紡が絃に宛てた手紙
改めて手紙を綴るとなると、こうも筆が進まないものなのか。
無論、これは気が進まないからではなく、書くべき事が多過ぎるからだ。
最初に記すべきは、やはり初めて桜花神社でまともに会話をした日のことだろうか。
あの日の俺は、父の訃報に酷く落ち込んでいてこの世が終わりを迎えたような心持ちであった。
そんな中、俺の手を引いてくれた貴女は真に救いだったのだと思う。
まずはその事について感謝を伝えたい。
有難う。
今の俺がある理由は、ひとえに絃の存在のお陰だと思っている。
以降の俺の振る舞いは、きっと近日まで(もしかしたら、今も尚やもしれないが)情けないものだった筈だ。
幼きより、父の様になるという思いを持って生きてきた。
その目標たる父を喪い、目指すべき帝国軍の実情を仲間の話の内に知り、俺は何を芯として生きれば良いのかを見失っていた。
ふたつめは、そんな風に情けなく彷徨っていた俺に寄り添い続けてくれた事への感謝だ。
有難う。
俺は貴女が良く知るように融通の効かない人間だから、上手い表現が見つからない。
なので洒落も何もなく、単に思っていることをそのまま書く他ない。
今の俺は、貴女の存在を心の支えとして生きている。
この文が貴女にとっての重みにならなければ良いのだが。
以前に、俺の戦う理由は父を生き返らせる事だと話したと思う。
あの日の俺には死した父よりも逢いたいと思う人間が、この帝都になかったのだ。
ただ、今はどれだけ共に時間を過ごしても足りないと思えるひとが居る。
だから貴女がこの気持ちを受け入れてくれるならば、これからは共に生きる世界を守るために戦うことを許して欲しい。
長々と書き連ねたが、つまり、俺を貴女の隣に立つ唯一の人とさせて欲しいと、伝えたかった。
朝夕紡
朝夕紡のある日の願掛け はるより @haruyori
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