第8話 サタンの召喚
リズはお城で王様の妃になっていた。お城には宮廷魔術師という人がいて、リズは彼らを見て面白がっていたが、ある性格の良い宮廷魔術師の女と魔法で勝負することになってしまった。
その女の魔術師がいうには、リズの悪霊を払ってあげるというのだが、リズの飼ってる悪霊は、王様がドラゴンを退治するまでの間、偽者のお姫様だったという嘘を記録する死の神の使いだったので、リズはその嘘をごまかしてしまうのは悪いことだと思ったのだ。だから、その親切な白魔術師の申し出を断わったら、白魔術師は無理矢理にでも、その白魔術師の魔法で悪霊を払ってしまうというのだった。
その宮廷魔術師は白魔術師だった。魔法の多くは、幻獣と取引する黒魔法であるが、中には、人々のために良いことをしたがる天使のようなものに無償で奉仕される白魔術師という者がわずかに存在するのだった。
「限りなく正しく、限りなく清らかで、限りなく清純な、限りなく美しい、限りなく健やかな、限りなく栄光に満ちた、限りなく悪意のない我が心をのぞけ、悪戯好きな天使よ。あの者にとりついた悪霊をとりさってしまいなさい」
白魔術師が呪文を詠唱した。
宮廷魔術師のなすがままでは面白くないリズは、昔、姉に教わった魔法を使ってみた。
「地上から天上へとつづく道の最奥に座します我らがサタンよ、地上からか弱き人の願いを天に届けよ。それ、悪戯好きな天使をやっつけろ、サタン」
どういう魔法を教わってきたというのか。よりにもよって、魔界で最も力の強い悪とされる魔界で最も邪悪なサタンを召還するとは。これは黒魔術も黒魔術、まごうことなき、禁術である。
実は、サタンの正体は土星である。天動説が信じられていた頃の天文学では、土星は最も天に近い軌道をまわる神聖な惑星として崇められた。そして、土星サタンは天に継ぐ位の持ち主ということになり、地上から天へ願いごとを仲介する役目をもつといわれた。そのサタン、久しぶりに本来の土星の守護者として召還されたことが嬉しくて、リズに特別親切な相手をしてあげることにしたのである。
サタンは白魔術師の天使に天からの命令だと嘘をついて、リズを勝たせるために撤退することにしたのだ。サタンは天からの贈り物をリズに届けないことを決定したのである。
こうして、リズは宮廷魔術師との魔法勝負に勝った。だから、リズは、お城一番の魔法の使い手なのだと、誤解されてしまった。なんとも困ったものである。
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