第12話 その陰キャ、颯爽と登場する
「くそっ!! くそっ!! くそっ!!」
誠二の苛立ちと焦りは頂点に達していた。
無理も無い。
今日が【終蘇悪怒】が指定した約束の期日。すなわち、今日犯人を見つけることができなければ、彼はおしまいなのだから。
この一週間、誠二は『大惨事学園』内の
しかし、これといった成果は得られていなかった。
全員知らぬ存ぜぬの一点張り、どれだけ誠二が脅そうとも男子生徒たちは自分が犯人だと言うことも無く、犯人が誰なのか知っている者もいなかった。
当然と言えば当然の結果である。
あり得ねぇ!! 何でだ!? 何で誰もいやがらねぇ!! 立川さんをぶっ飛ばすような野郎だ……それだけの実力があんなら絶対心当たりのある奴がいるはずなのに……!!
ギリィ……と、歯を食いしばる誠二。
マズい……!! このままじゃあ……!!
誠二の鼓動は加速し、圧倒的な悪寒が背中を走る。近付く自身の破滅に、身体が震えを始めていた。
に、逃げる……そうだ……逃げよう!! 逃げてやり直すんだ!! 全部、全部……!!
善は急げ、彼は逃走を図ろうとするが……、
「咢宮」
「っ!?」
突如として彼の目の前に現れた【終蘇悪怒】ナンバー2であるモッチーによって、彼の身体は硬直した。
「どう? 犯人見つかった?」
「いや、あの……」
「え? 何、聞こえないんだけど」
「そ、その……えと……はは」
「何笑ってんの? 僕は見つかったかどうか聞いてるんだけど? ま、「見つかった」以外の答えは受け付けないけどね」
「……はは」
誠二は笑うしかなかった。否、笑うことしかできなかった。
そしてその意味を、モッチーは理解した。そして、
「……はい、罰ゲーム決定」
不快感を孕んだような声で、そう宣告したのだった。
◇
東京都杉並区郊外:【終蘇悪怒】アジト
「はーい、何か申し開きはあるかー?」
チームのナンバー2であるモッチーは鎖で逆さに吊し上げられている誠ニに対し、冷徹な視線を向ける。
「カンベン……カンベンしてくださぁい!!」
この状態になる前に、既に拉致された車の中で既に多量の暴行を受け、ボロボロになっていた誠ニは喚くように許しを乞う。
だが、当然そんなものは彼らの心に響きも届きもしない。
「おいおい、なーにみっともねぇこと言ってんだお前? てめぇが言ったんだぜ? 一週間以内に犯人見つけられなかったらどうにでもしてくれってよぉ?」
そう言い放つのはナンバー3のハッシーだ。
彼は誠ニを吊るしている鎖を持ち、腕を上下に動かしている。
それに伴って、誠ニもまた上下に動いていた。
「ま、そもそもお前には最初から期待してなかった。僕たちの本命は、こっちだ」
「……誠ニ」
「し、詩織……!」
意図せぬ幼馴染の登場に、誠ニは唖然とする。
「ちょうどお前の近くにいたからさぁ。ついでに拉致って来たんだ。やっぱり、その場にいた奴に聞くのが一番手っ取り早い。忘れただの、すぐに行っちまったから覚えてないだの、そんなのその場凌ぎの嘘に決まってる。この女は、覚えてるはずだ……なぁ?」
「ぐっ……!」
頭部を掴まれ無理やり顔を上げさせられる詩織は、苦しそうな声を漏らす。
「うぅ……!! あぁぁぁぁ……!!」
誠ニは泣いた。みっともなく鼻水と涙を流し、それらはポタポタと地面へ滴り落ちた。
それが何もできない無力感からなのか、後悔からなのか、罪悪感からなのか、誠ニ自身も分からない。
「うるせぇなぁ。しゃーねぇ、さっさと罰ゲーム始めるかぁ。てめぇら! 今から何回でコイツの意識がトブか賭けろ!」
「十回に一万!」
「八回に五千!」
「十五に一万五千!」
ハッシーがそう言うと、その場にいた大量の【終蘇悪怒】の下っ端たちが野太い声で、賭け金を提示していく。
「んじゃ、咢宮。いくぜぇ」
「へ、へっ。何を……ぉ!?」
誠二が全て言い切るより前に、ハッシーは持っていた鎖を離す。
それにより誠二は落下。だが、地面に落下したわけでは無い。彼は
彼の真下にあった水の溜まっていたドラム缶に、頭から。
「ぐぼぉ……!? おぼぼぼぼぼぼ……!!」
水がゴボゴボと激しい音を立てる。そして十秒後、ハッシーは鎖を引き上げた。
「がぁっ!? ごほっ、ごほぉ……!! ぁがぁ……!! はぁ……!!」
逆さのまま入水させられた誠二は呼吸もままならず、鼻から入った大量の水に意識を削がれていく。
「へーい、じゃあ二回目ー」
「ちょ、待っ……ごぼぉ!?」
誠二の声も虚しく、数秒のインターバルを置いて即座に始まる二回目の入水。誠二は再び苦悶と苦痛の狭間に強制的に追いやられた。
死ぬ!! 死ぬ、死んじまう……!! ヤベェ、ヤベェよぉ……!!
「二回目しゅーりょー」
「がぁ……っはぁ……!! はぁ……!」
二度目の浮上、誠二は既に満身創痍……いつ気を失ってもおかしくは無い様子であった。
「おいおいまだ二回じゃねぇかよぉ!」
「しっかりしろよなぁ! 俺が賭けてる回数まではへばるんじゃねぇぞぉ!!」
が、そんな彼に対し
【終蘇悪怒】の下っ端たちは、自分が賭けた回数を誠二が耐えるように攻め立てる者しかいなかった。
「んー、まだ意識あるなぁ。じゃー三回目いくぞー」
「おぉぁま、待って下さい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「あー? 謝罪なんていらねぇんだよ。約束破ったら罰ゲームを受ける。これがウチのルールだからなぁ」
「ま、待って!! 本当に、本当に待ってください!! このままだと死にます俺ぇ!!」
「だいじょーぶだって。こんなことで死にやしねぇよ。気ぃ失うだけだって。優しいだろぉ俺? なぁお前らぁ!」
『ははははははは!』
アジト中に笑い声が響き渡る。容赦のない加害者の声が、愚者を包み込む。
「ぐうぅ……!! あぁぁぁぁ……!! ぁぁ……!」
誠ニは泣いた。ただたた泣いた。
メンツも、意地も、プライドも、全てを置き去りにするように、泣いた。
まるで、自身の惨めさを嘆くように。
何で、何でこんな……こんなぁ……!! 俺は、俺はぁ……!!
◇
「……じゃあ、こっちも始めようか」
罰ゲームを受ける誠二を横目に、モッチーは特段気にすることなく詩織に命令を下した。
「さっさと話せ女。正直に、本当のことを」
背後から放たれる彼の圧に、詩織は心臓を後ろから掴まれるような錯覚に陥る。
「あー、そうだ。その前に、とりあえず」
ふと、モッチーは思い出したように詩織の制服に手を掛けた。そして、
「っきゃ……!!」
「逃げられないように、服剥がさせてもらうよ」
無慈悲にそう宣告する。
正面から服を引き千切られた詩織は、思わずその場にしゃがみ込み、彼を見上げる。
「さぁ、答えろ。お前を助けたのは……麗斗さんをやった奴は、誰だ?」
「……」
「答えろ。この期に及んで、無言は通らない」
「……」
「おい」
「……き、来ます……よ」
「……は?」
「私が、わざわざ教えなくても……
「何言ってるの、お前」
訝し気な目を向けるモッチー。
次の瞬間、
ドゴォォォォォォォォン!!!
アジトの壁が、勢いよく吹き飛んだ。
「な、何だ……!?」
あまりにも突然の衝撃に、モッチーを含めた【終蘇悪怒】の面々は驚きを隠せないでいた。
「っと」
「よっと!」
大きく空いた壁の穴、そこから二人の人影が現れる。
「誰だ、お前ら……?」
モッチーは問い掛ける。
「見て分かるだろ。鹿です」
「宇宙人だぜ!」
鹿の被り物と宇宙人のマスクを着けた二人は、そう答えた。
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