元陰キャの俺が転校デビューで美少女JKに気に入られた結果、ヤンデレ生霊のストーカー被害者になりました。

黒猫虎

短編



       1



 今日は高校1年1学期の終業日。

 明日から夏休みというこの日、俺のクラスは完全にうわついた雰囲気だった。


「ねぇ、だれが声かける?」

「ユウちゃんお願い」

「えー、あたしぃ? ま、いいけど……」


「……何だお前ら」


 ――声かけられた男子たちの待ってました感。


「住吉くんたちって夏休み何して遊ぶん?」

「あー、お前らと海行って水着見たりする予定?」

「何、キモ!」


 ――セクハラされたはずの女子たちのまんざらじゃない感。


 市ね! じゃなく○ね! 1億回○ね!


「なあ。お前、予定どうなってるん」

「ぜんぜん暇やけど?」

「じゃ、いっしょに狩りしまくらん」

「お、いいね!『ドキッ☆涙涙なみだなみだ、男だけモンスター狩り祭』でも開催するかー」


 お前らは生きろ、と言えたらどんなに良いか。

 女子と一生話す機会が無い(失礼)同類の彼らだが、この教室では明確に俺よりヒエラルキーは上だった。

 なぜなら俺はこのクラス全員から無視されているのだから。



 俺は誰にも気づかれないよう教室を出て職員室に向かう。

 クラス担任に最後の挨拶をする為だ。


「――酒井、結局友達は出来なかったのか?」

「はい」

「……新しい学校では頑張れよ」

「はい。先生のアドバイス通りに頑張ってみます」

「よし」



 担任に最後の挨拶を済ませ、そそくさと帰宅の準備をする。



 実のところ俺は、誰でもいいから最後に声を掛けてもらえるのを期待していた。

 そうなれば「俺は転校するから今日が最後なんだ」と告げ、さっそうと校舎を後にするつもりだった。


 だが、誰からも声が掛からないまま、とうとう校門から足が出てしまう。



 泣きそうになるのをなんとか我慢し、校舎を後にしたのだった――――





       2



「よう、ヤスミ。久しぶりだな」

「あ、レンジ兄ちゃん」


 帰宅すると2番目の兄の練時レンジが姿を現す。

 どうやら引っ越しの手伝いに来てくれたようだ。


「大学は休んで大丈夫なの?」

「とっくに夏期休暇に入ってるからな。ゼミもオンラインだから大丈夫だよ」

「そうなんだ」



 しばらく2人で引っ越しの梱包作業に没頭した後、ポツリと俺は疑問を口にした。


「どうしたらレンジ兄ちゃんみたいにコミュ強になれるんだ?」

「ヤスミ。兄ちゃん別にコミュ強って訳じゃないけどな」

「そんな訳あるよ。昔から友だち多かったじゃん」



 しかもレンジ兄の友だちはカワイイ女子が多い。

 どうしてだ、8割くらい弟の俺と同じ顔なのに。



「参考になるかわからんけど、兄ちゃんなりの気をつけていることとか教えようか」

「! よろしくお願いします、師匠」


「うむ。かわいい弟の為だからな。


 1つ目、寂しそうな子、浮いている子には声をかける。


 2つ目、話しかけられたら、笑顔を意識する。


 3つ目、できるだけ相手の話を聞いてあげる。


 ――こんなところだけど、どうだ?」



 な、なんか難しいぞ。

 本格的だ。



「まあ、今回は転校だからな。人間関係が出来上がっているトコロに入るわけだから、まあまあ難しいと思う。『笑顔を意識する』ことだけでもいいかもな」

「う、うん」

「あと『面白いことを言って目立ってやろう』なんて思わないことだな。まず100%失敗する。俺も失敗した」



 ハハハ、と自嘲気味に笑うレンジ兄。


 兄上、そこからどうやって谷底から這い上がれたんです?

 マジ尊敬だよ。

 俺の場合、二度と浮上できなかった――――



「ところで。もしかしてヤスミも彼女が欲しくなる年頃か?」

「ち、違うよ。普通に男子の友だちが出来るかなーって」

「ふっ。そんなに否定すると逆に怪しいぞ。一応、女子ウケが良くなるかも知れないコツも聞いておくか?」

「お願いします、師匠」


 俺はすかさずレンジ兄に土下座して教えを乞う。


「うん。まず良い美容室で切ってもらえ。髪型でだいぶ違うぞ。その次は――」





       3



  ガヤガヤ


      ザワザワ



「――から転校してきた、酒井サカイ 靖瑞ヤスミです。よろしくお願いします」

「皆さん、酒井君と仲良くしてあげてくださいね。酒井君、あなたの席は一番後ろのあの席よ」



 最初が肝心、しかし気負ってもいけない。

 レンジ兄から学んだことが今、俺の中で活きている。


 変に目立ってはいけない。

 実力以上のことをしようとしてはいけない。


 まずは周りクラスに溶け込むこと――




 1番後ろの窓際に近い席が、俺の席のようだ。


「よろしくね、酒井くん」


 右隣は女子か。


 ――ん!?

 横目でチラ見するとかなりの美少女。

 これは天が俺に与えた『転校デビュー』を邪魔する罠なのか。

 

 

「どどど、ども」


 よよよ、よしっ。

 どうにか自然に返せたぞ。





       4



 ――転校3日目。

 今のところ俺の転校生活ライフは順調だ。

 目立った成功は無いかわりに、目立った失敗もない。


 今度こそ普通の高校生ライフを手に入れゲットしてやる!


 ――という俺の決意を試すかのような、不穏なウワサが聞こえてきたのはそんな時だった。



「ヤスミ君、ちょっといいかな」

「ななな何? 藤家さん」



 右隣席の美少女、藤家フジヤ 愛伊豆アイズに下の名前で話しかけられた俺は、何てことない風を装いながらも、内心は超ドキドキだった。



 ――もしかして、告白か?

 んなワケ無い、と心の中でセルフツッコミ。


 これは完全に俺を勘違いさせる小悪魔ムーブであろう。

 そんな藤家さんが、俺に向かって顔を寄せてくる。



 ――めっちゃいい匂いがするんだが。



「ななな何でしょう」



 コレ、女性免疫皆無ってたぶんもうバレてるな……。



「ちょっと教えておきたいことがあってさ。えっとね――」





       5



 藤家さんの話はまったく色気の「い」の字も無い話だった。

 というか、気味が悪い話だった――。


 俺の左隣の席――この席はいちばん後ろの窓際の席なのだが、初日、昨日、そして今も空いていた。

 藤家さんによると、この席の主は1週間に2日ふつかしか学校に来ないという。



 ――席の主の名は夕神ユウガミ レイ



「ヤスミ君、夕神さんはクラスで完全無視しているからそのつもりでね」

「えっ。それって……」

「あ、イジメだと思った? 違うからね」


 藤家さんは俺の疑念をすぐ否定する。

 だが、イジメじゃないならいったい何なんだ?



「このクラスね。夕神さんに関わった人間が2人ふたりも学校に来なくなっているのよ」


 ――えっ。


「毎週木と金が夕神さん来る日だから。つまり、今日は彼女が来る日。彼女が何か言っても絶対反応しないでね」

「ど、どういうこと?」

「ごめん、時間ないから詳しい説明はまた今度……あっ来た。あんまり見ない方がいい」


 早口でそれだけ説明すると、何事もなかったかのように彼女は前を向く。



 そして、俺は見てしまった。



 教室の後ろのドアから入ってくる、夕神 令の姿を――




  ゾワッ




 鳥肌が立ってしまった。


 地味目な女子高生が近づいてくる。


 しかし、雰囲気はただの地味な女子高生という雰囲気ではない。






 前髪で完全に目が隠れている。


 歩く音がしない。


 歩く時、頭が動かない。



 ――まるで幽霊のよう。




 そのまま彼女は、俺の左隣に着席した。





       6



 俺は放課後、普通に帰ろうとしている藤家フジヤさんを捕獲して、学校近くのマグドに連行した。

 女子と、しかもクラス上位美少女の藤家さんと2人でファーストフード店に入るなんて、俺にとっては信じられないくらい陽キャムーブだ。


 いやそんな「現役美少女JKと学校帰りデート」とかそんな浮わついたこと考える余裕なんて、今の俺にはない。

 ただただ、あの不気味なクラスメートについての説明を聞きたかっただけだ。



 ――だって、授業中になんか隣からずっとブツブツと聞こえるし、めっちゃ怖エェんです!


 これからの生き死にに関わる情報を得たかっただけなのだ。






「ヤスミ君って、けっこう積極的系男子?」

「そそ、そんなんじゃないって。さっき言ってた『夕神ユウガミ レイ』のことを詳しく教えて欲しくて」

「え。悪趣味」

「こらっ、藤家フジヤさん、分かってるでしょう? 『夕神ユウガミ レイを完全無視する理由』を聞きたいだけだよ、コッチは……ッ」


 ふざけた態度の藤家さんに、思わずまくし立ててしまった。

 少し息があがる。


 藤家さんは「あはは、ゴメンね」と謝ってくれた。

 そして、


「これ、真剣な話だからね」


 と前置きし、声のトーンをかなり落として、真剣な顔で話し始めた……。





       7



 藤家さんから聞いた話をまとめるとこうだ。



 これまで既に2人ふたりのクラスメートが犠牲になっているらしい。



夕神ユウガミ レイ』は高校入学した当初から、家庭の事情なのかなんなのか、1週間の内に木と金の2日ふつかしか出てこなかった。


 クラスの中で、割りと最初の頃から『夕神ユウガミ レイ』は独特な雰囲気で浮いていた。


 どういう意味かは分からないけど「もういいよ」と独り言ひとりごとをするクセがあり、まあまあ不気味だった。


 不気味すぎて、『夕神ユウガミ レイ』の独り言をクラスの誰も注意できなかった。


 それでも、委員長気質の女子、新沼ニイヌマさんが『夕神ユウガミ レイ』とコミュニケーションを取って何とか仲良くなろうとした。


 新沼さんの頑張りのおかげか『夕神ユウガミ レイ』はドンドン明るくなり、学校に毎日出席するようになった。



 しかし反対に、その日から新沼さんはみるみるやつれていった。


 そして、新沼さんは1週間後には、とうとう学校にこなくなった(1人ひとり目の犠牲者)。




 クラスの何人かで『夕神ユウガミ レイ』を取り囲み、新沼さんと何があったのかを問い詰めた。


 すると、『夕神ユウガミ レイ』はその時に中心になっていた男子の佐渡サワタリ君に向かって、何かを激しい口調で指差しながら言った。

(この時、『夕神ユウガミ レイ』が何を言ったかは誰も聞き取れなかった)



 佐渡君はトタンに顔色を真っ青にして、カバンも持たずに教室から出ていった。

 それっきり学校に出て来てこなくなった(2人ふたり目の犠牲者)。



 その日以来、『夕神ユウガミ レイ』は、また元通りの木と金だけ学校に来るようになった……。







「――というワケ。ヤスミ君の転校のニュースは、私たちのクラスにとって久々の明るいニュースなの。私は密かにヤスミ君がクラスの中を何もなかった頃のような楽しい雰囲気に戻してくれるのを期待しているんだ。これからよろしくね」


 藤家さんはそこまで話したかと思うと唐突に自分のトレイだけ片付け、俺を残したまま、ささっとマグドを出て行った。


 一緒に店に入った同級生を自然に1人ひとり残して先に帰れるなんて。

 これが現役美少女JKのスキルなのか。

 ついでに、藤家さんが俺のことを何とも思っていないというのもうかがい知れた。


 ちょっと涙出る……。





 と、とにかく。

 夕神ユウガミ レイには気をつけないといけないというコトだけは分かった。


 まあ、直接しゃべったりしなければいいんだよな。

 1週間に2日だけの修行だと思って頑張ろう……。





       8



 さっそくの翌日。


 左隣からなにやらブツブツ聞こえる。



「もういいよ」



 なるほど。

 もういいよ、と言ってたんですね。


 ――何がもういいというんだ?



「もういいよ」



 それを俺はひたすら聞き流している。


 しかし不気味ではあるけど声だけ聞いてるとなかなかカワイイ声だな。

 これなら我慢できるかもしれん。



「もういいよー」



 だんだん子守唄聞いてるみたいに眠くなってきた。

 心地よくなってきたというか。

 うーん、転校してきたばっかで授業中に居眠りはマズい……。



「もういいよー」



 あ、これってもしかして。

 子どもの時に遊んだ、【かくれんぼ】の時の合図のヤツ?




「もういいよー」




 かくれんぼ、俺、苦手だったな……




「もういいよー」




 意識を手放しそうだ……





「もういいよー」





 左から聞こえる声がだんだん遠くなっていく…………







「もうい゛ーいーよー」








       9



 ふと気づくと、俺は、夕焼けの教室に1人ひとり取り残されていた。


 他のみんなは帰っちゃったのだろうか。




「もういいよー」



 どこからともなく、かくれんぼの「もういいよ」の合図が聞こえた。


 囁くような、か細い、でもかわいらしい声だ。




「もういいよー」



 どこから聞こえているんだろう。


 掃除用具入れの中から聞こえてくるようだ。


 誰か隠れているのか?




「もういいよー」



 開けてみる。


 果たして、そこには前髪で目が隠れてしまっている、地味な印象の女子が隠れていた。




「なんでこんなところに隠れてるんだよ」



 思わずツッコミ入れてしまったけど、向こうも陰キャっぽいので大丈夫か。



「みーつけたって言って」



 な、何だ?



「みーつけたって言って」


「え? みーつけた……?」



 地味JKがクスクスとわらった。



 前髪をかきあげる。

 隠れていた目元が現れる。


 え、めっちゃ美少女。


 藤家フジヤ 愛伊豆アイズよりも好みなんですけど。



 あれ、でも、……えっ?




   ゾクゥ




 俺の両腕の毛が逆立った。



 ――この女は夕神ユウガミ レイだ。




「やぁっと、みいい゛ーつけられたぁぁ゛ーー」






       10



「――――――!」


 夢から覚め、ビクっとした俺。

 視線を感じた俺がゆっくり左を見ると、夕神ユウガミ レイが完全にこちらを見ていた。


「なな、何か」


 しまった、夕神ユウガミに反応してしまった!



「フフフ。酒井君、これから仲良くしましょうね」

「えっ? えっ?」



 この場合、どうしたらいいんだ!?



「またね、ヤスミ君」



 口元だけでニヤーッと微笑んで、夕神ユウガミ レイは、ふーっと帰っていった。



 呆然としている俺の周りに、クラスメート達が集まってくる。




「酒井、夕神と会話したのか? 何で?」

「いや、急に」



 説明が難しい。


 夢に夕神が登場したんだが、それを口にすることはバカバカしくて出来ない。


 しかし、夢の中の夕神はものすごく美少女だったな……。


 もしかして、本当はあんな顔なのか?


 いや、今はそれどころじゃない。




「酒井、お前来週から学校しばらく休め」


「ヤスミ君がズル休み……ぷぷっ」



 真剣な話の途中なのにもかかわらず、藤家さんは何かにウケてしまっている。




「分かった。来週は俺、学校休む」





       11



   ピピピッ ピピピッ ピピピッ ……



 遠くで目覚まし時計のアラームが鳴っている。



 今日は月曜日。

 今週、俺は学校をサボらなくてはいけない。


 うーん、熱が出たことにするか。

 吐き気か、寒気か……。


「ヤスミ君、起きて」




 ……



 ……




「――ぇえっ!?」



 あり得ない人の気配を感じて、俺は飛び起きた。


 すると、そこには、



夕神ユウガミ レイ……」



 すぐ横で微笑んでいる地味JK。


 誰がこの女をこの家にあげたんだ?


 心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けつつ、聞かなければならない質問をする。



「お、俺の母さんが、夕神を部屋に入れたの?」


「ううん。気づいたらこの部屋にいたよ。ヤスミ君が学校休む予感がしたから迎えに来た」



 ひええええっ。



 ヤバイヤバイヤバイ。



「す、すぐ準備します」

「待ってるね」

「い、いや、着替えたりするから、外……いや、リビングで待ってて」


 俺は夕神をリビングに連れていく。



 新しい家は3LDKのマンション。


 不自然ながらも、俺はリビングに彼女を連れていって、ソファーに座ってもらうことにした。


「か、母さん。友だち、こっちで待たさせてね」

「あら、おはようヤスミ。――友だちって、女の子じゃない。もしかして彼女?」

「ばっ、ちっ、違うから!」

「おはようございます。同じクラスの――」



 超ヤバイよ、この女。

 普通じゃない。

 母さんの様子からすると、この女は勝手に侵入してきたのだろう。


 ――もしかして、合カギとか作られてしまったのだろうか。



 俺はマッハで洗面・着替え・朝飯を終え、母親とキャッキャと談笑している夕神を連れて家を出た。



 自然に俺の横に並んで歩く、夕神 令。



「ゆ、夕神。ところで、どうやって俺の部屋に入れたの」


「うーん。どうしてだろう。ヤスミ君が学校サボるつもりって分かったから、なんとなく迎えに行かなくちゃって思ったから?」


 こ、答えになってない!?



「どうして俺が学校サボるって分かったの」


「何でかなー。やっぱりヤスミ君と仲良くなりたくって?」



 だ、だめだ。

 会話になってない……。



 このまま俺は地味JKと2人ふたりで登校することになった。

 あの憧れの『女子と一緒に登校』。



 でも、全然うれしくないです。





       12



 教室の入口に立って中を見て俺は、あっ、と驚いた。


 なんと、夕神 令が既に着席していて、俺に微笑みかけていたのだ。


 はっと側を見ると、すぐ横にいた夕神がいない。



 瞬間移動なのか?

 頭痛がしてきた……。



「おい酒井。今日、学校休むんじゃなかったのかよ」


 クラスメートの男子(名前が出てこない)に話し掛けられついでに確認する。


「夕神はずっと教室にいたのか?」

「俺はだいぶ前に登校したけど、その時にはもういたな。それがどうかしたか」



 一体、何が起こってるんだ。


 俺はもしかして、ヤバいモノに目をつけられてしまったのかもしれない――





 それからというもの、夕神 令は毎日俺に構い続けた。


 毎朝、目を覚ますと、ベッドの横に夕神が座っているのも慣れた。


 一緒に登校して、休み時間には彼女のおしゃべりに付き合わされた。


 その結果、他のクラスメートは俺に近寄らなくなった……。





 こうして共に時間を過ごしてみると、夕神 令の性格や生態が見えてくる。


 まず、夕神なりのこちらへの配慮は一応ある。

 そして意外にも。彼女の話は俺に刺さるものが多いことに気づく。

 夕神と一緒にいて全然苦にならないことに、自分でも驚いている。


 彼女の話の傾向としてはブラックユーモア系が多い。

 あとは夢の話とかだ。


 他人がどう思うかは分からない。

 ただ、俺にはどの話も面白く感じた。


 うーん。

 もしかして、女子と付き合うってこんな状態のことをいうのかな。





       13



 次の月曜日、登校した俺の顔を見て教室中がざわついた。

 藤家フジヤ 愛伊豆アイズに呼び止められる。


「今日の放課後、時間ちょうだい」


 藤家さんと会話するのは、隣の席なのにもかかわらず久しぶりだ。

 相変わらずの美少女っぷり。


 でも、俺には夕神ユウガミ レイがいるからな……。



「今日の! 放課後! 時間! ちょうだい! 必ず!」

「わわわ、分かった」








 そして、放課後。


 俺が他のクラスメートと交流するのを夕神が許してくれるのか。

 少々心配だったが、夕神は意外にあっさりと理解を示してくれた。


 夕神は先に下校し、俺は藤家さんと他数人のクラスメートに囲まれる。



「不登校になった2人ふたりと同じくらいやつれている」

「いや、もっとヒドいかも」

「絶対病気じゃないでしょ。これは夕神案件に間違いないよ」



 どうやら俺の顔色が相当悪いらしい。

 薄々は自分でも気づいてはいたけど、こんな心配されるまでになってるのか。



 そしてこのまま、藤家さん達がアポを取っていた【霊能者】に会うことになった。





       14



 学校近くの古い純喫茶で約束した霊能者を待っていると――


 現れたのは20代くらいのまだ若い石嶺イシミネという名前の女性だった。

 タロットカード、四柱推命しちゅうすいめい、オーラ占いが得意で、多少の霊感もあるらしい。

 ちなみに、巫女の血筋ということだ。



 何故かタロットカードをすることになったのだが、

 俺が選んだカードを石嶺さんはとても険しい表情で睨んでいる。


 ――どどど、どうした?



「――うーん。結構強いのに憑かれちゃってるみたいね」

「やっぱり!?」「ソレって大丈夫なんですか!?」



 石嶺さんは人差し指と中指を1つにして額に当てながら、むむむ、と唸る。



「しかも、これは生霊いきりょうだね。生霊いきりょうはヘタすると、死んだ人間の霊より厄介だよ」



 一緒に来た藤家さんたち女子から、キャーッ、ヒャーッと悲鳴が上がった。



「そ、それって絶対、夕神さんじゃん」



 藤家さんともう1人ひとりの女子は青ざめて、2人ふたりで抱き合って震えている。



「その生霊いきりょう、おはらい出来ますか? 石嶺さんは除霊できますか」

「調べてみる。酒井さん、カードもう1枚ひいてもらえる?」



 俺はが引いたカードは「塔」。


 良かった……死神とか悪魔を意味するカードよりは良さそうじゃない?



「これは……悪いね」

「えっ」

「もう1回試してみよう。もう1度」



 しかし、またしても同じ「塔」のカードを引いてしまう。



「『塔』のカードが意味するのは『破壊、破滅、惨事、破綻、災害』……かなり悪いみたい」

「そ、そんな」

「除霊! 除霊お願いします!」



「うっ、うわっ……」



 すると突然、石嶺さんが顔を吐き気を我慢するかのように口元を押さえる。



「どうしたんですか、大丈夫ですか」



 石嶺さんが、ゆっくりと喫茶店の隅を指差す。



「あのコに見覚えあるかい?」



 すると――



 そこに立っているいのは、帰ったはずのクラスメート、夕神ユウガミ レイだった。



「うわあっ」



 これには、最近彼女と一緒にいることに慣れてきていた俺でも、小さくない悲鳴をあげてしまった。



 石嶺さんは、震え声で言った。



「あれは普通の人に見えるけど、間違いなく生霊いきりょうよ。あそこまで生きている人と見分けがつかないということは、とてつもなく強力だということ。除霊は誰にも出来ないと思う。私も何も出来ないからもう帰ります」



 俺を絶望が襲う。



「俺は! 俺はどうしたらいいと思いますか。何かアドバイスをください。何でもいいので!」



 俺は見捨てて帰ろうとする石嶺さんの足にしがみついて頼むしかない。



生霊いきりょうの彼女に好かれているんでしょ。彼女の希望を叶えるしかないと思う。生霊いきりょうを生み出すほどの彼女の執着心を弱めるのよ」



 それだけ言いのこして、石嶺さんは相談料も取らずに、逃げるように店を出ていってしまった。





「このままだと、酒井もヤバいんじゃ……」

「ヤスミ君、どうしよう?」




 絶望に染まる、俺を心配してくれているクラスメート達。




 夕神ユウガミの姿はいつの間にか消えていた。




 俺は、一体どうすれば……。






       15



 その夜。

 俺は寝たフリで彼女を待っていた。

 すると深夜の2時を過ぎたあたりで、とうとう彼女が現れる。

 ベッドの横に恐ろしげな気配が湧き出していた。


 夕神ユウガミ レイ生霊いきりょうだ。

 毎日俺の部屋まで迎えに来ていたのは夕神本体ではなく、生霊いきりょうの夕神だった。

 それも朝からではなく、深夜のこの時間にはすでに侵入していたんだろう。

 思い上がりでなければ、俺の寝顔を見る為に。

 現行犯逮捕だ。


 生霊いきりょうの夕神には合カギは必要なかった。

 生霊でストーカー行為なんて、とんだ反則行為である。



「起きていたんだ」

「ああ」



 さて、どうしよう。


 このままでは、生気を夕神の生霊いきりょうに吸われ尽くして死んでしまうだろう。


 自覚してみると、かなり生命力が失われていることを実感する。




「なあ。夕神ってもしかして、俺のこと好きでいてくれたりするのか?」



 すると、とても恐ろしいはずの生霊いきりょうJKが、顔を真っ赤に染めた。

 モゴモゴと何か言ってるけど、まったく聞きとれない。


 仕方なく質問を変えてみる。



「どうして、俺と友だちになってくれたの?」



 すると、彼女の答えは「掃除用具入れに隠れているところを見つけてくれたから」だった。

 とても長い間、彼女は誰にも見つけてもらえなかったのだという。



 ――あれって、夢の中の出来事だったはずだけど。

 でも、彼女にとっては、実際にあったことなのか……。



「前髪、少しあげてみてくれる?」



 ふと思い付いて、彼女にお願いしてみる。

 そういえば夢の中で見た彼女の素顔が、俺好みのとんでもない美少女だったのを思い出した。



   フルフルフルッ!



 夕神は「絶対に素顔は見せない」という勢いで首を横に振り続ける。



 仕方ない。

 俺は強行手段で、前髪の下から見上げるように覗き込んだ。






       16



 あれからほとんど寝ずに登校した俺はクラスの皆に、「もう大丈夫」と報告した。


夕神ユウガミ レイと付き合うことになった」


 だから、もう生霊いきりょうの心配はないよ、と。




 今度は別の意味で心配されることになった。


「酒井なら、もっとカワイイ娘と付き合えるって!」

「ヤスミ君のこと、私、結構好きなタイプだったんだけど?」



 いやいや、根が陰キャの俺には、その話題けっこうキツいっす……。

 でも、レイの本当の素顔を知ったらみんな驚くだろうな。


 誰にも渡したくないから、特に言うつもりないけど。



 ていうか、外見関係なく、俺は令が好きなんだけどなッ。






 それからしばらくして、ずっと不登校だった2人ふたりのクラスメート(新沼・佐渡)も学校に登校出来るようになった。


 色々あったこのクラスだが、『雨降って地固まる』のことわざごとく、今のところクラス内の雰囲気は最高だ。



 という訳で、俺の『転校デビュー』は成功裏に終わった。






 そして実は俺、彼女である夕神ユウガミ レイと同棲を始めていた。


 実家だけど。

 高校生なのに。

 現役JKと。


 これは、どうせ生霊の令に24時間ストーカー行為されるくらいならと、俺が積極的に令と一緒にいることを選んだ結果だ。


 令も顔を真っ赤にしつつも、一緒に住むことを快諾してくれた。


 令の両親、そして俺の両親もなんとか説得できた。

 しかし、令の両親はなんであんなに積極的に賛成してくれたんだろう。



(深く考えるのはやめておこう……)



 ちち、ちなみに、もちろん、清い交際である。

 2人とも陰キャ同士だからな。


 体の関係は、まだ手をつないでチュー(舌入れないやつ)くらいしかしてないから。


 ……JKのくちびるって、信じられないくらいやらかいんですね。


 あっ、石投げないで、ごめんなさい!





「ただいま」

「「お帰りなさいー」」


 ワザと遅れて帰宅すると、愛しい同棲相手のお帰りなさいの声がする。


 俺の部屋に、同じ顔の現役超美少女JKが2人ふたり


 部屋では前髪をあげてもらうことにしたのだ。




「さて、どっちが生霊いきりょうかな?」


「こっちかな」「あんたでしょ」



 うーん、どっちもカワエエエ!

 どっちも俺の彼女!




 それにしても、彼女たち2人ふたりが顔を合わせてしまった時は、ドッペルゲンガーのように本体が死んでしまうかと心配したけど、杞憂でした。





 心配なのは、生霊いきりょうが消えないままなこと。







 果たして、俺の命はいつまで持つのでしょうか――――







 あと、俺の理性もいつまで持つのかも心配――――――


 





 ~fin~






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元陰キャの俺が転校デビューで美少女JKに気に入られた結果、ヤンデレ生霊のストーカー被害者になりました。 黒猫虎 @kuronfkoha

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