第87話 エミリアの過去とリーゼの復讐

シスターエミリアさんが自身の悲しい過去を話してくれた。彼女は男爵家の、貴族の娘だった。しかし、ケーニスマルク家の長男エーリヒに見初められて、無理やり暴行されそうになってしまった。だが、エミリアさんは激しく抵抗して、癇癪を起したエーリヒに殺された…かに見えた。流石に殺人を犯してまずいと思ったエーリヒは動揺して、慌ててその場の建物の床の下の地面を掘って、エミリアを埋めた。しかし、その時、偶然エーリヒが犯行に及んだ建物の近くを通りかかった勇者エルフリーデ、つまりお姉さんが血の匂いと物音に気がついて、現場の建物の中でエミリアさんを発見した。


「あの時は驚いたわ…貴族のあなたが殺されそうになっていて、ましてや埋められるのだなんて、事実が明るみになったら、大事件になっていたでしょうね…」


「わたくしもそう思いました。おそらく事実を告白しても、ケーニスマルク家に潰される…そう思ったから、わたくしは平民となり、死んだ事にしてやりすごうそうとしたのです」


「しかし、何故、奴隷になってしまったの? あなたのお父さんの力添えがあれば、平民となって、こっそり生きる事はできた筈よ?」


「それが、ケーニスマルク家も殺人は流石にまずいと思ったのではないかと思います。先手を打たれました。エーリヒはバレる事はないと思っていたと思いますが、万が一私の死体が発見されて、明るみに出た場合のリスクを考えたのだと思います」


僕はゴクリと喉を鳴らした。何故なら、大体想像ができたからだ。ケーニスマルク家の信じられない悪行が…


「ケーニスマルク家はわたくしの父に濡衣を着せて、死罪に追い込みました。家はお取り潰しになり、わたくしが埋められた建物も潰されて、孤児院が建てられました。証拠隠滅とわたくしを探す者を抹殺したのです。母や妹は罪を逃れて実家に帰りましたが、謎の死を遂げています。頼る人を失ったわたくしは放浪して、奴隷狩りにつかまり、奴隷にされてしまいました」


ぎりり、僕は唇を噛んだ。信じられないケーニスマルク家の悪行、女性の身体を自由にしたいが為にそこまでするか? 罪を犯しておきながら、逆に被害者に仇名すだなんて…


「では、エミリアさんとリーゼは仲間ですわね。リーゼも婚約者だったエーリヒに裏切られて、性奴隷にされました。家族もみな処刑されましたわ…復讐…リーゼが生きる希望を取り戻したのは、まさにその為です。それにリーゼのご主人様はリーゼにぞっこんで、助けてくれます」


シレッと僕がリーゼにぞっこんな事にされているけど、僕に夢中になっているの、リーゼの方だよね? いや、凄く可愛くてしんどい位だけど、毒舌とのギャップが凄くて…


「下僕、いい方法を思いついたわ。かえっていいのかもしれない。リーゼもケーニスマルク家の人達全員に復讐がしたかった訳ではないの、ケーニスマルク家にもいい人はいるわ。奥様や友達のイルゼ…イルゼは親友だった。復讐の為にケーニスマルク家の麻薬密売の罪を暴くと、奥様やイルゼも処刑される…以前は構わないと思っていたけど…今は違う、今のリーゼは復讐がなくても、生きる希望位はあるから、優しいご主人様に…仲間もいるから」


リーゼが真っ赤になる…なにそれ可愛いんだけど?


リーゼは更に続けた。


「復讐は手紙を使いましょう。手紙には人の人生を破壊するほどの破壊力があるわ。リーゼのお父様は攫われたリーゼを助ける為に手紙を書いた。自身が麻薬密売に関わっているかのような手紙をかかされた…リーゼを取り戻す為に…でも、その手紙はお父様の…いえ、リーゼの家自体を破壊した。グリュックスブルク家はお取り潰しになり、お父様もお母様も弟も処刑された…。手紙の破壊力をケーニスマルク侯爵自身にも味わってもらいましょう」


「ふ、復讐ができるんですか? わたくしにも? あの憎いエーリヒを殺してやりたい!」


「殺すなんて生ぬるいわ。全てを奪ってやるわ…」


静かに語るリーゼとエミリアさんに僕は…


「(こぇ~、リーゼとエミリアさん、こえぇ…絶対夫婦喧嘩しても謝っておこう、例え自分は悪くないと思っていても!!)」


二人の決意と僕の決意は異なるが、僕が二人に協力する事には変わりはない。


こうして、僕達はケーニスマルク家の当主ベルンハルドと、その長男エーリヒにだけ復讐する事になった。

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