第63話 爆走番長(SIDE詩織&優斗)

 秋名走司。

 彼が初めて単車バイクに乗ったのは保育園児の頃だった。 


 肌で感じる風、身体中にたぎる熱。

 生じた圧倒的全能感。


 この時、走司は悟った。自分は、単車に乗るために生まれてきたのだと。

 

 単車の魅力に憑りつかれた走司は無免許で単車を乗り回し、湘南の夜道を走った。

 気付けば彼は、地元で一番の走り屋として名を馳せていた。


 その後【羅天煌】に入り、『捌番隊』の隊長として単車で全国を駆けた彼はその名を全国に轟かせた。


 ーー【爆走番長ばくそうばんちょう】。


 不良たちは、彼をそう呼んだ。

 

「ぉ、お前……ぇ!!」

「はは!! そんじゃあ、地獄のツアーにご案内といこうかぁ!!」

「ぐぅ!?」


 走司の威勢のいい声と共に、彼の単車の前輪が薬丸の腹部への激突する。


 コイツゥ!! 単車でそのま俺に攻撃かましやがった……!!

 ざけんなぁ、ンなメチャクチャな攻撃でぇ……!!


「俺をぉ、をぉをぉどうにかできると、思うなっよぉ!!!」


 薬丸は拳を握る。そして、


「フンッッッ!!!」


 バッキィィィィィィィィィン!!


 走司の乗る単車に拳を放つ薬丸。


「おいおい、ソイツは……悪手だぜ?」

「ッ!?」

 

 直後、薬丸の拳に激しい痛みが走る。


「ぁぁぁ……!!」


 なに……なんだぁ!? 麻薬ヤク強化バフった今の俺なら、鉄だろうと貫通できるはずぅ、なのにぃぃぃぃぃ!!

  

「コイツはちょっと特別製でなぁ。お前程度じゃあ、傷一つつけられねぇよ」


 走司の愛車、【牙狼丸がろうまる】。

【羅天煌】の力を借り超合金や超高品質の部品パーツを取り寄せ、一級整備士以上の腕を持つ走司が魔改造を施した単車である。


 約五百キログラムの重量でありながら、その最高時速は約七百キロ以上。加え圧倒的強度とパワーを誇る。

 名実ともに、度を越えた怪物車モンスターマシンだ。


「っなラァ!!」


 薬丸は狂気ってる目で、走司を見据える。

 そのまま運転している走司に向かい、パンチを放った。


「っと!!」


 だが、その攻撃も失敗終わる。

 攻撃が当たる直前、走司が薬丸の拳を受け止めたからだ。


「何ィ……?」

「おうおう、痺れるねぇ」

「どー、なってるぅ? なんでぇ、俺の攻撃をぉ止められるゥゥゥゥゥゥ!!??」

「決まってんだろ。単車に乗ってる俺が、最強だからだぜぇ!!」


 走司はそう言って単車から腰を浮かせ、薬丸の顔面へと蹴りを放つ。


「がぅ……!?」


 単車に乗ったままぁそんな激しい動きを……!?


「まだまだだぜぇ!!」

「っ!? ぐはぁぁぁぁ!!??」


 空中で車体を回転させ、その勢いを利用し後輪で薬丸を攻撃。

 さながら、単車の回し蹴りである。


 ドォォォォォォォォォォン!!!


 地面に叩き落とされる薬丸。

 

「ぁんで……生身の俺がぁ、単車に乗ってる奴にぃ見下ろされてんだよぉ……!!」

「よっと」


 ドシン!!


 薬丸が呟くのも束の間、走司は単車ごと落下し、綺麗な着地を決めた。


「す、すごい……アレが【爆走番長】、秋名走司さん……」


 目を見張り、詩織は走司をじっと見る。


 秋名さんが乗る【牙狼丸】の性能スペックはとんでもなく凄い。

 けど同時に、あれだけの怪物車モンスターマシンを乗りこなしてる秋名さんも同じくらい凄い。


【牙狼丸】と秋名さんは言わば一心同体……人馬一体ならぬ、!! どっちが欠けてもダメなんだ!!


 秋名走司。

 彼の持つ力は、圧倒的な運転技術ドラテク

 神から天賦の才を与えられながらもそれに胡坐あぐらをかくこと無く、常に努力し磨かれたその技術は他の追随を許さない。


 ――そして何より、彼は誰よりも単車を愛していた。


 単車に愛され、単車を愛する男。

 それが【羅天煌】元『捌番隊隊長』、秋名走司なのだ。


「さぁ、そろそろ終わらせるぜ」

 

 挑発気味に、走司はニヤリと笑う。


「はぁ……ん。てめぇ……!! 調子ちょーし、の、のののののんなよぉ。ぉ、終わんのはぁ、てめぇ……だぁ!!」


 ドクドクドクドクドクドク。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」


 薬丸の脳に、更に脳内麻薬が生成される。

 文字通り、限界まで。


 目は真っ赤に染まり、鼻の耳からは血を流し、身体中の血管は今まで以上に浮き上がった。


「フヒッ、フヒフヒフヒッ!!」

「ソレがてめぇのとっておきか」

「ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」


 今の薬丸に、まともな返答はできない。


薬物乱用ハイパードラックインフレーション:臨界点オーバーフロー


 彼は身体と精神の全てを麻薬ヤク漬けにされている。

 身体能力と集中力数秒前よりも向上し、痛みは全て快感に変わる。


「んじゃ、やるか。行くぜ、【牙狼丸】」


 ブルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!


 走司がアクセルを回し、【牙狼丸】が猛々しいエンジン音で応える。

 一人と一台、否……二人の準備が整った。


「目に焼き付けろ薬物中毒者ヤクチュー。これが、俺と相棒の力だ」


 そうして、走司と【牙狼丸】は発進する。


「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」

  

 対し、薬丸は笑い続ける。

 笑って、その場で構える。


 足を広げ、手を広げ、腰を落とし、走司らを受け止めるつもりだ。


「行くぜ、これが俺たちの必殺技ぁ!! 【烈轟レッツ・ゴー】!!!」


 ドゴオォォォォォォォォォォォォォォン!!!


 一車同体による突進特攻。

 圧倒的強度と速度を持つ【牙狼丸】とそれを百二十パーセント以上に引き出し制御できる走司だからこそ可能な技。


「アハッ、アハアハアハアハアハアハアハァ!!!」


 だが、臨界点オーバーフロー状態の薬丸はそれを止める。


 ガギギギギギギギギギギギギギギィィ!!!


「ははっ!!」


 そして走司もまた、笑っていた。


 ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!


【牙狼丸】の排気管マフラーから爆発音と共に、火花が散る。


「よく止めたぁ!! じゃねぇと面白くねぇからなぁ!! ここからがぁ、本領ほんばんなんだからよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 走司はそう叫び、ハンドルを切り車体を回転させる。

 しかもただ回転するだけではない。


 何回転も、何回転も、走司を乗せた【牙狼丸】は回転する。

 さながなそれはコマ。

 もっと言えばベ○ブレード。


 凄まじい回転による攻撃が、容赦無く薬丸を襲う。

 激しい密度と威力。


 それらはいとも容易く薬丸を……。


「フヒッ!? フハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァァァ!!??」


 吹き飛ばした。


「がぁ……はあぁ……ははぁ……」


 ガクガクと身体を震わせ、笑う薬丸。

 圧倒的な痛み……快楽に溺れながら、彼の意識は消失した。


 喧嘩の勝者、走司は愛車を停止させる。

 そして地に倒れている敗者を見ることなく、呟いた。


「ゴールイン、だぜ」


◆◆◆


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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