第6話 サラマンデルの召喚
召還魔法にもいろいろある。本来、召還魔法と呼ばれるものは、人が幻獣と契約を結び、人が召還する幻獣に必要な対価を支払わなければならない。例えば、吸血鬼ドラキュラを召還するためには、血液を差し出したりしなければならない。幻獣も無償で人に奉仕したりはしない。
だが、召還魔法には、多くの術者に使われるよくある幻獣の召還がある。例えば、火の精霊サラマンデルの召還だ。これは、古代の偉い魔術師が人類を代表して、サラマンデルに永遠の炎を対価として支払ったため、サラマンデルはその永遠の炎が燃えつづけるかぎり、永遠に魔術師に呪文ひとつで召還されてしまう。それくらい、サラマンデルは人類に感謝しているし、永遠の炎はサラマンデルにとってありがたいものだった。
だから、火の精霊サラマンデルを召還するのはとても簡単である。火の中に棲み、火を食べて生きるサラマンデルは、ただ名前を呼ぶだけで現れることもある超初心者向けな召還獣である。
ある山のふもとに、リザ、リジ、リズ、リゼ、リゾの五人姉妹が住んでいた。リザは本物の魔法使いだったが、他の四人も手習い程度に魔法が使えた。
リゾは、火の精霊サラマンデルを召還して、村の魔術師と戦った。人対人の戦いにおいて、サラマンデルは契約を守り、両者ともに召還に応じて現れるが、どちらがサラマンデルに好まれているかという好感度の強さを計ることもできる。この好感度を人は魔力と呼んだりすることもある。
「えい、出て来いサラマンデル」
リゾの火炎呪文である。
「とこしえに結ばれし古代の契約にもとづき、我らか弱き人々の捧げ奉りし永遠の炎の対価を払え。火の精霊サラマンデルよ、我が申し出に進んで姿を現せ。灼熱地獄」
村の魔術師の火炎呪文である。
誰がどう考えても、長々としたことばを歴史にのっとった慣習に従い詠唱した村の魔術師の火炎呪文の方が、火の精霊サラマンデルの好感度は高そうである。
しかし、重大なことはそうではなかった。火の精霊サラマンデルは、妖女が好きだったのである。幼女ではない。妖女である。そのため、火の精霊サラマンデルは、リゾにより大きな力を与えた。
二人が唱えた火炎呪文で、リゾの火炎呪文の威力が村の魔術師に上まわった。魔力とは、努力や修練なんかはほとんど関係なしに決まるものなのである。
火炎呪文の勝ち負けは世間では、運任せともいわれている。この時は妖女の好きなサラマンデルがやってきたせいで、リゾの勝ちに決まってしまった。
これがサラマンデル召還呪文のあらましである。
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