第82話 転機 後
というワケで、牧野さんに懸賞金を掛けた男は怪音の尽力によって特定、九十九を派遣したことで無事に懸賞金を取り下げることに成功した。
怪音が調べたところによると、男の名前は『
『フカザワ』という名義でイラストレーターとして活動中。俺でも少し耳にしたことのあるレベルだから人気のクリエイターなのだろう。
今回牧野さんに懸賞金を掛けた動機は、『彼女にくくるちゃんのキャラデザの仕事を奪われたから』。
なんでも、本来くくるちゃんの絵師は牧野さんではなく多田だったらしい。
しかしその当時、多田は『トレパク騒動』で炎上したようだ。その影響で、受けていたくくるちゃんのキャラクターデザインの仕事がトンだらしい。
そして、その
「はんっ、完全な逆恨みじゃねぇか」
全ての説明を聞いた龍子は、心底くだらなそうに吐き捨てる。
『ねぇ~。まったく、人間の負のパワーには困ったモンだよ』
通話をしているスマホのスピーカーから、それに同調する怪音の声が聞こえてくる。
「で、でも……これで牧野さんの懸賞金は取り下げられましたし、い、一件落着、ですね」
そんな彼女たちを少しなだめるように、
「ま、そうだなー。んでよぉアニキ、あの野郎どうすんだ?」
あの野郎、というのは当然、多田のことだ。
奴は今、九十九によって【常闇商会】へと引き渡した。
「それを決めるのは、僕じゃない」
そう言って、僕は近くに座っていた牧野さんへと目をやった。
「へ? わ、私ですか!? べ、別に……私は、懸賞金が取り下げられたなら……それだけで、いいです」
「はぁぁ? おいおいンだよそりゃあ」
「甘ちゃん」
消極的な彼女の言葉に、龍子と九十九は信じられない様子だった。
「あーゆう奴はちゃんと痛い目見せとかねぇとつけ上がるぜ?」
正直な所、僕も
やったことの責任を取りたくないのなら、相手が取り立てられなくなるまで潰す。
それが、不良界の一般常識である。
……だが、
「い、いいんです。す、
それでも牧野さんは、僕たちが最良と思う選択を取らなかった。
「お前なぁ、頭お花畑過ぎるぜ。もっとてってー的に叩き潰さねぇとよぉ」
「やめろ龍子。牧野さんがそう決めたんだ。僕たちがどうこう言うことじゃない」
「ちぇっ。まぁアニキが言うなら別にいいけどよー」
僕の言葉に、龍子は唇を尖らせる。
だが、僕は龍子の真意を見抜いていた。
「龍子、お前暴れ足りないから暴れる口実がほしいだけだろ」
「ギクゥ!? そ、そそそそんなワケねぇだろアニキ!」
「そんなワケあるって、言ってるようなもの」
「ははは……わ、分かりやすいです」
僕の代わりに、九十九と走司がそう漏らす。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!! だってよぉ、闇サイトに懸賞金掛けるような奴だぜぇ!? 絶対大物だと思うじゃねぇか!! これからもっとデケェ戦いが待ってると思うじゃねぇかぁ!!」
秒で
「あー……これで終わりかーつまんねぇー……」
「ったく、ホントにお前は……」
龍子のメチャクチャな物言いに、僕は額に手をやる。
ーーそのときだった。
『……え!? た、大将!!』
怪音の驚いたような声が、スピーカーから聞こえてくる。
「どうした怪音?」
『こ、これ!』
そう言って怪音が送ってきたURLを開く。
「闇サイトじゃねぇか。今さらこんなモン……」
『しょ、賞金首! 賞金首一覧のトコ!』
「ん?」
促されるように、僕はそこに目をやる。
「……は?」
書かれていた情報に、思わず目を疑う。
何故なら……。
「どうなってんだよ……これ!?」
対象:
大惨事学園一年
懸賞金:3000万
期限:8月12日
牧野さんに、再び懸賞金が掛けられていたのだから。
◇
「ははは、今ごろ驚いてるかな。【
スマホに表示された牧野杏の懸賞金の画面を見て、【
「ふぁ~……」
その横で、一人の少女が大きな
「おや、起きたかい【
「うん」
【嘘笑】と呼ばれた少女は、寝ぼけ
「あー、多田の奴捕まったんだ」
「あぁ。けど無意味だ。こっちにはまだまだ
「おー、パチパチー」
迅たちの思考を完全に先読みし、それを潰すために周到な用意をしていた【冷笑】に、【嘘笑】は適当な拍手を送った。
「それにしても……さすが【常闇商会の】の
【冷笑】は近くに置いてあったコーヒーに口を付ける。
「さすがは、君の弟子……といったところかな?」
そして、彼はバーカウンターに座る男に視線を移した。
「どうだいクロード。自分の運営する闇サイトから、個人情報を抜き取られた感想は?」
「別に、なんとも思わねぇよ。アイツなら俺の防御プログラムを突破できても不思議じゃねぇからな」
クロードと呼ばれた男はグラスに入ったウイスキーを一気に飲み干す。
「なるほど、ツンデレってヤツだね」
「うるせぇ」
【冷笑】の軽口に対し、クロードはそっぽを向いた。
「ははは、つれないね。まぁいいさ。一
「ナイス多田。お前のことは忘れない。タブンネ」
【冷笑】と【嘘笑】はそう言って手を合わせる。
当然、そこにはなんの感情も籠っていなかった。
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