底辺回復術士Lv999 ~幼馴染を寝取られて勇者に追放された僕は王女様達と楽しく魔王を倒しに行ってきます。ステータス2倍のバフが無くなる事に気がついて今更戻ってこいと言われても知りません~
第11話 初めての冒険は薬草取りからの魔族討伐5
第11話 初めての冒険は薬草取りからの魔族討伐5
「ぐはっ……!?」
僕は血を吐いた。僕の身体は、魔族が突然出現させた無数の黒い刃によって貫かれていた。幸い、急所は外れている。黒い刃はスピードを重視した為か、数を重視した為か、無理があったのだろう、それほど大きくも、長くもなかったので致命傷とはならなかった。もちろん貫かれた場所が心臓や脳髄なら今頃僕の命はなかっただろう。ただ言える事は、間違いなく僕は重傷だ。
「メガヒール!?」
ヒルデの声が響く。勇者の魔法は治癒魔法も含まれる。オールラウンダーのチート職業が勇者なのだ。僕はたちまち回復した。パーティを組んでいなかったのなら、死んでいた。
「ヒルデ、ありがとう…」
僕はヒルデに視線を送ると、再び魔族を見据えた。
「ふふっ。もしや、私の刃から逃れる事が出来れば勝機があるとでも思っているのではないですか?」
それはそうだろう。この魔族は錬金術の魔法を使う。ステータスは低いものの厄介な相手だ。何も無い処に黒い刃を出現させて、不意打ちで仕掛けてくる。それも無詠唱で、魔力を感じさせる事もなく。だが、避ければいいだけだ。
しかし、……。
「魔族に傷を負わせる事ができるのは勇者のみ。例え私の技を避ける事が出来たとして、どうやって私を攻撃しますか? 傷一つつける事はできませぬぞ?」
魔族、魔王との戦いに勇者が必須な理由。それが、これか? 魔族に傷を負わす事ができるのは勇者が使う聖剣のみ。
「死んでしまいなさい!!」
魔族の攻撃を避けたとしても、どう攻撃するか? いや、それ以前にどうやってこの攻撃を避けるか? 何も無い空間に魔力の乗った剣をこの魔族は無数に生み出してしまう。
それも僕が今まで見た中では遅い方だが、それでもかなりの速さ……具体的には、レベル99の勇者の数倍程度の速度……で襲い掛かる。
無数に降りかかる刃を、僕の魔剣が片っ端から叩き折る……。
「何ですとっ……!!」
バキン!! と、甲高い音がした。
魔剣が魔族の刃を叩き潰した音だ。
「馬鹿な、魔族の魔力がのった刃を普通の人間の剣が折るのだと…」
「僕の魔力は9999あるからね…」
魔族はぽかんとした顔をするが、直ぐに我に返り、更に黒い刃を生み出す。
「つぅ……!!」
再びあの曲がる刃だ。またしても身体を貫かれそうだった為、僕は慌てて後ろへ飛んだ。
「どうだ。もう一度聞こう。その女を見捨てて逃げるか、魔族の側に寝返るなら、命だけは助けてやる。その魔力、殺すには惜しい」
僕はヒルデの方を見た。彼女はかぶりを振った。まるで、何もかもを諦めたかの様に。
彼女は僕が逃げる事を予想したのだろう。一人でこの魔族と戦うつもりだろう。いや、そうはいかない。ヒルデ一人でも、この魔族に勝てるという発言は撤回する。この厄介な魔族にはヒルデ一人では勝てない。だから、僕は逃げる気も、ましてや魔族に寝返る気なぞない。
僕は魔剣を構え直した。それを見た魔族は、
「はぁ、いけませんねぇ、あくまでその女を助けると? 頭悪いのですか?」
魔族は僕を嘲笑したが、僕は怒りを覚えた。魔族は半笑いだった。あの糞勇者エルヴィンの様に…。僕は一気に勝負をかける事にした。この魔族は勘違いをしている。それを思い知らせてやろう。
「頭が悪いのは君さ。僕の剣を見て気がつかなかったのかい?」
「一体何を……」
僕はニヤリと笑った。
魔族は本気で気が付かなかったらしい。魔族の表情からそれは見て取れた。しかし、魔族の表情は驚愕に変わる。
それは、僕の持つ魔剣に、禍々しいとしか言えない暗黒の黒い魔力が渦巻き始めたからだ。
「……貴様一体何をやっているんだ?」
魔族の顔はおびえていた。魔族なのである、人ならざる実力がある者。目の前でおびただしい魔力が渦巻き、それが信じられない量であることを感じているのだろう。
渦巻く暗黒の魔力は奔流し、邪気が周囲にまき散らされた。
「な、なんなんんですかこれは?……何です! この禍々しい魔力は!?」
魔族は恐怖したのだろう。人間風情を嬲ってやろうと…ただ、そう思っていたのだろう。魔族が死の恐怖等考えた事は無いだろう。永遠の命、信じがたい魔力、強靭な肉体。死などある筈が無いと思っていた筈だ。だが、生まれて初めて感じた死への恐怖。魔族は恐怖に取りつかれ、平静ではいられなかった。そして声を張り上げ叫んでいる。
死への恐怖を初めて感じた魔族。死を感じた時、魔族は見苦しく、泣き叫んだ。
「や、止めてください。何でもしますから! 二度とその女に近づかないですから!?」
この場に他の魔族がいたとしても、その醜態を笑う者などいないだろう。僕の剣から感じる禍々しい魔力は魔王の力を借りたものでは無い、魔族、魔王より更に上位の存在、悪魔のものだから。その禍々しさが尋常ならざるものであることを誰でも感じる事ができるだろう。
「僕は、ただ、ヒルデを守りたいだけだ。何も見返りは求めない。ただ、この子の笑顔が見たいだけだ」
「アル!? ありがとう……」
ヒルデは僕を熱い目で見ている。まるで、恋する乙女のように…いや、これ絶対惚れられたよね?
彼女からすれば今の僕は吟遊詩人の紡ぐ物語の王子様にしか見えないだろう。困った…
キンッと暗黒の魔力の量と勢いが増し、これから剣戟が繰り出す事は間違いない! ヒルデの髪を魔力の奔流でなびかせ、その剣から必殺技が繰り出される。
「ヒルデの国を害した罪、彼女の父親を害した罪、彼女の親しい人を害した罪、彼女自身を害そうとした罪! これを許す訳にはいかない。この場で罪を償ってもらう!」
「や、止めてください、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
僕はその暗黒の魔力を渦巻かせる人外の魔剣を掲げ、そして技の名前をはっきり言って剣を振り下ろした。
「闇黒灰燼‐宵闇!」
悪魔の力を借りた魔剣から、魔力を帯びた剣戟の衝撃が魔族を襲う。魔力を伴った衝撃は大きく、速く、魔族をもってもかわす余地がある筈もない。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!?」
魔族の高い魔力耐性でも抗しきれない、根源的な恐怖、ゾクリと脚の先から震え上がるようなおぞましさと恐怖を与える黒い悪魔の魔力の奔流が魔族に叩きつけられる。
ヒルデの祖国、フランク王国を滅ぼした魔族の一人、バフォメットは血しぶきをあげながら、その暗黒の魔力の奔流に飲み込まれ、消滅していった。
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