第99話 友情とお話TIME 後

「同じ道化仮面、偶然の一致とは思えないな。十中八九奴らの仲間か、あの場にいた女と同一人物かのどちらかだろう」

「あぁ」


 そう口を挟むジョーに、俺は首肯する。

 

「うん? どうした総長?」


 次いで、口に手を当てる俺を見て、ジョーがそう尋ねてきた。


「いや……実は俺、というか俺たちも肝試しの時襲われた」

「なんですと!?」


 驚いたように目を見開くのは隼太。

 流れるように、俺は説明を始めた。


「名前は田中淳獏。【道化衆ジョーカーズ】っていうチームに

極少年院ゴクネンショ―』からの脱獄を手引きされ、走司……俺の【羅天煌】時代の仲間を倒すように頼まれたらしい。俺を走司と勘違いして襲ってきた」

「うーん。どうも拙者と咢宮を襲ってきた方はそういった目的があったように思えないでござるが……」


 腕を組み、当時を思い出すように目を瞑る隼太。


『柿崎隼太。お前を襲ってきたヤツってどっち?』


 その時、怪音が隼太に向けそんな質問をする。

 彼女はプロジェクターのように、壁に二人の人物画像を出力した。画像の下には名前が書いてあり、それぞれ『間宮痣呑まみやしの』、『曽我薬丸そがやくまる』という表記があった。


「え!? あ、この人でござる! どうして分かったでござるか?」


 二人の人物画像、その中で女の方である間宮痣呑を指差し隼太は言う。


『この二人は田中淳獏と同時期に別の『極少年院』から脱獄した奴ら。ちなみにどっちも田中淳獏より性格が終わってる。目的より欲望が先行するタイプ』

「な、なるほど……」


 怪音の説明に、隼太は納得する。

 同時期の『極少年院』脱獄は偶然とは言えない。この二人も【道化衆】が脱獄を手引きされ、走司を倒すよう頼まれたのは明白だ。

 そして映っているもう一人の男の方は走司が倒した奴だろう。あとで走司に確認すれば分かる。


「ま、とりあえずさっさとここから出よう。怪音、事後処理を頼めるかな?」

『最初からそのつもりだ厨二野郎。清掃部隊はあと十分で到着する』

「お前俺に対する当たりが強いな!?」

『うるさい! 妨害電波出すなんて生意気なマネするからだ! おかげで私がこうして登場すんのがちょい遅れたんだぞ!』

「はぁ!? なんのことだ俺はそんなもの出してないぞ!!」


 言い争うジョーと怪音。


『とぼけんな! それじゃあ誰が……ってアイツらか!?』


 その直後、ドローンから発せられる怪音の声量が上がる。


「あー、たしか奴らは俺と総長が戦うのをよく思っていなかったみたいだし、それを避けるための措置か」

「だろうな。多分アイツらは俺たちの戦いを見て、俺が拘束状態あのままの方が都合が良かったんだろう。そのために俺の拘束が解けないよう、第三者の介入を極力排除しようとしてたってワケだ」

「そ、それでもそれがどうして電波妨害をするって考えになるんでござるか? 妨害する手立てなんて、他にも……」


 俺の言葉に、隼太はもっともな疑問を呈する。

 そして、その疑問は俺が答えるよりも早く、怪音が答える。


『それは手段の一つに過ぎなかったんだよ。妨害電波を出して、私のドローンみたいな機械による介入を防ぐ。んでもう一つ、人間による第三者の介入はアイツら自身が防げばいい』

「あ、なるほどでござる!」

『まぁ結局、その第三者である龍子と九十九はダウン。代わりにお前がダイナミック突入かました。そして機械の方は私の華麗な技術テクで突破したからメチャクチャだけどなぁ! にしてもムカつく! コミケ内部で連絡ができないと他の入場客に影響が出るから私のドローンみたいな直接介入にうってつけの機械にだけ効く電波を張るなんて!! 結構ムズイんだぞアレ!!』


 的確な説明だ怪音。

 後半は色々主観が入っていたような気がするが……。


「にしても【道化衆】か。走司を狙ったり今回の便乗と言い、どういうつもりだろうね?」

「た、単純に考えると……その、【悪童十傑】? を狙ってるような気がするでござるが」

『いや、そう考えるのは早計だ』


 隼太の言葉に、またも釘を刺すように怪音が言う。


『今回、アイツらはわざわざ懸賞金を掛け直した。ジョーに戦ってほしくないなら、そもそもそんなマネはしない。渡してきた3000万も、「こっちの目的は達成したからもう手を引け」っていう意思表示に見えた。だから目的は他にあると考えんのが妥当って感じ』

「た、たしかにそうでござるな……」

『なんならその肝試しの時も、目的は走司じゃなくて別にあるかも』


 納得する隼太に、怪音はそう付け加えた。


「まったく、意味が分からないな」


 思案するように、顎に手を当てるジョー。


「よ、よく分からないでこざるが、関わらないのが吉な気がするでござる……」

「そのとおりだ隼太。俺たちは今までどおりの日常を過ごすんだ。あんなのに関わらずにな」


 隼太の肩に手を置き、俺は言う。


「よし。んじゃ、さっさとスペースに戻るか。牧野さんも心配だしな」

「そうでござるな」


 こうして全ては事態は完全に収束する。

 俺と隼太はジョーたちと別れ、日常へと戻るため、足を運ぶのだった。



「ふふ」

「ん? どうしたんですかシャドウ様?」


 迅たちと別れ、潜伏先へ戻る道すがら、突如として笑うジョーに、アキラは思わず問い掛けた。


「あぁいや。さっきのことを思い出してね。まさか君が、あんな暴言を吐くとは思ってなかった」

「っ!? き、聞こえてたのですか……」


 ジョーの言葉に、アキラは気まずそうに顔を赤らめる。

 アキラの暴言、それは彼女が隼太と共に滞空していた時、彼に向かって言い放った言葉に他ならなかった。


「申し訳ありません。シャドウ様の秘書として、あのような発言……」

「いや、俺は嬉しかったよ。君の新しい一面が見えて」

「わ、忘れていただくことはできないでしょうか……?」

「いやぁ無理だね。中々の衝撃だったし」

「そ、そんな……!!」

「おいおい、そんなにショックを受けるようなことかい? 裸を見られたワケでもあるまいし、大袈裟オオゲサだろう」

「大袈裟ではありません! 私にとってアレは、裸体以上に見られたくないものです!! ちなみに私の裸体はシャドウ様にならいつでもウェルカムです!!」

「あ、あぁそうなのか……」


 アキラの強い言葉に、戸惑うジョーだが、彼は一瞬微妙になった空気を変えるべく、言葉を発する。


「とにかく、私は合理的で冷静に物事を遂行し、貴方の右腕として相応しい人間になるんです!!」

「……合理的、ね」

「な、なにか?」

「いや、別に。なんでもないさ」


 そう言って、ジョーは誤魔化すように少しだけ足を早めた。


 気付いているかい、アキラ。

 自分のためでなく、人のために何かを為そうとする。


 ーーその行為は、最も合理性からかけ離れた行為なんだよ。

 

 そして、一歩後ろを歩くアキラの足を聞きながら、ジョーはそう思うのだった。



「いやぁ、やっぱり凄いね【悪童神ワルガミ】は。流石に咄嗟に君で防御ガードしちゃったよ。悪いね【嬉笑グリン】」

「サンクス」

「ははぁ、気にすんな!! つーかむしろありがとうだぜ!! ヤベェ、ヤバかった!! 最高だぜアイツゥ!! 今まで俺をこんなに気持ちよくさせた奴はいなかった!! 最高のプレイだった!! もっと味わいたかったぜぇ!!」


冷笑スニーア】と【嘘笑フェイカー】の言葉に、【嬉笑】は高らかに叫ぶ。


「はは、たしかに君にとってはそうか」


 彼の特殊性に【冷笑スニーア】は愉快そうに笑う。


「ふぁ~ぁ。私疲れた。だからもうおネムする」

「おや、そうかい? じゃあお休み【嘘笑】」

「うん、おヤス


 そう言って【嘘笑】は目を瞑る。だが次の瞬間、


「うぅーん。おはよだよー」

「おはよう【戯笑ジョーク】。よく眠れたかい?」

「イエスだよー」

「それは良かった。状況はご覧のとおりだ」

「うん。【嘘笑】の記憶引き継いでるから分かってるー。風気持ちー、動かなくても動けてるのマジ神ー。これどこまで行くんー?」

「多分、北海道辺りじゃないかな?」

「北海道かー。なら、魚が美味しー」

「そうだね。とりあえずやることはひと段落したし、残りの夏は向こうで過ごそうか」

「うぇーい」

「賛成だぁ!!」

 

【冷笑】の提案に快く賛同する【戯笑】と【嬉笑】。

 こうして、超速で東日本の空を通過しながら、彼らの夏休みは始まった。

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