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そういうことで、生態系を管理しているのはモルなのである。実は、いちばん強いのはモルで、いちばん正しいのはモルである。
そんなモルに反抗する登場人物が一人出てくる。
稲のイネさんである。
イネさんは、毎年、植えられては刈りとられる人類でない生き物である。
モルは人類でない生き物をすべて管理している。それもモルとモラの仕事だ。
人類の生態系を管理もしているモルは、全生態系の管理者だといえる。
イネさんは、稲だから人類の世話がなければ生きていけない。人類の世話がなければ快適に生きられないが、命を守る権利がない。
イネさんはモルとモラに管理されており、草食動物のゲババに食べられていく。
イネさんは子供たちに自分の不遇を訴える。
「ねえ、聞いてくださいよ、子供たち。わたしの身にもなってくださいよ。いいですか。わたしは人類に殺されても文句のいえない卑しい奴隷ですよ。わたしは人類に虐待されているのです。特に、農民のつもりでいるモルとモラにです。ひどいじゃないですか。こんなことが許されていいんですか。いったい、人類の作った世界のどこに平等があるっていうのですか。わたしのためを思うなら、あの憎らしいゲババをやっつけてくださいよ。わたしはゲババに食べられるのが怖くて、夜も眠れないんですからね。モルとモラとゲババは大悪人ですよ。子供たち、あんな大人になっちゃいけない。あなたたちは米を食べない肉食動物のミンクみたいになりなさい」
そういうのだ。それで、子供たちもイネさんが可哀相になって、モルにこのことを質問したんだ。
「ねえ、お父さん。どうして、イネさんは人類に生きる権利を奪われているの。どうして、イネさんを食べるゲババをやっつけてしまわないの。イネさんが可哀相じゃないか」
すると、モルは答える。
「いいかい、子供たち。イネさんは人類じゃないんだ。だから、イネさんは守ってやらなくてもいいんだ。イネさんにできる限りのことをしてあげればいいだけで、それ以上の慈愛を注ぐことはとり返しのつかない混乱をつくるものなんだよ。だから、イネさんを守ってやらなくてもいいんだ」
子供たちは納得いかない。
「なんで? お母さんはみんなを平等に愛せというよ。それなのにイネさんは仲間外れなの。そんなのおかしいよ」
モルは答える。そんなことで微塵も迷わない。
「イネさんは人類じゃない。仲間外れにしてもいいんだ」
「残酷だ。残酷だ。お父さんは残酷だ。ついにお父さんが馬脚を現したぞ。お父さんはみんなに平等に愛を注げないんだ。いけないことだ。それはいけないことだよ、お父さん」
子供たちが囃し立てる。
騒ぎ始めて収拾がつかない。
「ぼくはイネさんの代わりに食べられてもいいよ。ぼくがイネさんの代わりに死ぬよ」
子供たちは泣いて訴えた。
モルはいう。
「それはダメだ」
怒ったような声だ。
そして、モルは静かにゆっくりと話す。
「いいかい。誰かがまず幸せにならなくちゃいけない。だから、まず自分から幸せになることにしようじゃないか。他人を先に幸せにするなんて余計なお世話だ。だからね、まずは人類が一度、幸せになってみようと思うんだよ」
子供たちは怒りを抑えながら聞いた。
モルは話す。
「一度はつくろう、理想郷を。誰かが先に、一度は理想郷を作らなければならない。だったら、まずは人類が先頭に立って幸せになろう。他の生き物を幸せにするのはそのあとでいい。人類の歴史の中で、一度は作ろう、理想郷を。いいかな。わかったかな」
子供たちは静かに黙った。
そこにモラが来ていった。
「決断するのが大人の仕事なのよ。イネさんを人類と平等に扱ったら、秩序が壊れてしまうわ」
そして、子供たちはモルに従った。
進化の法則では、モルが正しいといえる。強いものが生き残るのである。弱いものは生きていくこともできない。ただ、付け加えるならば、稲のイネさんは美味しい農産物であり、その味によって繁殖しているといえる。これは稲のイネさんの生存能力による繁殖の勝利である。
ここではまだ、進化の法則より優れた正義というものはでてこない。
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