レディ達のお茶会 1

2024/02/08に前半に漏れていた記述があったので挿入しました。

2/7にお読み頂いた方も、もう一度前半だけお読みいただければ幸いです。

2/8日以降にお読みの方は、問題無く読んでいただけます。

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 王兄殿下の葬儀後、あとの諸々はこちらでやりますので、とビリアニアが申し出たのを受けて、カイン達は王都へと戻ることになった。

 王妃殿下はアイスティア領から王都へ戻る途中、


「もう、遠慮する必要がなくなりましたわね。……ぶっつぶしますわ」


 と、とても良い笑顔でつぶやいていた。

 時期を考えれば誰に遠慮をしていたのかは想像が付くし、その遠慮をしていた人の受けた理不尽を思えば、王妃殿下が誰をぶっ潰すつもりなのかは想像に難くない。


「王妃様コワっ。近寄らんとこ」


 と、カインは震えながら食卓のテーブルで離れた席に座っていたが、王妃殿下の隣に座る母も同じ顔をして笑っていたのを見てしまい、逆に何があったのかが気に掛かってしまった。

 しかし、ふふふ、ほほほ。と二人で黒い笑顔を交す王妃殿下と母エリゼの様子を見れば、二人に直接質問するのは怖い。


「お兄様、帰ったらお父様にお話をうかがってみましょう?」

「そうだね。お母様に直接聞くのはちょっと怖いね」


 ディアーナも同じ気持ちだったようで、二人は帰ってから父に『何でぶっ潰されるの』かを聞いてみようと頷きあった。

 そんなこんなで三日の馬車旅も終わり、王都に戻ると夏休みも残りわずかとなっていた。

 

 ちなみに、カインとディアーナの質問に対して、ディスマイヤは大変疲れた顔をして


「色々あったんだよ……。学生時代に、色々ね……」


 と弱々しい声で言っていた。結局、詳しいことは何もわからないままだった。




 留守中、王都のエルグランダーク邸にはディアーナ宛の招待状が何枚か届いていた。ディアーナはまだ未成年なので、招待状と言っても幼なじみや同級生からの昼食会やお茶会への招待状である。

 それを見たカインが「僕には?」と問うたところ、パレパントルから「ございませんでした」と無表情で言われてしまった。

 冷たい視線から「もっとご学友をお作りになってはいかがですか?」という小言が聞こえてくるようで、カインはさっさと自室へと退散したのだった。

 

 新学期に向けた準備のために、ディアーナは同学年の女の子たちとのお茶会にいくつか参加することにした。

 母エリゼも、


「低学年のうちは、お友達とのお茶会もとっても楽しいのよ。色んなお家のお茶会に行って、仲良く出来そうなお友達を作ってくると良いわ」


 と張り切ってサマードレスを用意していた。 


「……高学年になると、お茶会が楽しくなくなるのですか?」


 母の言い回しから、ふと疑問に思ってそう口にしたカインだが、

「うふふ」

 とだけ答えた母の顔が怖かったので、自分宛の招待状が来てなくて良かったのかもしれないと思った。

 


ディアーナが最初に訪れたのは、親友であるケイティアーノの家である。


「ディちゃんと一緒にネルグランディ城にお伺いしたかったですわ!」


 開口一番、ケイティアーノはそう言ってディアーナに抱きついた。侯爵家の令嬢として大切に大切に育てられているケイティアーノだが、少し日に焼けているようで柔らかい小麦色の肌になっていた。


「エルグランダーク家の領地へ避暑に行くということでしたから安心してましたのに、王太子殿下もご一緒だったんですってね? 大丈夫でしたの? 何もされませんでしたか? ちゃんとカインお兄様に守っていただきましたの? 二人っきりになったりしてませんわよね?」


 ディアーナを抱きしめたまま、ぐりぐりと肩口におでこをこすりつけながら勢いよくまくし立てはじめた。


「ケイティアーノ様、まずはお座りになって? ディアーナ様が驚いていらっしゃるわ」

「そうですわ。積もる話は沢山ありますもん。ゆっくりお茶を飲みながらにいたしましょう?」


 アニアラとノアリアが仕方ないわね、という顔で笑いながら手招きをしていた。今日のお茶会はいつもの仲良し四人組のみの、気安いお茶会となっている。庭に作られた池の中程に突き出すように作られた四阿にティーテーブルなどがセッティングされていて、とても涼しげだった。


「ケーちゃんのおうち、お庭に池があってうらやましいな」

「我が家は代々水魔法が得意な家系だからでしょうね。家の至る所に水がありますのよ」


 ケイティアーノは朗らかに微笑んで、デザートスタンドから焼き菓子を取ってディアーナの皿に載せた。


「うちは家族の魔法属性がバラバラですの。だから普通のお庭なのかしら?」

「関係ないのではないかしら。私の家は土魔法が出やすいみたいですけど、お庭に山なんかないですもん」

「確かに、お父様は火魔法が得意みたいだけどお庭に窯も竈もありませんわね」

「結婚相手の条件に、魔力の多少は考慮したとしても、属性はあまり考えないですもんね」

「でも、ケイティアーノ様の家系は水魔法の家系でしょう? やっぱり婚約者候補は水魔法をお持ちの方ですの?」

「そういえばケイティアーノ様は夏休みの間にお見合いなさったんですもんね!」

「実際、お相手の方はどうなんですの?」

「ええ! ケーちゃんお見合いしたんですの?」


 夏休みの宿題の状況や、新学期に向けて準備すべきもののすりあわせをするためのお茶会だったはずなのだが、庭に池があるという話からケイティアーノのお見合い話へと話題が移っていった。

 夏休み中に親友であるケイティアーノがお見合いをしていた、と言うことにショックを受けたディアーナはサッと血の気が引くのを感じた。


「ええ……。どどど、どうするんですの? ケーちゃん、お嫁に行っちゃうの?」


 ディアーナは動揺を隠すこと無く、テーブルの上で手を落ち着き無く動かしながらケイティアーノに質問をした。

 そのディアーナの様子に恍惚とした表情を一瞬だけこぼし、困った様な笑顔に戻したケイティアーノ。その様子を、ノアリアとアニアラは見逃さなかったが、ディアーナは動揺していて気づいていない。


「心配なさらないで。まだ顔見せのお茶会をしただけですのよ。何もお話は進んでいませんわ」

「お相手が領地を持っている方だと、ケーちゃんはいずれ遠くに行ってしまうかもしれないのでしょう? どなたですの? 卒業までは一緒に遊べる?」


 そわそわと落ち着かない様子で、ディアーナがケイティアーノの手を握る。困った様な、すがるような目をするディアーナの肩を優しく撫でると、ケイティアーノはにこりと微笑んだ。


「大丈夫よ、ディーちゃん。ディーちゃんは公爵家ですし、私たち三人は侯爵家ですもの。選ぶ権利はこちらが少し強いんですのよ。ディーちゃんが悲しむような相手とは婚約いたしませんわ」

「そうですの。ディアーナ様はお出かけしてらしたけど、私もお見合いしたんですのよ?」

「私も、お見合いしたんですもん。お見合い即婚約って事ではありませんもん」


 ノアリアとアニアラも席を立ってテーブルを回り込み、ディアーナの背を優しくさすったり金色の髪を手で梳いたりしてディアーナをなぐさめた。


「私たちも、せっかく仲良くなれた皆と別れたくはありませんの。領地持ちだとしても、王都でも役職を持ちそうな優秀な方を選びたいですの」

「学園での出会いだってまだまだ期待できますもんね。一組の男子生徒とはまだあんまり接点はありませんし、上級生との関わりもこれからですもん」

「恋愛結婚にもあこがれますわよね」


 ディアーナを囲んで、ホワホワと恋バナに花を咲かせ始める三人。カインが後押ししてくれるから、女性騎士だって魔法剣士だって成れるんじゃないかと楽観的に過ごしてきた自分が、少し恥ずかしい気持ちになってきたディアーナである。


「えっと。婚約者様とか恋愛のお相手って、どういう基準で決めるの?」


 おずおずと、囲む友人の真ん中で小さく手をあげて質問をするディアーナ。その姿の愛らしさに、三人の小さなレディー達は「きゃー」と小さく叫ぶとスキップをしながら自席へと戻っていった。


「お茶会らしくなってきましたわ!」

「ディアーナ様も恋愛に興味をお持ちになりましたの!」

「ディアーナ様もお年頃ですもんね! 気になりますもんね!」


 恋バナするには、砂糖をたっぷり入れて甘くしたお茶とデザートがかかせないの! とケイティアーノがベルを鳴らしてメイドを呼び、お茶を新しくいれさせた。ノアリアがケーキスタンドから一種類ずつを取って載せた小皿を右回りで皆に回していく。アニアラが砂糖代わりの小さな綿菓子をティーカップの上にのせて、満足げにため息をついた。


「改めまして、本日はサラティ侯爵家の秘密のティーパーティにようこそ! 楽しいお話をして、素敵な時間をすごしましょうね!」


 本日の主催であるケイティアーノが宣言をして、令嬢四人の小さなお茶会が始まった。

 ディアーナが公爵家令嬢、ケイティアーノとノアリア、アニアラの三人が侯爵家令嬢なので、全員アルンディラーノの婚約者候補になる可能性がある。それでも王家からの通達を待っているばかりでは行き遅れになる可能性もあるので、ただ待ってもいられないのでまずは顔合わせから。ということで、軽いお見合いをし始めているのだとディアーナの幼なじみ達は説明をした。


「なので、魔法学園や刺繍の会では縁を持つことの出来ない方達とお友達になる機会。ぐらいの認識ですの」

「領地をお持ちの家門の嫡子ですと、王立経営学校の方に進学している方もいらっしゃいますもんね」


 ディアーナ達は現在十二歳。まだデビュタント前なので夜会や大規模な昼食会で他家と交流するという手段がない。正式な宴会となると、招待客同士でもめ事があったときになぁなぁで済ませることが出来なくなるため、子どもは参加させないのが不文律となっているのだ。

 不特定多数が参加するようなパーティで粗相をすれば、不利な噂となって貴族社会に広がってしまう可能性もある。

 そこで、親同士が友人だったり親戚だったりといった関係を通じて行われる「仲良し家族同士のホームパーティ」というテイの小規模な茶会や食事会が子ども達の交流の主となる。ディアーナ達が幼い頃から参加している王妃様主催の刺繍の会も、表向きは仲良し奥様が子連れで参加してるだけ、という事になっている。


「さて、恋愛のお相手の基準ですわよね」


 お茶を一口飲んで、ケイティアーノが口火を切った。


「やはり、優しい方が良いですもんね。いつも微笑んでいらして、気を遣ってくださって、声を荒げない方が良いですわ。厳しい方は怖いですもん」

「あら、アニアラ様。優しさにも色んな種類がありますのよ。宿題が終わらないとおやつ抜き! という厳しさは、優しさに含まれるってお母様が言ってますの」

「優しさと甘やかしの違いですわね。ノアちゃんはどのような方がよろしいのかしら」

「私、怖がりなところがありますの。ですから、逞しい方がいいんですの。でも、ムキムキ過ぎるのも嫌ですわ。ほどよく逞しい方って素敵だと思いますの」

「じゃあ、騎士の方が良いのかしら? ノアちゃんはお兄様がいらっしゃるからお嫁にいくんですものね」

「若い頃は騎士団に所属して、後々家門を継ぐ方もいらっしゃいますの。ケイティアーノ様は?」

「お爺さまからは、水魔法が使える事は譲れないと言われてますから、それ以外でいうと……」

「そ、それ以外で言うと?」


 ディアーナがゴクリと喉を鳴らした。


「結婚後もディーちゃんと遊ぶことを許してくださる方かしら?」


 ディアーナが見守る中、ケイティアーノは頬をうっすら染めながらそんなことを言った。

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