ハリセンボン


同じ映画製作関係者としてさあ、君はどう思うよ・・

最近のTVドラマをさあ。


作りが陳腐だと思わねえか?

たいてい美人のヒロインが・・

事件に巻き込まれたり・・

不幸な経験をしたり・・

珍しい病気にかかったり・・


ヒロインは美人で・・可愛くて・・

そして、素敵な男性と恋をして・・

たいていハッピーな結末になる・・


そんなものを見ているとね。

綺麗な人は得だよね・・

美人でなきゃあ、こうは成らないよね。

誰でもがそう思うんじゃあないかなあ。


男が見ても女が見ても老人や子供が見て

も感動できる映画が少ないよな。


でな、こんなんどうよ。

吉本興業のハリセンボンってタレントが居るだろ。

あの二人の背の高い方・・

歯のガチャガチャの方・・

あの人を主役ヒロインにしようよ。


美しく無いって?

だから良いんだよ!

彼女は、はるかって名前だったよね。

うん・・良いなあイメージぴったりだ。



はるかはね花やさんの店員をしているんだよ。

いや、だから・・これは話しだから聞いてよ。


彼女が働いている花屋はね・・

花屋とは言ってもね・・

結婚式場とか、パーティーとか・・

発表会なんかで雰囲気を盛り上げている花・・

フラワーアレジメントっ言うやつよ。


オーナーがね・・

その筋ではチョット名前の売れた人でね・・

腕が良くて評判なんだよ。

フラワーアレジメント教室もやっててね・・

若くてヤリ手の先生だから、生徒さんも多くてね・・

先生狙いの生徒も多い分けよ。

実は、はるなもその1人なんだけどな(笑)


ある時先生から・・

「急に従業員が辞めてしまって、もし良かったら内

で働いてくれないか・・雑用なんだけどね。」


彼女はOLだったのだけど・・

「よろしくおねがいします。」って・・

先生の側で働けるだけでも嬉しかったんだよね。


でも・・本当に雑用ばかりで、忙しくって・・


それは平気だったんだけど、辛いことがあるんだ。

先生は若くて、やり手のオーナーで独身だから・・

いつも美女が取り巻いている分けよ。

女のはるかから見ても、美女ばかりなんだ。

「はるか君、じゃあ後はよろしくね。」って・・

先生は毎晩デートだからね。

でも、はるかは、先生に嫌な顔は見せないんだよ。

いつも笑顔で「わかりました、いってらっしゃいませ!」

はるかは何時も笑顔で送り出すんだ。

だけどな、一人になると笑顔が消えるよな・・


先生は教室で、はるかに辛く当たるんだ。

「こんなんじゃあダメだよ、何度同じ事を言わすんだ!」

「うーん・・自分の欠点が解って無いなあ・・」

「もっと自分のセンスを磨くんだよ。解るかなあ!」

とかな・・

他の生徒の冷たい視線が突き刺ささって・・

はるかは落ち込むんだよ。


はるかは知っているんだ・・

先生は新しい出店のことでお金に困っている。

それを見越して、美香さんが急接近。

美香さんのお父親は病院のオーナーで資産家なんだ。


それに比べれば・・

はるなの実家は田舎の潰れかかった自転車屋だ。

・・私なんか何の役にもたたない・・

彼女は一人自分の部屋で落ち込むんだ。


暗い部屋にネオンサインの光が差し込こむんだ。

その光がはるかの大粒の涙を照らしだすんだ。


そんなある日・・

「はるか君! 明日は忙しい日なんだ。1時間早く出社してくれないか。」

「はい、解りました!」

「明日は店の方はいいから、現場を手伝ってくれ。」

「現場ですか?・・はい、わかりました。」

現場とは出張して花を飾る現場の事なんだ。

彼女は現場について行くのは初めてなんだよ。


現場は大きな会場でね。

中心に大きな花瓶があってメインでアレジメントをするんだな。

そして部屋のコーナーにも三個の花を活けるんだ。


「僕の方はいいから、君はコーナーのアレジメントをやってくれ。」

「え! 私がですか?」

「選んである花を見て、雰囲気を外さないようにね。」

「あのー・・」

「大丈夫だよ、君なら出来る。その為に連れてきたんだから。」


あまりの突然の展開にはるかは泣きそうになるんだ。

「ぼーとしていないで、いそいでね!!」

「あっ、すみません。」


はるかは必死だよ・・ここが勝負所だからな。

「先生・・これで良いでしょうか・・」

先生は彼女の仕事を見ながら・・

「うん、やっぱりね・・君を連れて来たのは正解だったよ。」


彼女はね・・

嬉しくて目がうるうるになるんだ。

ここで輝きメイクだな・・

美人とは言えないけどね・・(笑)


パーティーが終わった日のお昼頃・・

「今日ね相手のオーナーさんから食事に招待されたんだ。」

「そうですか・・アレジメント気にいって頂けたんですね。」

「君も招待されているんだ・・夕方車で迎えに行くから。」

「ええ!!・・私もですか??」

「そりゃあそうさ・・向こうから見れば君も先生なんだから。」

「私は・・辞退しますう・・」

「ダメだよ・・・これも仕事のうちなんだからね。」


・・・何を着て行けばいいのだろう・・・

・・・ああ・・どうしよう・・・

これまで控えめに生きてきた彼女だからね・・

気の利いた服なんか持ってませんよ。


しかも仕事とはいえ、先生とデートだからね。

彼女はパニックだよ(笑)


アパートの前に先生の車が到着する。

そこへ現れるはるか・・

しっかりとメイクも決めて、お洒落して・・

ちょっと恥ずかしいはるかですよ。

「おお!! 意外といいじゃあないか。」

「やっ、ヤメてくださいよ!!」

はるか・・・赤くなって照れてるんだ。


女の魅力って顔だけじゃあないからな

そこの所を強調したいよな。


はるかは段々と輝いて来るんだ。

仕事の自信も出てくるとね

これも自信になって綺麗に燃えるからね。


「笑顔だよ、君に一番似合うのは笑顔、忘れないでね。」

「解りました、今日は一生懸命笑います。」

「ハハハ笑っちゃあいけない・・笑顔!!」

「あっ、はい。」



食事の時、先生は車の運転があるからということで・・

代わりに勧められて、はるかは少しアルコールをのむんだ。

帰りの車の中でボーっとしていると・・

「はるか君、僕が頼りにしているのは君だけなんだ・・・」

「ええ?・・・」

「周りからちやほやされていてもさあ・・俺、本当は限界なんだよ。」

「先生は、大丈夫ですよ。」

「正直、今が一番危ない所なんだ・・」

「・・・・・」

「今度の新店舗・・何とか銀行が支援してくれたけど・・」

「良かったじゃないですか・・私、心配していたんです。」


「僕はまだまだ大変な苦労をしなくてはならないんだ。」

「そうですね・・何となく解ります。」

はるかは先生のいろいろな裏の事情は解っているからね。


「はるか君、今度の新店舗の店長として力を貸してくれないか。」

「私がですか?・・私にはそんな力はないですよ。」

「僕は君に賭けてみようと思っているんだ。」

「でも、私には・・」

「いや・・僕が見込んだんだから、それを信じて苦労をして欲しい。」

「先生が見込んだんですか・・」


この話を受けた為に彼女は大変な毎日が始まるんだ。

従業員の事・・お金の事・・営業・・のしかかる責任・・・

自分が成長するしかないだろう?

だからはるかも覚悟を決めるんだよ。


そしてこの辺りから、はるかの顔に自信と余裕が付いてくるんだ。

営業力も付いてしたたかに成ってくる。

この頃からメイクでぐっと美しくするんだ。

見ている人は驚く・・あれがはるかさん?・・


そんなある日・・先生から電話がくる。

「この頃忙しくて君とも合っていないねえ、どうだろう時間があったら今夜あたり飯でも食おうよ。」

「食事のお誘い? 嬉しい!!」


二人は海の見える展望レストランで食事をするんだ。

眼下に見下ろす海沿いの都会の夜景はすばらしい・・

はるかは・・もう昔の彼女ではないんだよ。

ここで思いっきり魅力的に見せるんだ。


「先生は、相変わらず女性の方もお忙しいんでしょう。」

「何だよ、いきなり。」

「先生も、そろそろ結婚とか考えなきゃあいけない年かなと思って。」

「今は一人なんだ・・」

「へーえ、めずらしい。」

「まあ、いろいろ有ったけど・・はるか君、俺と付き合ってみない?」

「私がですか??」

「君が嫌ならしょうがないけどね・・俺ね、君といる時が一番自分らしくいられるんだ。」

「うそお! 先生が私にそんな事を言うんですか?」


期待していなかった言葉にはるかは戸惑うんだ。


強引な誘いに、つきあってみると二人は相性が良かったんだ。

苦労の中で支え合って愛は育っていたのだよ。


やっぱりラストは結婚披露宴かなあ・・

純白のドレスを着たはるか・・・

美しいはるかの涙をカメラはアップで捕らえるんだ。

そして・・・

回想するかのように・・・

彼の生徒だった頃のはるか・・

暗い部屋で涙するはるか・・

初めてのアレジメントの仕事・・

店長になった時のはるか・・

そして、今日のはるかが・・

さらにカメラは迫って・・

はるかの涙がアップで写し出すんだ。


ここで彼女の美しさと魅力で観客は釘付けにするんだよ!


ハリセンボンのはるかに皆が心打たれるんだ。

どうだい! 良い映画だろう!

ああ、顔ね・・それはメイクでどうにでもなるよ(笑)

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