「うええ」


 彼女。

 彼女が、いる。


「ぜんぶでた」


 トイレから、とぼとぼと出てきた。


「なんで。なんで出ていっちゃうの」


「ありがとう」


「え?」


「ありがとう」


「あ、おはよう。おはようございます。朝ですね」


「ありがとう。一緒にいてくれて。やさしく、してくれて」


「え。え。ええ。なかないで」


 泣いていることに、気づいた。


「ごめん」


「あっ。いや、えっと。泣いて泣いて。泣いていいよ。でも。なかないで」


「おはよう」


「おはよう。もう一回、寝よっか。ね。おいで?」


 彼女に、もういちど抱きしめられながら。

 二度寝の時間。


「わたし。ずっとあなたと一緒にいる」


「消えない?」


「あなたがいれば、わたしは消えない。だって、あなたにやさしくしたいから」


「うええ」


「あああなかないで。泣いてもいいけどなかないで。あれ。よくわかんなくなっちゃった」


 涙。とまらなかった。彼女が、いることが。うれしくて。


「ありがとう。やさしくしてくれて」


「うれしい。もっと、やさしくしてあげる」


 朝だけど、まだ、1日が始まるのは。ちょっと待ってほしい。

 あと、もうひとねむり。彼女と、一緒に。

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Eyes. 春嵐 @aiot3110

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