第三話、

彼女と別れてから、改めて今の体に意識を向けた。

予想では、男女の体には大きな差がある。

だから、扱う感覚に大きな違いがあると、予想していた。

しかし、実際は、体を動かす感覚に大きな変化はない。

ただ、目の前に広がる光景には、感じた事の無い大きな変化があった。

普段は、ただ真っ暗であるはずの道が、怪しくも幻想的な光を放ち、足元にある大地は、僕の事を支え、自分の存在がここにあることを教えてくれた。


そして、誰かが作った、二番煎じでしか味わう事のできない世界を、僕が体験している。

普段はスクリーンで”追体験”をする事しか許されていない世界。

願うだけで、決して叶うことのなかった主人公。

僕は、主人公になれた感動に、手をたたき歓声を上げそうになる。


ただ、そこは抑えなくてはならない。

僕は、あくまで『香川 りな』なのだ。

彼女は、映画の主人公に憧れはしないし、映画の様な体験をしても気分は上がらない。

そういう人なのだ。

歓声を上げたくなる気持ちを抑え、深く息を吸い、ゆっくりと息を整えた。

そして、彼女の自宅に一歩ずつ歩みを進めていく。



彼女の家に向かう途中、下腹部にに小さな違和感を覚えた。

最初は、女性としての体になっていたので、気づく事はなかったが、時間が経過するに連れ、徐々に確信への変わっていく。

これは、間違いなく尿意だ。


もちろん、普通の僕であればなんの問題も無い。

ただ、女性の僕にとっては、大問題だ。


今までは、男性用トイレに入り、チャックを下ろし放尿をすればうまくいく。

しかし、女性の体で、男性用トイレに入るわけにはいかないのだ。

つまり、当然女子トイレに入らなくてはならない。


また、今までは服越しで気にはならなかったが、持ち主のいる体を、その許可なしに触らなくては行けないのだ。

そう考える自分の正義感と、尿意の間で、僕の感情は揺れ動いていた。


ただ、そんな事を言っている場合では無い。

尿意の波はすぐそこまで来ている。

僕は、覚悟を決め、近くにあった女子トイレに入り、用を足した。


全てから開放された快感を得つつ、個室しかしか無い女子トレイに事に新鮮さを感じ、僕は女子トイレを後にする。

その際、相手の驚いた顔に、一瞬焦りはしたが、特に何も言われること無く、その女性は早足にトイレに入られた。

きっと、こんな時間に公衆トイレに入る人は珍しかったのだろう。

僕は、家路へと歩みを進めていく。

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