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さて、モルとゲババの戦いを語る前に、新しい人物の登場だ。名をミンクという女だ。ミンクはゲババを食べる肉食動物で、食物連鎖の頂点に君臨している。ミンクはモルやモラとは仲良しだ。そして、モルやモラを傷つけるゲババをやっつけにくる正義の味方だ。
格好いいぞ、肉食獣。
ミンクは悪い草食動物のゲババをやっつけるんだ。こんなに立派なことはない。
ちなみに、ミンクも工場や農場では働かない。ミンクは研究所に居る。ミンクは科学者なんだ。そんなミンクは立派だね。ミンクは世の中の役に立ってるんだ。考えることすらしない、実験も観察もしないゲババとはおおちがいだ。ミンクはみんなのために科学の研究をしているんだ。ミンクを尊敬するように。
そんなミンクだが、実は狩りが苦手だ。
「まちなさいよ、ゲババ。逃げてばかりで卑怯よ」
と、ミンクは叫ぶ。
だけど、それで立ち止まるゲババではない。
「誰が捕まるっていうんだ、このアホ女め」
ゲババはミンクが苦手だ。どんどん逃げる。怠け者のゲババにとって、ミンクから逃げるのは面倒くさいひと労働だ。肉食動物から逃げるのが、ゲババの唯一の労働といえる。
「あまいわ、ゲババ。ここで待ち伏せしてたのよ」
突然、目の前に現れたミンクにゲババは驚く。
ミンクはゲババより賢い。巧妙にゲババを狩り立ててしまう。ミンクはゲババのはらわたを食らう。ゲババは死にそうな苦痛を味わう。ざまあ、みろだ。
でも、ゲババは死なない。ミンクも心得たもので、ゲババを殺さず、生かして、傷が再生するのを待つ。そして、何度もはらわたを食らうのだ。
最先端治療の進んだこの時代には、ゲババの傷は治るのだ。
そんなミンクだが、実は子供がいない。
ミンクは働き者のモルに恋している。でも、モルにはモラがいる。実らない恋。
でも、モルはミンクに気さくに話しかけ、優しいことばをかけてくれる。優しい優しいモル。男らしい、男の中の男だ。
「ミンク、今日もモラがゲババに食べられたんだ。明日は食べられないようにゲババを見張っていてよ」
モルは頼む。恋敵を守るために働くなんて、ミンクには耐えられない。
それでも、やっぱりミンクはモルのいうことを聞いてしまう。
「わかった。絶対にモラには手を出させないから」
ミンクはそういって引き受ける。そして、大事な研究を放り投げて、モラのために狩りの番をする。
実は、肉食動物であるミンクを使って、草食動物のゲババを狩りたて、生態系の全体を管理しているのはモルなのだ。
世の中は、かくも複雑である。
ここまで話して、登場人物の中でいちばん強いのは誰だと思う。
肉食動物のミンクか。
草食動物のゲババか。
植物の体をしたモルとモラか。
ミンクは食物連鎖の頂点に立ち、何者にも狩られることがない。
ゲババは働かないいちばんの自由人だ。
そして、モルは生態系全体を管理する生態系の管理者だ。
誰がいちばん強いのだろう。
少し、考えてくれたまえ。
ところで、モラとミンクの女の戦い。
モラは、午前は工場に、午後は農場に働きに行く。そのモラはいう。
「わたしだって、仕事中に開発や小さな発明はしているのよ。ミンクに威張られる筋合いはない」
これでは、科学者のミンクの立場がないじゃないか。
でも、これが現実。現場で働くお父さん、お母さんが偉い。
ミンクは文句をいう。
「わたしは逃げまわるゲババを狩り立てて食事をしなければならない。それに比べて、ゲババは何? 逃げることのないモルとモラを食べてるじゃない。狩りをするのもわたしの仕事のひとつなのよ。それなのに、ゲババはまったく食事に苦労することがない。不公平じゃない」
すると、モルは答える。
「食べられるのも我々の仕事なのだよ」
そんなモルとモラは立派だ。
こうして生態系が成り立っている。
さあ、正義があるのは誰だ。
正義とは、進化の法則より優れた何かである。
進化の法則は我々人類を作るという奇跡を起こした。だが、我々の先祖が考え出した正義というものは、進化の法則よりも大切な何かであった。
「これは戦争じゃない。進行中の進化なんだよ」
SF作家 ブルース・スターリング
もし、進化の法則を信じて、正しいのが食物連鎖の頂点に立つ肉食動物だというのなら、他の生物たちは殺されつづける弱肉強食の敗者たちだ。いちばん正しいのは肉食動物だといえる。これが進化の法則だ。
だが、肉食動物は、草食動物がいなければ生きていくことができない。
さらに、草食動物は植物がいなければ生きていくことができない。
だから、いちばん強いのは植物だといえる。
みんなは食べられるのを苦痛だというかもしれないが、植物には痛覚はないんだよ。
モルとモラは人類だから痛覚はあるけど、それでも、痛みに耐えさえすれば、いちばん強い優先権を握っているのはモルとモラじゃないかな。
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