第4話

 彼女のことを、ひどいとは思わなかった。好きなように繋がり、好きなように放っておく。記憶は、そこそこ食われ始まっているらしい。すでに彼女は、自らの帰る場所を覚えていない。

 切ないことだなと、思う。自分のことを忘れていく。何者でもなくなっていく。はやく、なんとかしてあげたい。そして、それとは別に、目の前の彼女を楽しんでいる自分もいた。食われてる。誰に。狐に。それとも俺にか?


「どしたの?」


「いや。ほら。あれが俺の部屋」


「おお。一軒家」


 彼女が、部屋に飛び込んでいく。


「うおおすごい。部屋がひとつしかない」


「LDKってやつだな」


「トイレ借りていい?」


「どうぞ」


 彼女が、トイレに駆け込む。

 いたかったのだろうか。地味ながら、自分も初めてのことだった。まだ少し下腹部がじんじんする。


「うええ」


 彼女が、とぼとぼとトイレから出てきた。


「ぜんぶでた」


 何がだろうか。


「また、して。おねがい」


「そうか」


 安心できないのかもしれない。体内に自分ではない何かをとりこんで、不安を曖昧にしたいのか。

 ちょっとだけ、残酷な気分になってしまう。どうしようもなく、消耗している。

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