式の役割
シヨゥ
第1話
「式とつくものは環境が変わることを自分に教え込む儀式なんだよ」
妻はそんなことを言う。
「例えば入学式。入学生には今日からこの学校でやっていくんだという気持ちを教えてくれる。在校生と教師にはこんな後輩・子供が自分のコミュニティに入ってくるんだぞと教えてくれる」
僕はそれを何も言わずに頷きつつ黙って聞いた。
「これが式の一面。もうひとつ式がもつ役割があるの」
「それは?」
「区切ること」
「区切る」
「そう区切る。例えば卒業式。卒業式はこれまでの環境が終わることを教え込むとともにこれまでの生活を終わらせて区切る役割があるんだよ」
「なるほど」
「目に見える形で、体感する形で式を行う。そうすることで自分に教え込んで区切る。これが式の役割なんだよ。徐々に変わっていくことで変化するやり方もあると思うけど、変化は突然だからね。だから式をやるんだよ」
「なるほど。だから結婚式をしようということなんだね?」
そう問いかけると妻は頷いて、じっと顔をのぞき込んできた。
「分かったよ」
「本当?」
「嘘は言わないよ」
「ありがとう!」
抱き疲れた。それほどに嬉しいことなのだろう。
環境が変わったはずなのに、何も変わっていないと思っていた。これでいいのかっていう気持ちもあった。ただ結婚式をやったところでと思うところもあった。だが妻が式をそういう位置づけとして思えているなら大丈夫だろう。そう思うのだ。
式の役割 シヨゥ @Shiyoxu
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