第7話 ベエルゼブルの召喚

 ある山のふもとに、リザ、リジ、リズ、リゼ、リゾの五人姉妹が住んでいた。リザは本物の魔術師だったが、他の四人も手習い程度に魔法が使えた。

 リゼが一人で歩いていると、雷神の杖を持った旅の魔術師に遭遇した。それは、まさに偶然出会っただけであり、旅の魔術師はリゼを見かけると、理由もなく襲ってきた。

「晴れわたる空に覆いかぶさる雲の英霊に申し上げる。旅の妨げとなりし、怪しげな少女に落雷せよ。それ、わっしょい」

 いきなり、旅の魔術師に雷系の魔法で攻撃されたリゼは、姉から習った手習い程度の魔法を試しに使ってみることにした。

「たゆたいし旅人の願いを叶えよ、出て来い、蝿の王ベエルゼブル。出て来てやっつけろ、あの旅の魔術師を」

 リゼが試みたのは蝿の王ベエルゼブルの召還である。いったい普段から姉に何を教わっているのか、誠、いかがわしき強大な悪魔の召還をしたのである。普通なら、こんな人類の女の申し出を素直に聞くわけのない悪魔ベエルゼブルだったが、相手が雷の精霊だったため、激怒した。

 実は蝿の王ベエルゼブルの正体は、天候を司る暴風神バアルである。雷は、本来バアルの管理下にあるはずのものである。それで、バアルに内緒で使役される雷の魔法が存在することが腹立たしい。怒髪天を突くほどの怒りを蝿の王ベエルゼブルは感じたのである。

 ガラガラドドーン。雷は、旅の魔術師に向かって落ちた。それと同時に、とてつもなく巨大な竜巻が発生し、豪雨が降った。

 雷雲が大空の全部に覆いかかり、雷は村中に落ちた。竜巻で飛ばされていたリゼは、雷をくらわずにすんだ。リゼが森の中に落下して大怪我をした時、すでに雷の魔術師に命はなかった。

 それ以後、雷の魔術師たちは、蝿の王ベエルゼブルに忠誠を誓わなければ、雷を使役できなくなったのである。

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