第36話 陰キャ率いる不良少女、抗争で暴れる 後

 龍子と琥珀が鍔迫り合いをするほぼ同時刻、【永劫輪廻】幹部である桑名狂平の合図の元、対琥珀戦の肉壁兼囮として利用されるはずだった下っ端たちは一斉に九十九へと襲い掛かった。


「うへぇ、ゴキみたい」


 あまりの敵の多さに辟易へきえきとする九十九。

 そんな彼女が先ず行ったのは、跳躍し後方へと距離を取ること。


「どうしたどうしたぁ!!」

「今更怖気付いてももう遅いぜ!!」


 煽る大那と狂平、だがそんな彼らの戯言には耳も貸さず、九十九は次の動作を開始する。


 それは腰を落とし、足に力を入れるという、予備動作モーション


「れっつ、ごー」


 そう言って、九十九は……。


 ドゴォォォォォォォン!!

 

 地面を蹴り、自身を弾丸のように発射。目前に迫る雑踏に、正面から突っ込んだ。


『ぎゃあああああああああ!!??』


 響く、下っ端モブたちの断末魔。

 瞬きほどの間に、九十九は不良の集団を中央から抉りながら吹き飛ばす。


「っと」


 そして集団の中心部まで到達し、軽く息を吐いた。


「てめぇ!!」

「このアマァ!!」


 が、間髪入れず不良たちは九十九に襲い掛かる。

 三百六十度……全方位から仕掛けられる攻撃。加えて圧倒的な人数差。

 九十九はそれを、


「ほい」

『ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!??』

 

 ものともしない。

 曲芸トリッキーな動きで攻撃を避け、即座に反撃カウンター。また不良を持ち上げ投げ飛ばし、周囲の不良を巻き込みながら倒す。

 そんなことを繰り返し、本来であれば成立するはずのない戦いを成立させてしまっている。

 数十人いた【永劫輪廻】の下っ端たちは、瞬く間に意識を失いその場に倒れた。


「そ、こまでだぁぁぁぁ!!」

「ん?」


 野太い声に反応し、九十九は上を見上げた。


 ドゴォォォォォォォォン!!


 その瞬間、彼女のいる位置に何者が勢いよく落下する。

 寸前でそれを回避した九十九。彼女が元いた位置には、巨大なクレーターが形成されていた。

 

「ちっ、避けやがったか……」


 舞う土煙から姿を現したのは【永劫輪廻】幹部、志倉大那しくらだいな

 彼は忌々しそうな視線を九十九に向けた。


「まぁいい。下っ端コイツらのおかげで、かなり体力を消耗させられたしなぁ」


 大那の言う通り……九十九は確かに、多少ながら体力を減らしていた。一度に数十人という数を、数分の間に倒したのだから当然と言えば当然だ。


「【汚物消毒撃おぶつしょうどくげき】!!」

 

 そこに、追撃。

 燃え上がる炎が、背後から九十九を襲った。


「……」


 見事な反射神経を見せた九十九は、上空へと跳躍し、それを回避する。


「一瞬意識が切れた所を狙ったんだが、それでも避けるか。どういう反射神経をしてるんだ?」


 炎を放射したのはもう一人の幹部、桑名狂平。

 彼の武器は手首に仕込んである『小型火炎放射器』。これを利用し、炎で相手を燃やすのが彼の戦闘スタイルだ。

 通常、無作為に放射される炎は扱いが難しい。だが狂平は技を磨き、炎を自分のモノにした。

 不良たちは彼を、【炎の魔術師】と呼ぶ。


「終わりだぜ。疲弊した状態で俺たちと戦える道理ワケがねぇ」

「俺たちを舐めたこと、後悔させてやる」


 そう言って、大那と狂平はほぼ同時に疾走はしる。


「疲弊させたと言っても油断はできねぇ!! 警戒を緩めんなよ狂平!!」

「当たり前だ!!」

「……はぁ」

 

 そう言葉をかわすさ彼らに対し、九十九は思わず溜息を吐く。


「あぁ? 何だ」


 そんな九十九の様子に、思わず大那は問い掛けた。


「お前ら、身の程……分かってない」

「はぁ!?」

「何を言ってる。聞き捨てならないな」


 突然放たれた九十九の言葉に、大那と狂平は反応するが、構わず九十九は続ける。


「行き過ぎた『警戒』は、自分にブレーキ掛ける。リスク、取らなくなる。けど弱い奴が強い奴に勝つには、リスクを取るしかない。お前ら、九十つく……私より弱いくせに、リスク取らないで勝とうなんて、甘々」 

『っ!!』


 そしてほぼ同時に、彼らは疾走はしる。

 彼らの頭には血が上っていた、激怒キレていた。

 しかし、それはそれとして頭は冷静。

 適度な距離を保ちながら、二人は攻撃を仕掛ける。


「おらぁ!!」


 ビュン!!


 手を突き出した大那の甲から放たれたのソレを、九十九は確かに視認する。


 アレは、鉄板の残骸かけらか。


 九十九の考えは当たっていた。

 志倉大那、彼の武器は『鉄板』。

 腕につけている特殊なグローブにより、鉄板の破片を飛ばすことが可能。

 そして、これは確実なる一撃を決める為、九十九の意識を誘導するための、大那のわな


「喰らいやがれぇ!!」


 九十九の意識が逸れている隙に距離を詰めた大那。

 彼は本命の一撃を打ち込む為、拳を握る。


 グローブの機能により、一瞬で鉄板を腕全体に纏わせ、放つ……鋼鉄の打撃。

 彼の二つ名、【鋼鉄男アイアンマン】の由来。


「【鉄腕阿斗夢マン・オブ・スティール】!!」


 それは九十九に向かい、容赦無く迫る。

 

「鉄板で強度と硬度が上がった俺の拳ぃ!! 何処に当たっても大ダメージだぜぇ!!」

 

 銀色の拳。

 対し、九十九は冷たく、大那を見据える。


 ーーそして、


「あ。もう一つ、言い忘れてた」


 思い出したように、呟く。


 バキィィィィィィィィン!!


「……あ?」


 目の前で起きた光景に、大那は目が点になる。

 無理も無い、自身の放った渾身の一撃……それは九十九のにより、いとも容易く止められてしまったのだから。


「お前ら如きが、私を推し量るな」

「っ……!!」


 な、何ィィィィィィ!!??


 あまりにも非現実的な出来事、大那に衝撃走る。


 ピキィ……バリン!!


「なぁ……!?」


 そして直後、大那の鋼鉄のグローブがひび割れ、破損した。


「あ、あり得ねぇ……!! 何が起きたぁ!?」


 慌て、再び九十九から距離を取ろうとする大那。

 彼に追撃をかまそうとする九十九だが、


「させるか!! 【汚物消毒撃おぶつしょうどくげき】!!」


 後方に陣を取っていた狂平が再び炎を発し、それを阻止する。


素敵ナイスだ狂平!! 見せてやろうぜ俺たちの完璧な連携コンビネーション!!」


【永劫輪廻】の幹部である大那と狂平。彼らの連携はチーム内でも一番ピカイチ。他の下っ端たちとは比べ物にならない。 


「メンドウ。まずは……お前」


 煩わしさを覚える九十九。

 その連携を崩す為、ず彼女が狙ったのは、炎を操る狂平だった。 


 俊敏はやい……!! こっちを振り返ったと思えば、即座に俺の眼前に……!! 

 だが、甘い……!! 距離を詰めれば俺が炎を出さないとでも思っているんだろう!! 残念だがそうはならない!!

 俺の衣服ふくは全て難燃性の繊維質とジェルポリマーで作られている!!

 燃えるのはお前だけだ!!


 喰らえ、ゼロ距離の【汚物消毒撃】を!!


 そうして、狂平は手首のスイッチを入れる。

 しかし、


「あ……?」


 炎が、出ない。

 それもそのはずである。


 こ、壊れている……!? 俺の『火炎放射器』が……!!

 

「これで、炎もう出ない」


 答えを示すような、九十九の呟き。

 そんな彼女の手は……『貫手ぬきて』の形を取っていた。

 信じたくない事実に、狂平は目を見開く。


「まさか、壊したのか……今の一瞬で!?」

「一瞬、それだけあれば十分」


 そう呟き、九十九は腕を引く。そして、


「【猫の指も借りたい】」


 貫手とは手の指を真っ直ぐ伸ばし、指先で相手を突く技。

 指先の鍛錬をしないものがこれを行うと指先を痛めるおそれがあるが、通常の突きやパンチよりも力を一点に集中させることが出来るため、急所に撃つ際は、非常に大きなダメージを与えることが出来る。


 ――が、それは『一般的』な話。


【悪童十傑】が一人、元【羅天煌】『伍番隊隊長』、すめらぎ九十九つくも

 彼女が突出しているのは……

 異常なまでの発達を遂げた彼女の指。

 手の指は鉄やコンクリート、果てには人体まで貫ける破壊力を持ち、足の指はすさまじい跳躍力と加速力を生む。


 そして、そんな指をって放つ高速の貫手は……。


 ズババババババババババババ!!


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 どこに当たっても相手に大ダメージを与える、凶悪な技へと進化へんかを遂げる。


「な、何がぁ……あがぁ……ぁ……」


 約三秒間の内に放たれた、百発の貫手による突き。

 何が起こったのか分からず、ただ身体中に穴が空いたような錯覚かんかくだけはありありと存在する狂平。彼の意識がそこで途切れた。


「な、何だよ……お前……」


 そんな狂平の散り様を、大那はただ茫然と眺めることしかできなかった。


「なんなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

「うるさい」

 

 ドス……!!


「ごほぅ……!?」


 足の指に力を入れ、一瞬で十数メートル離れた大那と距離を詰め、彼の鳩尾みぞおちに的確な突きを一発放つ。


 大那の意識を飛ばすには、それで十分だった。


「にんむ、かんりょー。ご褒美くれるかなぁ、お兄ちゃん」


化猫ばけねこ】、皇九十九。

 彼女は責務を全うした。


 ーー後は、ただ一人。


◆◆◆


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 九十九カッコいい!

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