ファッションを気にし出したこ。とても、喜ばしいことだ。
これでもう、隣を歩いても恥ずかしい思いをしなくて済むのだから。協力するのは吝かではない。
が、問題があった。それは…
「そもそも、兄貴の服でデートに着て行けるようなものがないから、選びようがないんだけど」
今まで、ファッションに興味を持たなかったせいでマトモな服がないのだ。
「マジか!一枚くらいないのか?」
「ない。ファッションセンスがないのは知ってたけど、ここまで酷いとは思わなかったわ。白のTシャツすらないのは、もうやばいを通り越して人間辞めてるわ」
どんなにファッションセンスが無い人間でも、無難な服が一枚くらいあるのが普通だが、兄貴はそれがない。あるのはアニメTシャツとステテコパンツ、ジャージのみ。
マジで人間として終わってるぞ、コイツ。
「金はあるのか?」
「あぁ、こんなこともあろうかとお年玉を残しておいた」
「へぇ〜、幾ら」
「ニ千円だ!」
「駄目だ、こりゃ」
そんな雀の涙みたいな端金じゃ、格安の服屋でも上下揃えられない。
「なっ!?二千円だぞ!」
「二千円もあればラノベが三冊買えるんだぞ!大金じゃないか」
「コンビニバイト約二時間ちょいで稼げる額が大金なわけあるか!高校生にもなって、その金銭感覚は終わってるぞ」
「はぁ?なわけあるか俺以外の奴も大抵こんなもんだ」
「学校の規則で出来ないとか腑抜けやがって、高校生になったんだからアルバイトくらいしろや!馬鹿兄貴ーーーーー!」
この怒号を皮切りに、兄貴と俺の取っ組み合いが開始。十分という長い時間をかけ、俺が勝利。夏休みに入ったら、アルバイトをするという約束でお金を貸し兄貴の服を選んで買うのだった。
◇
デート当日。
「似合ってるか?」
俺が選んだ服を着て、髪型をセットした兄貴は流石主人公というべきか、中々様になっていた。これなら白銀も喜んでくれるだろう。
「俺が選んだんだ。当たり前だろ。さっ、行ってこい」
「おう、ありがとな」
そう言って、出掛けていく兄貴を見送り俺は部屋に戻った。
これで、弟しての役目は終わり。
後は、部屋でダラダラと漫画を読んで過ごそうか。
そんなことを考え、本棚に仕舞われている漫画に手を掛けた時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「雄介。愛斗の尾行に行くわよ!」
大声を上げながら入ってきたのは遥ねぇ。
今日の服装はお洒落なワンピースと、尾行に行くと息巻いている癖に全然する気のない格好をしている。
「は?何で。透華ねぇ連れて行けば良いじゃん」
俺は遥ねぇの誘いに本気で困惑した。
遥ねぇが、兄貴の尾行をすることは物語を読んだから知っている。だが、その尾行に連れて行くのは俺ではない。もう一人のヒロインである透華ねぇのはずだ。
「私もそう思って、さっき透華の家に行ったんだけど、今日は買い物に行くって朝から出掛けてるみたいなんだ。だから、雄介におかぶが回ってきたというわけです。じゃあ、そういうわけでレッツゴー!」
「ちょっ、待って!拒否権はないのかよ!」
「ありません!」
困惑する俺を差し置いて、理由を説明し終えるやいなや服の襟首を掴まれ、俺は強制的に尾行に付き合わされる羽目になるのだった。
「愛斗。この服はどうかしら?」
「良いと思う」
「じゃあ、この服は?」
「そっちも良いと思う」
「そう?じゃあ、どっちも買おうかしら?」
服が似合っているかどうか尋ねてくる白銀。それに対して、我が兄貴はラブコメ主人公らしいコメントをしている。
まぁ、白銀は嬉しそうにしているから良いのだが普通ならあんな雑なコメントは嫌だろう。これが恋は盲目というやつかね。
そんなことを思い、視線を兄貴から外し少しだけ視線を上げる。
すると、そこにはもう一人の恋に盲目な少女がいた。
「愛斗に褒めてもらえるなんて羨ましい!」
ハンカチを噛みしめながら、妬ましい視線を二人に向ける遥ねぇ。
俺はそれに対して苦笑いを浮かべ、視線を再び兄貴達に戻す。
原作通りだと、会計に行った白銀がナンパされてそれを兄貴が助けるはずだ。ここは、弟らしく兄貴の勇姿を目に焼き付けてやろう。
そう思い、観察を続けていると白銀が会計に行ったにも関わらず、大きな声が上がらない。
中々イベントが開始しないことに、違和感を覚えた俺は遥ねぇを置いて店の中にこっそりと侵入した。
「どこ行ったんだ。白銀のやつは?」
キョロキョロとレジ付近を見渡しても、白銀の姿がない。俺は店の中を歩き回り、彼女の姿を探すと何故か男性服コーナーにいた。しかも、何故か透華ねぇと。
「……こういのが良いんじゃないかしら?」
「……もう少し大人っぽい方が………び…………」
二人は服を選びながら、コソコソと何かを話し合っている。
何話してるんだ?兄貴が着そうな服の話か?
確かに兄貴と幼馴染である透華ねぇなら、長年一緒にいるから服の好みも分かるだろう。だが、あのアニメTシャツしか着ない兄貴の話を聞いてこんなに悩むだろうか?
どんな話をしているのか興味を惹かれ、もう少しだけ彼女達に近づくことにした。
足跡を消し、ゆっくりと彼女達に近づく。そして、ハッキリと彼女達の声が聞こえそうになったところで予想外の妨害が起こった。
「ねぇ、君ら可愛いね。二人で仲良くデート?俺達も二人だから混ぜてくんない?」
「俺らイケテルから退屈させないよ〜」
本来ここで現れるはずのない、ナンパ野郎が二人現れたのだ。そのせいで、話が中断されてしまい内容は分からずじまい。
俺はタイミングが悪いなと、二人に非難の視線を向けながら状況を見守る。
「結構よ。アンタ達みたいな芯のなさそうな男私嫌いなの。他の女に行きなさい」
「……邪魔」
当然、ヒロイン二人がこんな軽そうな靡くわけもなく、辛辣なコメントと冷ややかな視線をナンパ野郎達に浴びせる。
が、ラブコメにおいてしつこさに定評のあるナンパ野郎。怯むことなく、二人に近づいて行く。
これは、不味い。
そう直感が告げた瞬間、俺は兄貴の姿を探す。しかし、先程までいたはずの場所にいない。
何処に行ったのかと、視線を動かし続けると視界の端で遥ねぇに捕まっているのが見えた。
ラブコメ主人公ーーーー!なにやってんじゃーーー!はよ、こっち来い!ヒロインがピンチやぞ!
俺は心の中で必死に兄貴を呼ぶが、遥ねぇに何か説教みたいなものをされている届くわけもなく。ナンパ野郎達と二人の距離は縮まって行く。
「まぁまぁ、俺達初対面じゃん。芯があるどうかは話してみねぇと分かんねぇって」
「そうそう、とりまあっちの店でお茶しない?」
「嫌って言ってるのが分からないの?貴方達の脳みそは空っぽなのかしら。お断りだって言ってんのよ」
「タイプじゃない」
「釣れないなー。でも、そう言われると逆に燃えるってのが男なんだよね」
下卑た笑みを浮かべ、ナンパ野郎が透華ねぇに手を伸ばす。が、それは透華ねぇに届く前に阻まれる。
一体誰が止めたのか?
兄貴でもない、通りすがり人でもない。
止めたのは、俺だ。
「おい、人の女に手ぇ出してんじゃねぇよ」
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