次に、ゲババが出てくる。こいつは性格の悪い草食動物で、モルとモラを食べてしまう。ゲババは悪いやつだ。働き者のモルとモラを食べて生きているんだ。こんなことは許されることじゃない。ゲババは草食動物というだけで悪人だ。

 だって、地球の生命の栄養源といえる植物を食べてしまうからだ。草食動物のゲババはとっても悪いやつだ。モルとモラを食べて生きている。

「なんで、モルとモラを食べて生きているんだ? ひどいじゃないか」

 そんなことを誰かが言ったとしたら、ゲババは平気で答えるだろう。

「だって、おれが生きていくには食べるしかしかたないじゃないか」

 ゲババはこういうやつだ。他人を傷つけることでしか、生きていくことができないんだ。

 モルはいう。

「これはゲババの業というやつだ。ゲババを憎んではいけない」

 そういっても、モルはモラがゲババに食べられて苦しんでいるのを、嘆き悲しんでいるんだ。モルも自分が食べられる時は、とってもとっても痛い思いをしているんだ。そんな、モルとモラの苦痛をわかってやってほしい。

 これが世界なんだ。

 食物連鎖だ。

 植物のモルとモラは食べられて生きていく。傷つきながら、励ましあいながら。誰を恨むこともなく、ただ食べられることに耐えながら。

 生きるということは、残酷なんだ。光合成のできるモルやモラとちがって、ゲババは植物を食べることでしか生きていくことができないんだ。

 誰がゲババを悪というだろう。

 こんな世界をつくったのは神様だ。きみは草食動物が嫌いかい。草食動物は、残酷なやつらだけど、それでも彼らは彼らなりに立派に生きているんだ。生まれ出でた生物は何者もその生まれによって差別されない。あるのは弱肉強食の進化の法則だ。ゲババはモルとモラより、進化の法則に勝ったんだ。進化の法則に照らし合わせれば、ゲババが正しいのさ。勝っていくのが正しいんだ。誰がゲババを悪というだろう。これが世界だ。食べる食べられるの関係でしか、生き物のつながりはもてないでいたんだ。これを食物連鎖という。

 ゲババを称えよ。彼は進化の法則の勝者なんだ。植物を食べて生きることを神さまが許したもうたのだ。


 ちなみに、ゲババは男だ。実はモラに恋しているが、モルとモラは両思いの浮気をしない恋仲だから、ゲババには恋愛相手がいないんだ。可哀相なゲババ。彼は食物連鎖で勝てても、恋の道は実らないんだ。ゲババは恋人のいない独り者さ。

 子供を生んでないダメ人間なんだ。でも、いいじゃないか。難しい愛の問題を解けなかったからって、誰がゲババを悪と呼ぼう。許してやれ、ゲババを。

 ぼくが特に強調していいたいのは、子供のいないゲババを一人前だと認めてやれということなんだ。子供を生めるということに関して、モルとモラがゲババに圧勝していくのさ。それが世界の理だ。だけど、ゲババを馬鹿にするな。ゲババだって、立派に生きてきたんだ。

 ただ、ゲババには難しい愛の問題は難しすぎて、解けなかったんだ。それが事実。まぎれもない現実。子供がいないという現実が、人類の存続に貢献できなかったという重荷がゲババに降りかかる。ゲババはそれに耐えて生きているんだ。

 ゲババは今日も、愛するモラの肉を食べる。


 ちなみに、ゲババは働かない怠け者だ。工場や農場の仕事を放り出して、まったく仕事につかない。ただ、食っては寝て、食っては寝ている。毎日、遊び呆ける道楽者だ。

 ゲババだって、道具を使う。でも、それを作ってるのは働き者のモルとモラだ。毎日、モルとモラは工場に行き働いてみんなが必要な道具を作っているんだ。偉い。モルとモラは偉い。それに比べて、ゲババはどうだ。

 ゲババは働きもせず、モルとモラにお世話になりながら、生活しているんだ。ゲババの家も、ゲババの服も、ゲババの遊び道具も、全部、モルとモラが作ったものだ。モルとモラは働き者なんだ。しかも、誰に対しても優しい。ものを欲しがるゲババにただで製品を与えてあげる。

 汗を流すのはモルとモラだ。ゲババは働かない道楽者。

 まるで、モルとモラは奴隷みたいじゃないか。

 こんなことでいいのか。こんなことを許してしまうモルとモラはまちがってないか。

 怠け者に施すのか。

 だけど、何を言ってもゲババは働かない。

「おれはアナーキーでアウトローなんだ。自由気ままに生きて何が悪い」

 ゲババは向かうところ敵なしだ。まさに厚顔無恥。社会に何一つ貢献しないダメ人間なんだ。ゲババは社会に巣くう寄生虫だ。モルとモラの労働力をうまい汁として吸いとっていく寄生虫なんだ。なんでこんなやつが生きていられるんだ。勤労の義務を果たしていないじゃないか。

 本当に何一つとりえのない怠け者、それがゲババだ。こんなやつを許しておけるか。

 だけど、モラはいう。

「ゲババは本当は優しいのよ。彼のことも受け入れてあげなければダメよ」

 と。

「どんなダメ人間にも生きる権利がある。それが平等というものだ」

 とモルもいう。

 どうだい。わかってきたかい。

 自由と勤労の戦いだ。

 正しいのはどちらだ。

「おれこそが、自由を体現する正義の使者。正しいのはどっちだ」

 ゲババが吼えた。

 こういう意見もあるということだ。

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