第2話

想像の倍、君の手は小さかった。


そして想像の倍、君の手は冷たかった。


僕が君の手を握ったあの瞬間、君はどんな顔をしていたのだろう。人生史上、最高の恥じらいと緊張を経験していた僕は君の顔を見れなかった。

振りほどかれたらどうしよう。そんな心配をする暇すらないほど緊張していた僕と、きっと女の勘ってやつで薄々気づいてた君。この時は絶対に二人だけの世界だった。


お互い口を開くことも無く、寒いはずなのに顔や脇から汗が出ているのをリアルタイムで実感できるほど身体は熱く、そしてそれ以上に心はあつかった。


冷たかった君の手はゆっくりと、だんだんと熱を帯びてきて、湿ってきて、それからやっと僕は君の顔を見れた。

夕陽のせいなのか、なんて見間違えるレベルじゃないほど君の顔は赤く火照っていた。君の赤い小さな口は嬉しさを噛みしめているようにも、涙を堪えているようにも見えてしまって、少し戸惑う。

でも横を歩く僕が君の顔を見ていることに気づいて、君は幸せそうな、そして嬉しそうな表情で


「ありがとう。」


そう言った。


人生史上1番緊張していた僕は、一瞬にして人類史上1番幸せな人類になれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せな時に約束をしないこと。 かなや わん @wan_kanaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ