お父さんが死んだ。
僕のお父さんが死んだそうだ。
お母さんが言うには僕は子供なんだから葬式に行かなければいけないそうだ。僕はお母さんがお父さんと離婚してからお父さんに会った事が無い。
「お母さんは一緒に行かないの?」
「馬鹿な事を言わないでよ葬式に元妻が行けるわけがないじゃあ無いよ。」
やっぱり一人で行かないといけないのか・・
「もう葬式は済んでいるから、あなたは仏壇に線香をあげに行くだけなんだから行っておいで。」
しょうがないか、僕のお父さんなんだから。
僕は家の近くにあるバス停からバスに乗った。
「終点で降りたらバス停の向かいの店だからね。進木商店だから、」
とお母さんが念を押して言う。バスは終点で1時間後に来た道を引き返すので同じバスに乗ればよいらしい。運転手のおじさんが
「大丈夫です。私が連れて帰りますから。」
とお母さんに話している。
バスは街を離れて田舎の方に向かって走った。
お父さんはお母さんと別れたあと、再婚をして新しい奥さんと子供がいるそうだ。38才の若さで病気で死んだらしい。バスは何度もバス停で止まり1時間ほど掛って終点に着いた。そこは終点のバスの為の駐車場になっていて少し広くなっていた。ちょうどその真向かいに八百屋さんが有り進木商店と書いてある。
僕はバスを降りると道路を渡って商店に入った。店には誰もいなかった。
「こんにちは!」
と声をかけると僕より少し年下の男の子が出てきた。その子は僕を見て
「お客さん?」と聞く。
「うん。」と頷くと、
「母さん、お客さんだよ!」と言って奥に消えた。
暫くすると痩せた感じの小柄な女の人が出てきた。お父さんの新しい奥さんだ。
「大輝くんね? お母さんから電話をもらったから・・こっちに上がって・・」
奥さんについて廊下を行くと、突き当りに仏壇のある部屋があった。
「そこに座ってお線香を上げてね・・あなたのお父さんなのだからお別れをしないとね。」と奥さんが言った。
僕は持ってきたお供えの菓子箱を横に置いて座布団に座ると、お父さんの写真を見た。鼻が大きく眉毛が太いぎょろ目の人だ。
さっきの男の子が廊下で僕を見ている。あの子も僕と同じお父さんの子かと思うと不思議な気がする。僕はお母さんに教わった通り一礼をしてから線香を上げて両手を合わせた。
「遠くから大変だったわね、一人で来たの?」とおばさんが言って僕にジュースを出してくれた。
「はい、一人で来ました。」
「お父さんの顔を覚えていた?」
「いいえ、はっきりは覚えてなかったので・・」
「そうなのね、お父さんは最後まであなたの事を話していたのよ。」
そう言っておばさんは涙を拭いた。僕は悲しくないのですごく悪い気がした。本当は泣かなきゃいけないのに・・
その奥さんはやつれた感じはしたが僕のお母さんより小柄で優しそうな人だ。
「翔ちゃんもこっちに来てジュースを飲みなさい・・」と奥さんが言うとその子は恥ずかしそうに奥さんの横に座った。
「私はあなたと他人なのにあなたたちは兄弟なのよ。変な感じね・・」と奥さんが言った。男の子は僕をじっと見ている。
「バスの時間はだいじょうぶなの?」と奥さんが言うので時間を見たがまだ時間はあった。僕はジュースを飲み終わると立ち上がって、
「お邪魔しました!帰ります。」と挨拶をして店を出た。バス停の方を見ると運転手さんが車の外で僕を待っていて手を振っている。
発車の時間になるとバスはブルブルとエンジンを掛けて動き出した。乗客は僕だけだ。夕方になり道沿いの店には明かりが点いて、バスと対向する車もライトをつけている。僕はバスに揺られながらさっきの奥さんと男の子を思い出していた。
お父さんは勝手な人だと思った。お母さんと僕を置いて離婚をして、今度はあの男の子とお母さんを置いて死んでしまった。 あの男の子も僕と同じ母子家庭になる。僕は眉毛の太いぎょろ目の写真を思い出した。そして、本当にお父さんは勝手で無責任な人だと思って無性に腹が立った。
何度かバス停に止まりバスの乗客も増えてくる。段々と店の明かりの数が増してきて、僕の住む街が近ずいてくる。しだいに見慣れた建物になり、僕が降りるバス停も見えてきた。
あ! お母さんが手を振っている・・
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