第82話 諦めて旅に出ます…

僕達はプロイセン王国を出奔して、アルザス王都ストラスブールに到着した。


旅の途中、ヒルデ、ナディヤ、ロッテの罠にはめられて、はめそうになる危険な旅だった。


なんやかんやで魔王を討伐したものの、気が弱くて、流されやすい僕はこの大陸の覇者、帝国の皇帝の仲人でヒルデ、お姉さん、ナディヤ、ロッテ、ナーガ、ティーナ王女、侍女のアンナと婚約するはめになった。そしてなぜかみなにエロい事しろとまとわりつかれ、都度逃げ出すも次々と他の女の子に迫られて困った。


しかし、なんとかしてピンチを脱出して、僕の貞操は今も健在である。


正直、僕も男の子だし、正式な婚約者だから、むしろ…そうしたいんだけど、そうすると妹のロッテともそういう事になるわけで…お父さんにすごく怒られそうなので、怖くて足踏みしているのであった。


だが、そんな僕に一つの疑問が浮かんだ。


「何でみな僕の行く先々に潜んでいるの? 完全に撒いたはずなのに!」


「お兄ちゃん、簡単な話よ。リーゼさんとお姉さんが協力してくれたの」


「ええっ! お姉さん! リーゼ! 酷い!!」


「あら、アル君を独占するのだなんて、お姉さんにはできないわ」


「そうよ、下僕のハードな責めを私たちだけで受けろというの? いっぺん死んでみる?」


いや、意味わからん。それに、僕は彼女らに指一本触れてないし、リーゼのおかげで、僕の性癖はハードプレイや変態プレイを好む変態みたいに思われて…僕経験ないんだよね?


☆☆☆


アルザス王国に入ると、リーゼは魔道具で変装した。髪の色も目の色も変えて、一目でリーゼとわからないようにした。リーゼが生きている事が判明すると、捕らえられて、死罪だ。彼女の家の無実の罪はまだ晴らされていない。


僕がお姉さんとリーゼを連れて、アルザス王国に来たのは、リーゼの無実を晴らすためだ。


僕はリーゼと約束したんだ。魔王討伐に協力してもらう代わりにリーゼの無実を晴らす事、リーゼの復讐を手伝う事。だから、僕はここにいる。予定外でみな来ちゃったけど。


僕達は闇雲にアルザスに来た訳じゃない。アルザスには有力な味方がいる。ミュラーさんのお兄さんだ。僕は彼からの協力要請を受けて、この地に来た。しかし、僕に一体何を要請するんだろう?


ストラスブールで一泊すると、早速ミュラー家を訪ねた。


「クラウス・ミュラー様よりのお招きにより参上しました。プロイセン=フランク王国勇者パーティのリーダー アルベルトと申します。クラウス様にお目通りをお願いします」


「こ、これは英雄 アルベルト様ですか! さ、早速お通しいたします、こちらへどうぞ!」


最近貴族世界の事にも慣れてきた。僕は今、一応公爵の身分を賜り、魔王を倒した英雄な事もあって、何かとやりやすい。もちろん顔を知られているわけではないが、英雄が待たされると言う事はない。


屋敷に通されて、広い広間に通される。そこに、青い髪、長身のミューラーさんそっくりのクラウスさんがいた。


「お待ちしておりました。アルベルト殿」


「お招きありがとうございうす」


「クラウス様、お久しぶりです。リーゼですわ」


「何? リーゼ嬢なのか? 変装しているのか? 一見ではわからんな」


僕達は自己紹介を終えて、


クラウスさんは僕の方に視線を向けた。


「アルベルト様は私のご主人様です」


「ご、ご主人様?」


えっ? まさか性奴隷になっている事、また話す気? 僕、悪いヤツみたいに思われない? リーゼは確かにまだ性奴隷で僕がご主人様だけど。


「賊に襲われて性奴隷として売られました。今もこのアルベルト様の性奴隷となっています」


だから、止めて! 僕の風評被害がぁ!!


「わ、わかっている。手紙に書いてあった。君は性奴隷として買われて…そして!? あああああああああああ!? シュタルンベルクの宝石と呼ばれた、リーゼ嬢が性奴隷なんてぇ!?」


クラウスさんが拳を握りしめる。そして拳からは血が滴っている。


「ま、待って下さい。誤解です。僕は何もやましい事はしていません! 誤解です!」


「アルの言う通りよ。アルは法に則って正しく私をいつも使ってくれているわ…激しく…何度も何度も…法に則って…」


…僕、また、凄い勘違いされているよね?


その時、クラウスさんの懐からバサリと一冊の本が落ちた。


僕の目に背表紙のタイトルが目にはいってしまった。タイトルは、


『恋敵のご主人様を殺す方法2(完全犯罪のすすめ)』


「す、すまない。忘れてくれ。つい取り乱した。君は悪くない…君は、な、何も…ほ、法に則って…ただ、リーゼを…激しく!! あああああああああああ!? 何度も何度もぉ!!!!!」


「あ、あの?」


「あ? え? あ! すまない、何度も…安心してくれ、私は決意は早い方だ」


クラウスさんは、そそくさと本を隠す様にしまい、爽やかな笑顔で僕に返した。


何、爽やかな顔して人を殺す算段してんだ、この人? それにこの人、ミュラーさんと同じ仕様? それと決意は早い方って、何の決意が早いの? 怖いよ!?


「すまない。取り乱してしまった。非礼を許してくれ。容赦を期待したい。…ところで…青酸カリってどこで売っているか知らないかな?」


「…」


やっぱり僕に聞くの?


僕は気を取り直して、クラウスさんの要請、依頼の内容を聞いた。


「すると、麻薬密売の真犯人を捕えれば、リーゼの家の無実の罪も晴れるのですね?」


「ああ、もちろんだ。何故なら、真犯人はケーニスマルク家だ。真相が明らかになれば、無実は晴らせる」


「ケ、ケーニスマルク家が加担…」


僕は驚いた。アルザスの公爵家が麻薬密売に加担するのだなど、前代未聞だ。リーゼの家は麻薬密売に関わった罪でお取り潰しになったが、まさか自身の罪を擦りつけたとは…


白日の元になれば、ケーニスマルク家の人々は全員処刑される。僕は事態の重さに驚いた。


「クラウス様、リーゼは復讐をします。しかし、ケーニスマルク家の人全てが憎い訳ではありません。かの家の令嬢は私の友人でもありました。私の敵は主人のベルンハルトと、リーゼの婚約者だったエーリヒ? 違いますか?」


「その通りだ。私の調べでも、他の家族は関与していない。しかし、首謀者だけに復讐などできるのか?」


「わが家の名誉回復にあたり、ケーニスマルク家がどうこうなるのはリーゼにもどうしようもありません。しかし、おそらく彼らは逃げ切るでしょう。そうすると、首謀者に直接復讐するよりありません」


「しかし、私は君の味方だが、法に反する事に加担はできぬぞ?」


僕達は固唾を飲んで、リーゼとクラウスさんとのやり取りを聞いていた。すると、リーゼは、


「リーゼも法を犯すつもりはありません。合法的に因果応報を受けさせてやります」


リーゼの双眸に決意の火が灯った。いつかの、僕が彼女を性奴隷として購入してしまった時のように。

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