ヒロインに絡まれる


 いきなり三人とは兄貴恐れ入るぜ。

 まぁ、近々来るのは知ってたんだけど。やはり、リアルで見るとなると凄い。脳が情報を受け取るのを拒否し、数秒ショートしてしまった。


「それにしても、参ったな。面倒なことになったぞ。今日は日直だってのに、原作だとあのヒロインズに絡まれて遅刻するんだよな。それは何とか回避しねぇと」


 俺はどうやってヒロインズに絡まれず、家から出ようかと頭を捻らせる。

 別に日直くらい遅れても良くね?と思われるだろうが、この日直なんとこの間起こした高校生と喧嘩した時の罰なので遅れるとまずい。担任からしこたま怒られてしまうのだ。

 そんなわけで、原作通りヒロインズに絡まれてしまうと俺は物凄く困る。

 「うーん」、と頭を唸らせていルート途中、チョンチョンと背中を突つかれる。振り向くと、そこには透華ねぇが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。


「…どうしたの?」

「いや、兄貴に会いたいという美少女が三人外にいるんだけどさ。あの人達が少し面倒なんだよ」

「…?どうして…愛斗を呼べば解決する」


俺の話を聞いて、ますます意味が分からないと分からないと首を傾げる透華ねぇ。


「そうなんだけどさ、俺の勘が言ってるんだよね。兄貴を呼んだって言って通り過ぎようとすると、絡まれるって。そうなったら遅刻するから、どうしようかなって」

「そう…なら困った。この家に裏道はない」

「そうなんだよな」

「「う〜〜〜ん?」」

「二人ともどうしたの〜?」


二人して頭を悩ませていると、遥ねぇがどうしたのかと声を掛けてきた。


「遥ねぇ。正面から出ると学校に遅刻しそうだから、どうにか正面以外から出る方法を考えてた」

「何それ!?先ずはそこに至るまで、経緯が物凄く気になるんですけど!」

「…後で、私が説明する。それより良い案はない遥?」

「良い案か。うーん……あっ!良いこと思い付いた。私の家から出ればいいじゃん。愛斗の部屋から私の部屋を通って。そうしたら、正面から出なくて済むよ」

「それだ!」


 俺は遥ねぇの案を聞いてその手があったかと、大声を上げた。

 そうだ、我が家と遥ねぇの家との横距離が殆どないため窓を伝って部屋移動ができるのだ。これを使えば、ヒロインズに絡まれず家を出ることが出来る。


「遥ねぇ、鍵借りて良い?」

「いいよ。でも、ちゃんと返してね?」

「うん、ありがと遥ねぇ。学校から帰ったら返すわ」

「分かった。じゃあ、いってらっしゃい雄介」

「いってらっしゃい。…ユウ」

「いってきます」


 俺は二人に見送られ、靴を持って階段を駆け上がって行く。


「……あっ」


その途中、さらに絡まれにくくなる案を思いつき足を止めた。


「遥ねぇ、今外に兄貴に会いたいって美少女が三人いるから兄貴に伝えといて」

「は?」


 あれなら、ヒロインズの注意を引けるだろう。


 俺は遥ねぇの顔から表情が抜け落ちたのを確認すると、兄貴の部屋に入って遥ねぇの部屋に飛び移った。

 そして、これで絡まれずに済むとルンルン気分で遥ねぇの家から外に出ると、最悪なことにヒロインズと顔が合ってしまった。


「……やっべ!」


 俺はすぐ様その場から逃亡を開始する。

 が、悲しいかな。足の遅い俺は、一瞬にして距離を詰めれられ捕まってしまった。


「何でアンタそっちの家から出てきてるのよ!?」

「なんとなくです」

「愛人は呼んでくれましたか~?」

「もうすぐ来ますよ」

「マ、ママ、マジ!?やべ、服装大丈夫かな?アタシ、どうだ?」

「初対面の俺に聞かないでください」


 ヒロインズに囲まれ、次々話しかけられる。

 いや、俺主人公じゃないんだから絡んでくるなよ。外堀から埋めようと考えてるなら父さんとか、母さんにしてくれ。俺はこの物語にもうこれ以上関与したくないから。

 

「あの、急いでるんでもういいですか?遅れるとまずいんで」

「駄目よ。あんたが、舞園さんの家から出てきた理由を吐いてもらわなくちゃ」

「幼馴染で仲がいいからです!以上」


 口早に彼女たちが欲している情報を話すと、ヒロインの間を通り抜け離脱を開始する。


「あ、ちょ待ちなさい!」

「待つわけねぇだろう!こっちは急いでるんだーーーー!……ぐべぇ!」


 が、二度目の逃亡も失敗。ヒロインの一人に襟を掴まれてしまった。


「その話詳しく聞かせてくださーい」

「舞園さんと幼馴染って本当かよ!?」

「あぁ、もう、めんどくせーーーーーーーー」


 こうして、俺は原作通りヒロインズに捕まり学校に遅刻するのだった。


 これが物語を正常に治そうとする強制力の力か。凄まじいぜ。

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