昔の友達の未来

 小学校の頃とかに、ガキ大将だったり、力が強くて足が早くて、俺をボコボコにしていた奴も、年月がたてば、みな衰えて、消えていった。

 Yくんもそうで、大学に入ってからいじめられて、そこから引きこもりになったらしい。ものすごく良いお母さんだったので、そのあと彼が引きこもりから脱して、復帰したのか、知りたいものだ。お母さんが報われて欲しい。

 Mくんもそうだ。ものすごく良いお母さんだったが、引きこもりになったような気がする。

 不良というか、あのころ、ちょっと成績が悪いかなにかしていた同級生らは、みな激動の人生を歩み、母親を苦しめている。悲しくて、事実を知りたくない。


 たぶん、就職氷河期が何もかも悪いのだと思う。


 就職できないのが当たり前。夢は叶わない。それが、ほとんど。

 テレビのCMや、歌では、夢を叶えようとあるけれども、みんな就職氷河期で、僕の大学なんかでは、一番優秀な子が「アミューズメント」で働くことになっていた。「アミューズメント」とは、つまりパチンコ屋のことである。パチンコ屋と介護施設以外、就職先なんてなかった。その介護施設でさえ、落とされる子は多かった。

 そんな夢のない社会だから、僕と同世代か、僕の世代の前後の人は、みな、親の期待に応えられず、苦しんだり、病んだりする。

 今の子は、そうはならない。そこが決定的な違いだと思う。


 就職氷河期を見捨てたことによる弊害。この研究はどこかでなされて欲しいものだ。


 いまの四〇代、三〇代は、二〇代を生き直しているのだと思う。

 その最もわかりやすい例が梅田サイファーだと思う。


 梅田サイファーがなんであるかは、自分で調べて欲しい。彼らは、天才集団ではあったし、才能はみな爆発していたが、しかしながら、日本語ラップ氷河期が長く続くことによって、十五年ほど、誰もその才能を発揮できず苦しんだ。ただ一人、R-指定がフリースタイルダンジョンによって、その壁を突破するまでは。

 フリースタイルダンジョンと、就職氷河期が終わり人員不足が始まるのは、一致しているように思う。丁度、トラック運転手の人員がいない! と、トラック業界の新聞がまっ青になっているときと、フリースタイルダンジョンによってR-指定が爆裂したのと、時期は被っているように思う。経験談だけど。トラック業界の会長みたいなのが、前の職場のところにきて、相談していた時期と、R-指定が全国に知れ渡った時期は、同じだったように思う。


 そうして、氷河期が溶けた今、三〇代の梅田サイファーも、四〇歳の古武道さんも、たぶん、あのころの、二〇代のころの、あのどうしようもない、夢も希望もないけど愛し続けた日本語ラップを、生き直しているように思う。

 だから、今日あがっている梅田サイファーのビデオみて思った。youtubeで活躍する梅田サイファーは、みな二〇代のように尖っているし、みんな苦しんだ三〇代のように落ち着いている。


 コマツさん、ふぁんくさんも、もし氷河期がなければ、バトルサミットぐらいまで行けたと思う。しかし、この日本中、ずっとずっと、日本語ラップは希望ではなく「絶望と愛の代名詞」だった。なんでヒップホップがこんなに好きなのに、こんなに苦しい思いをしなくちゃならないんだろう。それは、B.D.も言っていたことだ。あのB.D.も、そしてどこかの本でサイプレス上野も、こんな日本語ラップ業界、辞めてやると言っていた。みんなそうだった。


 就職氷河期がなければ、たぶん、YくんもMくんも、ひきこもりにはならず、いまごろ、大家族を築いていたかも知れない。

 反政府になるのはあんまり好きじゃないんだけれども、戦後最大の、いや日本史上最大の失敗は、戦争とかではなく、就職氷河期世代をすべて見捨てたところにあるのではないだろうか、と思う。

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