周囲から陰キャとバカにされる俺、実は全国制覇を成し遂げた不良グループの元総長~引退しても何かと不良たちに絡まれるが推しのVtuberの配信があるから邪魔をするなら容赦しねぇ。そこんとこ夜露死苦ゥ!!~
第48話 その陰キャ、ドッヂボールの標的にされる
第48話 その陰キャ、ドッヂボールの標的にされる
「ど、どうだった唯ヶ原?」
カレーを食べ終えた僕に、夢乃はそう問い掛けてきた。
どうって……カレーのことだよな?
そう考えた僕は、口を開く。
「はい、とても美味しかったですよ」
これは素直な気持ちだ。正直、僕が作るよりも美味いと思う。
「ほ、ホント!? 良かったぁ……」
僕の返答を聞いた夢乃は、安堵したように胸を撫で下ろした。
『ふふーん』
そして、そんな夢乃を見ながら、黛と来栖は目を細めニヤニヤとした、どこか温かい視線を彼女に送った。
「な、何よ二人共……」
訝し気な目を向ける夢乃。
「ん~別に~?」
「何も無いよー? ただましろにもようやく春が来たかと思ってさー」
彼女に対し、二人は誤魔化すように言った。
◇
「誠くん、私疲れたー。どっかで休もう。二人きりで」
「そうだな」
昼食を終え、レクリエーションまでの自由時間。
エミは誘い、どこかで適当に時間を潰そうとしていた。
そこに、一人の少年が声を掛ける。
「が、咢宮殿!!」
「んあ?」
振り返る誠二。彼の目の前に現れたのは隼太だった。
「どうした柿崎?」
「そ、その……さっきは大変感謝でござる!!」
「あぁ? 何のことだよ?」
「昼食の際、羽柴殿に疑問の声を呈してくれたことでござるよ。自分も思っていたでござるが、実際に言い出すことができなかったでござる……」
「何だ、そんなことか。別に気にすんな。俺がやりたいようにやっただけだからな。それに、あんなこと言っても意味ねぇってのは、お前なら分かんだろ」
「そ、それはそうでござるが……」
誠二の言葉の意味を、隼太は理解していた。
羽柴優斗、彼の家はとても金持ちで大きな権力を有している。学校にも多額の寄付をしており大概のことは黙認される。隼太への虐めが良い例だ。
加え、そもそもの話……優斗自身が学校の生徒たちに
「そ、それでも……す、凄いでござるよ咢宮殿は。拙者には、反発する勇気など……無いでござるから……こ、この前だって……」
「……凄くねぇよ。俺は、全然凄くねぇ」
ポツリと、誠二は呟く。
そこには自身を卑下する思いが、明確に含まれていた。
カッケェ不良になるために、無闇に人を殴んのを辞めた。筋の通らねぇことから目を背けんのを辞めた。
だが……俺はまだ、弱い。
これじゃあ、ダセェままだ。
強くなるんだ。カッコよさを押し通せる力を、手に入れるんだ。
この前の一対三で負けてるようじゃ話にならねぇ……!!
「エミ、悪いな……俺ちょっと鍛えてくる」
「えぇ!? 私との二人きりの時間はぁ!?」
「悪いな。また今度埋め合わせるからよ」
そう言って、誠二は走り出してしまった。
『……』
そして、その場に残ったのは隼太とエミのみ。
エミは隼太をキッと睨みつけた。
「アンタねぇ……!」
「す、すすすすまんでこざる沢渡殿……!!」
陽キャ女子であるエミの視線にいとも容易く屈した隼太は、頭が振り切れんばかりの速度で謝罪をかました。
「はぁ……ま、いいわ」
「え、ゆ、許してくださるでござるか……?」
「何ソレ、どういう意味よ?」
「い、いや……沢渡殿は何と言いますかその、もっと……直情的なイメージでしたので……」
「喧嘩売ってる?」
「す、すみませんでござる!! そそそそそそういう意味で言ったワケでは無いでござるぅぅ!!」
隼太二度目の謝罪をかました。
「……ま、否定はしないわよ。この前までの私だったら、頭ごなしにアンタを責め立ててた」
すると、バツの悪そうな顔で、エミは呟く。
「けど……誠くんが変わって、私も……変わらないと誠くんに……愛想尽かされちゃうかもしれないから……」
沢渡エミ。
彼女は、夢乃と違う意味でキツい性格をしている。
そうなったのは彼女の家庭環境、ひいては父親に原因がある。
エミの父親は毎日、彼女の母……自身の妻に罵声を浴びせ続けていた。
子供は、親の影響を受けて成長する。言い換えれば、親の真似をする。
エミが吸収したのは、気に入らないものに罵声を飛ばす父親の姿であった。責められ続ける母親を見てきた彼女は、こうはなるまいと……
言ってしまえば、自衛手段にも等しい。
そんな彼女もまた、自身の恋人に感化され、変わろうとしている。
例えそれが強迫観念に近いモノでも、変わろうとしていることは紛れもない事実だ。
変わる……そうでござる。
変わらなきゃ、いけないでござる。
最初は、アニメやゲームさえあれば、自分はどれだけ虐げられようと、良いと思っていた。
けれど、今の拙者には……いるでござる。
そうして隼太が思い浮かべたのは、同じ志を持つ友。唯ヶ原迅のことだった。
中学までの拙者ならば、学校生活などどうでも良いと思っていた。しかし今の学校生活は、中学とは比べ物にならない程、楽しい……!!
だから、このままいつまでも羽柴たちの良いようにされ続けるなど、到底許容できるモノではござらん!!
隼太は心に決める。
アニメやゲームのためでは無く、一人の青春を謳歌する多感な高校生……その象徴たる学校生活を守るために、声を上げることを。
……が。
◇
午後はレクリエーション大会。
クラスという括りを取っ払い、合宿に来た生徒たちがサッカーやバスケなど様々な競技で親睦を深めている。
その中で、迅と隼太が参加することになったのは『ドッヂボール』。
そして、問題が発生したのはゲーム終盤になったからだった。
ど、どうしてこうなったでござるか……?
自身が置かれている状況に、困惑する隼太。
それもそのはず。
今現在、
当たり障りなくやり過ごそうと思っていた彼らだったが、気付けば生き残っている最後の二人という何とも責任重大な
「うぇーい!」
そして、相手の内野からボールが飛んでくる。
ボールは弧を描いて隼太たちの上空を通過すると、相手の外野へパスされた。
次は外野が左右の外野にパスを回し、再び内野に。
そんなことか何度も何度も繰り返される。
聞こえてくる周りからの声、その
これは勿論、優斗の差金だ。
彼を慕う者たちを密かに扇動し、この状況を作り上げた。
圧倒的な辱め。
隼太はすぐさまその場を駆け出したい衝動に駆られる。
「ほらほらどーした柿崎ぃ? 動かねぇとボールは取れねぇぞぉ!」
「ま、そんなだらしねぇ身体で動けるわけねぇかぁ!」
名も知らない生徒から煽られる隼太。
周囲からのクスクスという笑い声は、確かに彼の耳に届いた。
隼太の顔が、紅潮する。肩が震える。
声を上げ、抵抗する意思を見せる決意をした隼太。その決意虚しく、彼は動くことができなかった。
これだけの大人数で見せ物にされ、辱めを受けているのだ。無理も無い。
だが、今の隼太にとってそんなことは関係ない。動き出せない自分という存在を、彼は悔やんだ。
「唯ヶ原ぁ! てめぇもだぜぇ! ボーッと突っ立ってねぇでちゃんと動けよぉ!」
迅に対しても飛ばされる嘲笑。だが……。
……。
そんなもの、彼は気にも留めない。
当然だ。その身の強さ一つで成り上がり続けてきた元不良の迅にとって、このような仕打ち、跳ね返すにも値しない。
……そのはずなのだが、
ーーイラァ
迅は、無性な苛立ちを感じていた。
唯ヶ原迅。
柿崎隼太が友のために抵抗を試みようとするのと同じように、彼もまた……初めてできた趣味や共有する友を貶されることに、怒りを覚える程度には、
一般人に近づいていた。
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