裏社会
「これは任意での事情聴取なんですか?私は犯罪の容疑者になってるんですか?」
私の何を調べたいのか、あやふやな警察の態度に私は語気を強めた。
「まあまあ、片桐さん。 これは事情聴取ではありません。事件性もありません。ただあなたのご意見を聞かせて頂きたいだけなんですよ。警察もね、事件になる前の予防の為の情報も必要だという事を理解していただいてですね・・」
「それでは私の何が知りたいのですか?」
「あなたのじゃあ無くてですね・・今、急拡大しているKIYOMI派遣会社の事なんです。私たちの心配はKIYOMI派遣と裏社会との繋がりなんですよ。裏社会を封じ込めるのは県警だけでは無くて全国的な課題なんです。」
そういうことか、私をKIYOMI派遣と裏社会とのパイプ役だと疑ってるのか。そういう事なら清美さんの為にもはっきりさせて置かないといけない。
「私とKIYOMI派遣との関係はありますよ。ですが私と裏社会とのパイプは有りません。」
「なるほど・・・でも私らにはあなたの素性が分からないのです。昔裏社会に属していませんでしたか? どういう事でKIYOMI派遣と関係が出来たのか・・そのあたりを教えて頂けませんか?」
「確かに・・・ 私は若い頃から、俗に言う裏社会で生きてきましてね・・
アルバイトとかサラリーマンというような真面な職業には着いた事がありません。
若い頃は兄貴分の言付けで屋台や露店で物を売るような仕事をしていたんですが。
ある時、ソープを数件経営している人に、どういう訳かとても気に入られましてね。
お店を一軒、店長という形で任してもらったんですよ。
店長と言いましても、女の子の採用から経費の管理に至るまで全て私の責任でやってくれという事でした。仕事は実質経営者と同じでして、法律の勉強から帳簿管理、そして従業員管理まで多岐にわたる仕事を覚えました。普通のソープですから暴力団との関係は無かったと思いますよ。まあ雇われですから上の事は詳しく知らなかったんですがね・・
店で働く子たちは、特段変わった子では無く、普通の子たちでした。
ほとんどはお金に失敗した子たちで、カード破産を回避するために風俗嬢になった子が多かったです。ほとんどの子が300万円から500万円の借金を抱えていましてね・・ヤクザの紐が付いている子なんて居なかったです。結構あっけらかんと仕事をしてましたよ。テレビで言うような悲壮感は有りません。
その中に一人だけ、事業をやる計画を持ってて、その資金を作るために来ていた子がいましたが、とても頭の良い子でした。私にだけその計画を話してくれましてね・・私はその子に共感しましてね・・いろいろ相談に乗ってやりましたよ。
その子は2000万円のお金を貯めて会社を始めましてね、今では社員50人ほどのお水系の会社を経営してます。それがKIYOMI派遣なんですよ。
私は当初から彼女の経営に協力をしていまして長い付き合いになります。
当初彼女はスナックの経営権を居抜きで買って都内にスナックとキャバクラを数件持っていたのですが、そのスナックとキャバクラの経営権を買う時に私が橋渡しをしたんです。ご存じのように業界筋では清美社長と言えば誰でも知っているぐらい名前の通った人ですが・・ 私の知る限りでは・・ 私の居る限りは、と言った方が良いのかな・・KIYOMI派遣と裏社会には繋がりは有りませんよ。
私の仕事はと言いますと、警察の皆さんがご存じのように経営破綻した差し押さえ物件など安く買い取り、経営を立て直す自信の有る経営者に転売するのです。今の時代には不可欠な職業でしてね・・まあ、表には出ない職業ですが、裏社会とは全然関係ありませんよ。」
腕組みをして聞いてた担当官が言った。
「そういう事でしたか・・なるほど・・社長は元ソープ嬢ですか・・」
「それは極秘ですよね。それは社長の名誉に関わりますから・・」
「もちろんです、今日あなたが話された事はどこにも出る事はありません。しかし・・誉めたやり方では無いにしても、やるもんですなあ。裏技で逆転ですか。」
彼女の裏技だけでは無い、私の協力もあっての事だ。私が彼女に惚れこんだのだ。
私は結婚もせず、彼女の支援者としての人生を生きて来たのだ。
彼女は言う。
「もし結婚するならあなたしか居ない。」
彼女のその言葉だけで何もいらない、それだけで私は生きていけるのだ。
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