第4話 その陰キャ、学園のアイドルに素顔を知る

「はぁ……はぁ……はぁ」


 こ、ここまで来れば大丈夫だろ。

 

 上履きのまま校舎裏まで来た僕はキョロキョロと辺りを確認する。


 周囲に人の気配は無い。僕たちを追ってきている奴もいない。


 以上を確認した僕は、一呼吸。

 

「……」


 そして目の前にいる坂町詩織に向け、言葉を発した。


「おい……。昨日言ったよなぁ俺。礼はいらねぇってよぉ……?」


 最早コイツに対してまともに取り合うことは無駄だと判断し、は少し手荒な方法を取ることにする。

 ――つまり、『脅し』である。


「いいか。昨日のことは絶対に他言バラすな。俺に関わるのも止めろ。これは最後通告だ。いいな?」


 ドスの利いた声で、坂町詩織に圧を掛ける。

 大抵の奴はこれで落ちる。


「……」


 落ちる、はずなのだが……。


「……」


 どうしてコイツこんなに目を輝かせてやがるんだ……!?


 想定していたのとあまりにも違う坂町の反応に、俺は少しばかり混乱した。

 あまりにもキラキラとした目は、俺を捉え続けている。


「ようやく、二人きりで話せますね!」

「っ!?」


 何だ、コイツ……!! 


「あ、安心してください。唯ヶ原君が何をしたのかを他言するつもりはありません」

「はぁ? なら、どうして俺に近付いてきた?」

「そ、それは別の理由で唯ヶ原君と話したかったからです」

「別の理由……?」

「はい! あ……でもその前に私のことを先に説明しないといけないですね」


 訝し気な目を俺が向けると、坂町は笑顔で話し始めた。


「実は私……大の不良オタクなんです!」

「……」


 不良、オタク……? 何だ、それは……。


 あまりにも聞いたことの無い用語に、俺の脳は一瞬フリーズする。


「そんなに難しく考えなくていいですよ。要するに不良が好きってことです。唯ヶ原君がVtuber好きなのと一緒ですよ」

「な、なるほど……」


 いやなるほどってなんだ。変に納得するな俺。


 自分自身にツッコみを入れる。間髪入れずに、坂町は話を続けた。


「昨日はいつものように陰ながら不良の観察をしていたんですが私の注意不足で捕まってしまいまして。並の不良だったら何とか逃げられたんですが……なにせ相手は東京でトップの呼び声も高い不良チーム【終蘇悪怒オズワルド】のナンバー2、立川麗斗たちかわれいと。逃げることはできませんでした。ですので不良オタクのはしくれとして処女の一つや二つ、覚悟していたんですが……」


 いや、処女って一つしかねぇだろ。お前の膜は再生すんのかよ。


「そこに現れたのが唯ヶ原君です。私はダメ元で君に助けを求めました。どうせ無理だろうなと思いながら……。けど、結果は違った! 君はあの立川麗斗を一撃で、しかも壁にめり込ませた! 教えて下さい唯ヶ原君! 君は一体、何者ですか?」

「……」

「不良名鑑や不良ランキングをいくら調べても、君のことは出てきませんでした! けど、ただの一般人にあんな芸当ができるはずが無い! さぁ、私にテルミー!!」


 坂町の顔が、俺に接近する。

 なんだろう……多分きっと、コイツは美人の部類に入るのだろうが、全くドキドキしない。


「……はぁ」


 俺は、大きな溜息を吐く。

 これは諦め、観念の溜息だ。


 荒れる鼻息、熱い視線、真剣な表情――それらが、コイツなら話しても大丈夫かと、俺に思わせたのである。

 加えてこれ以上の脅しは無意味。そう判断した俺は、ゆっくりと口を開く。


「仕方ねぇ……」



「ほほほへへへっひひひひひ!!」


 俺が本当のことを話すと、坂町はとても奇妙な笑い声を上げ、その場に倒れた。


「お、おい大丈夫か……?」

「う、うん! だ、大丈夫大丈夫!! ま、まさか唯ヶ原君がで、ででででで伝説の【悪童神ワルガミ】だなんて……!! あまりの情報量の大きさに、私の脳が耐えきれなぁい!!」


 坂町は頭を抱えてのたうち回る。ここまで来ると最早面白かった。


「とりあえず、そういうわけだからもう俺に関わるなよ。助けた奴は人違いってことにしろ。俺は今の平穏な生活を守りたいんだ」

「うん、分かった! ……でも、多分もうそれじゃあ事態は収まらないと思う」

「はぁ? 何でだよ?」

「だって、唯ヶ原君。【終蘇悪怒】のナンバー2をあんな風にあっさり倒しちゃったんだよ? 今頃【終蘇悪怒】が君のこと探し回ってるんじゃないかなって」

「……」


 ――マズい。


 俺の頬に汗が伝う。

 完全に失念していた。昨日俺がしたことは、口封じとかそれ以前の問題で目立ち過ぎていたことに、ようやく気が付いた。


 ヤベェ、ヤベェぞ……。


 危機が迫る。

 それは【終蘇悪怒】とかいう良く分からんチームのこともだが、最も大きな危機は別にある。

 

 俺が総長を務め、数か月前に解散したチーム【羅天煌】。

 そのメンバーに、俺の居場所がバレる。それが一番の危機であった。


「ど、どうしたの唯ヶ原君?」


 頭を抱える俺に対し、坂町は心配そうに声を掛ける。


「アアァァァイヤアァァァァァァァ!!」

「ちょ、何でさっきの私よりのたうち回ってるの!? 人生逆転を賭けたギャンブルで負けた人みたいになってるよぉ!!」


 俺の絶叫は、虚しく空に木霊こだました。 

 


「ふんふんふ~ん」


 その少女は廃ビルの屋上から、東京の景色を眺めていた。

 それだけならばまだ理解できなくも無い。だが問題なのは、彼女が立っているである。

 彼女は屋上のフェンスのに立っていたのだ。


 一歩間違えれば落下、死は免れない。しかし彼女はそんな恐怖など一切無いかのように、陽気な鼻歌を歌いながらスマホを取り出し、一枚の写真を見る。

 その写真は、【終蘇悪怒】のナンバー2、立川麗斗が壁にめり込んでいるモノだった。


「はぁ、早く会いてぇなぁ……」


 少女は恍惚とした表情で、そう呟く。

 それはさながら、恋する乙女のようであった。

 

「待っててくれよ。アニキ」


【羅天煌】にはいくつかの部隊があった。

 部隊はいちからじゅうまで、それぞれには部隊を仕切る隊長が存在した。

 そしてその隊長こそ、総長である唯ヶ原迅から力を認められた【羅天煌】の中でも強者とたたえられた十人。


 乙女の名は、辻堂龍子つじどうりゅうこ

【羅天煌】の元『参番隊隊長さんばんたいたいちょう』である。


 今、唯ヶ原迅を慕う者たちが……東京に集結しようとしていた。



◆◆◆


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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※現在『ギャルにパシリとして気に入られた俺は解放されるために奮闘する。』というラブコメも連載中です!

かなりとても面白い感じになってると思いますのでよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです!

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330649946533267

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