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そして、この物語には、モルとモラの子供たちがいる。名前はいちいち教えてあげない。この物語で子供たちは観客だ。モルとモラの子供たちがいることに気づいてくれればそれで充分だ。あとで、ちょっとだけ登場するけど、それはあまり物語に関係ないことだ。
ここでちょっと余談。
モルとモラは浮気をしない両想いだが、実はモラには秘密がある。モラはモルのことが世界でいちばん好きだけど、実は時々、ゲババに想いを寄せてプラトニックな浮気をしている。
「ゲババって、ちょっといいかもね」
男が少ししかいないから、そんなことをモラは思ってしまったりもする。
そのことをゲババは知らない。
「ああ、残念ね。今なら、わたしを口説き落とすタイミングがあったのに」
モラはそのまま、ゲババと話すだけ。
バカなゲババ。
モラはそのまま、ゲババに食べられて、とても悲しい思いをする。
バカなゲババ、とモラは思っている。
モルとモラの戦い。
この物語において、モルとモラは性別が違うだけの同じ性質をした働き者のお父さん、お母さんだけど、世の中、あまくはない。両想いの二人も戦っている。
男と女の戦い。
男と女が仮に別種の生物だと考えると、男と女は互いに共存しながら、互いに勝ち負けを競っているように思える。
モラはモルに負けるわけにはいかないのだ。あらゆる技を駆使して、モラはモルより優位に立とうとする。意見のちがいがあれば、モルを激しくののしり、仕事の量がモルより多くならないようにモルに命じて働かせる。
男と女の激しい生存競争が行われているのである。
互いに手をとりながら、いちゃつくように激しく、女々しく、猛々しく、争いあう。愛という名のもとに、お互いを特別扱いすることに決めた恋仲の二人が、地上では激しく争っている。
モラはいう。
「わたしたち夫婦が仲良くやっていけるのは、わたしがお父さんの顔を立てて、ひたすら忍耐に忍耐をかさねているからだけどね」
モルは嘆きながら答える。
「お父さんがそんなに悪いのか。お父さんがそんなに悪いのか」
ぼくは恋愛の問題で困った時は、それを難しい愛の問題として全保留にすることにしている。恋愛の解答を出せるほど、ぼくには恋愛の経験がないし、信念もない。
進化の法則では、男と女の戦いは視野に入らない。強いていえば、Y染色体という遺伝子とX染色体という遺伝子が生き残れるかという生存競争である。Y染色体とX染色体群は共生関係にあり、お互いが助け合わなければ子孫を残すことができない。これは、利己的な遺伝子として考えてみると面白い問題であるが、男と女を別種の生物として見てみた時、どちらが勝つかは面白い問題である。
歴史上は、男の方が強く利益を得ていたとされているが、案外、そう簡単な問題でもないと思う。どちらにしろ、ぼくにはお手上げの難しい愛の問題だ。
ただ、クローン技術を使えば、男だけ、女だけでも、人類を生存させつづけることが可能なことは覚えておくと良いだろう。これは一九七○年代にアメリカで発見されたSFのアイデアである。
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