周囲から陰キャとバカにされる俺、実は全国制覇を成し遂げた不良グループの元総長~引退しても何かと不良たちに絡まれるが推しのVtuberの配信があるから邪魔をするなら容赦しねぇ。そこんとこ夜露死苦ゥ!!~
第10話 その陰キャ、ASMRを聞く(誠二は破滅の道を進む)
第10話 その陰キャ、ASMRを聞く(誠二は破滅の道を進む)
あの後――つまり話し合いがゴミになった後、僕と坂町はすぐに解散。
早朝だったこともあり、坂町は一旦家に戻り平然とした様子で学校に登校してきていた。
疲れを全く見せない振る舞いや目のクマが化粧で取れているのを見ると、学校では本当にちゃんとしているのだと実感する。
対して、僕はというと……。
「あー……」
「じ、迅殿大丈夫でござるか? 目のクマが凄いでござるよ」
「あー……」
早朝の坂町の発言、アレは正に真理だった。
不良チームである【終蘇悪怒】をどうにかするよりも、僕が犯人であることを悟られぬようにする方が何千倍も現実的で労力も掛からず、リスクも低い。
僕がすべきことは、【終蘇悪怒】の奴らに脅迫され情報を吐かされる可能性のある坂町を陰から守る。それだけだ。
「はぁー……」
野蛮な解決方法しか思い浮かばなかった僕は、まだ『不良』が抜けていないのを実感し、溜息を吐く。
マジで何だったんだあの時間。夜はくくるちゃんのアーカイブを観るつもりだったのによぉ……。
まぁ、でも昨日はくくるちゃんの配信が無かっただけマシか。もし配信があって、リアルタイムで視聴ができなかったら死んでたぜ。
とりあえずプラスに考えてみるが、気分は一向に晴れない。
真理に打ちひしがれ、虚無感に駆られ、何もやる気が起きないのである。
――こういう時は、
『はーい皆ぁー! 今日は、少し恥ずかしいけどASMR初挑戦! くくるの声で、少しでもくくっ子の皆が癒されてくれたら嬉しいな!』
推しのASMR配信を聞くに限る。
「お、くくるちゃんのASMR配信ですか。確か彼女がASMRをやったのは一回限りでしたな」
隼太の言う通り、くくるちゃんがASMR配信をしたのは一年ほど前の一回きり。
それ以降は一度もやっていない。
つまりどういうことかと言えば、この配信は砂漠の中のオアシスということだ。
「はぁ~……くくるちゃんの囁き声……堪んねぇ……」
『今日もお疲れ様……いい子いい子』
「へへへぇ~……」
「迅殿……拙者が言うのもなんですが、今相当キモいでござるよ」
◆
「おい! 正直に答えろ……!! 立川さんをやったのはお前だろ!?」
「ち、違うって……!! 俺じゃないよ!」
迅がASMRで癒されている一方その頃。
大惨事学園の校内では、誠ニが血眼になって麗斗を殴った犯人を探していた。
「お、落ち着いて下さいよ咢宮さん」
「あぁん? 何か文句でもあるってのか……?」
「っ!? い、いえそういうワケじゃないんすけど……」
誠二の目の圧に、取り巻きAは委縮する。
ちぃっ……!! この学校内にいることは間違いないんだ……!!
何としても、なんとしても見つけねぇと……!!」
約束の期日まであと六日しかねぇ……!! もし、もし見つからなかったら……!?
そう考え、思い浮かぶのは立川の顔。
「っ!!」
圧倒的な悪寒と恐怖が、誠ニの身体を駆け巡る。
ぜ、絶対に見つける!! 俺はこんなトコで終わるタマじゃねぇんだ!!
ここを乗り越えて、成り上がる男なんだ……!!
「咢宮さん!」
歯ぎしりをし、拳を握り締める誠二。そこに取り巻きBが戻って来た。
「どうだった!?」
「ダメでした!」
「成果があったみたいなトーンで言うんじゃねぇ!」
「すみません……!」
Bは即座に頭を下げる。
「もー誠ニ。犯人探しなんてやめて遊びに行こうよー」
すると、空気を読まずに誠ニの彼女であるエミがそんなことを言い出す。
っこの
誠ニは激しい苛立ちを覚えるが、それを口に出すことはしなかった。
「ど、どうしましょう咢宮さん。もうそれっぽい奴らには全員話を聞いたんすけど……」
「……」
この学校の生徒で、どこにでもいそうな普通の奴。それが麗斗が言っていた犯人の特徴だ。
しかし、誠二たち三人掛かりで捜索をしても、めぼしい成果は得られていない。
クソが……!!
激しい苛立ちを募らせる誠二だが次の瞬間、彼は思う。
そうた。ひょっとして、立川さんの勘違いなんじゃないか?
だってそうだろ。普通の奴が立川さんを気絶させられるワケがない。
つまり、立川さんをやったのはこの学校の腕っぷしが強い生徒。そうだ、そうに決まってる。
理論的な思考で、誠二は結論づける。
よし、そうと分かれば行動あるのみ!!
……あ、そうだ。坂町にももう一度話を聞いておこう! 何か思い出しているかもしれないしな!
再び前向きになり、明後日の方向に進み続けようとする誠二。
そんな彼の前に、
「あ、誠二……」
詩織は現れた。
「……よぉ詩織。ちょうど会いたかったトコだ。てめぇを助けた野郎だが、本当に分からないのか?」
「だから分からないって、昨日も言ったじゃん。唯ヶ原君は人違いだったし、それよりも誠二、昨日どうやって【終蘇悪怒】を追い払ったの?」
「あぁ? ンなもん俺が代わりに犯人を探すって言って退いてもらったに決まってんだろうが」
「っ……。それって、期限は?」
事情を理解し、ポツリと尋ねる詩織、それに対し誠ニは「ちっ」と舌を打った。
「一週間だ。まぁ安心しろ! 犯人の目星はついてる! これで俺は昇格間違いなしだ!」
大声で笑う誠ニ、全ての事情を知っている者からすれば、それは滑稽に他ならない。
しかし、詩織は違った。
「ねぇ、やめといた方がいいよ。危険すぎるって!」
「うるせぇ! 俺はこんなチンケなトコじゃ終わらねぇ! 絶対不良界のトップに立つんだよ!」
心の底から心配する詩織だが、誠ニには届かない。
彼女の制止の言葉が通じない彼は、着実に破滅に道を歩み続けるのだった。
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