ゲームシステムと好感度
ゲーム版のド魔学は、アンリミテッド魔法学園に入学して六年間過ごし、攻略対象者達と交流して友情や愛情を育み、卒業時に目的の相手から告白されるのを目指す乙女ゲームである。
基本は、一週間毎に五ポイントを『勉強』『魔法』『剣術』『芸術』『交友』に割り振り、割り振った行動によってドット絵で描かれたミニキャラクタのムービーシーンが差し込まれ、割り振った行動に合わせてヒロインの能力値が上がっていく。
例えば、『勉強』にポイントを振るとミニキャラが机に向かって本をペラペラめくるドット絵が表示され、精神力と知性の数値が上がる。『魔法』にポイントを振るとローブを着たミニキャラが手を差し出して水を出したり炎を出したりするドット絵が表示され、MP(マジックポイント)と精神力の数値が上がる。その他の行動を選べば、HP(ヒットポイント)や体力、筋力、敏捷性、社交性と言った行動にあわせた能力値がそれぞれ上がっていく事になる。
能力値アップが終わると、週末の休息日二日間をどう過ごすかの選択肢が出てくる。自由行動ターンとしていくつかの選択肢から遊びに行く場所を選び、その結果としてのミニイベントが発生する。この遊びに行く先の選択肢は、入学直後はとても少ないのだが、物語が進んでいくにつれだんだんと増えていく。
そして、週末の休息日のミニイベントは、選んだ場所や平日行動ターンで選んだ行動や上がった能力値によって内容が変わってくる。
『剣術』に五ポイント全部割り振って訓練所や運動場を選ぶと、クリスやジャンルーカといった剣術にゆかりのある攻略対象者の立ち絵が表示され、「頑張ってるね」といった簡単な台詞がウィンドウに表示される。
『魔法』に五ポイント全部割り振って魔法鍛錬所や図書館などを選ぶと、ラトゥールやマクシミリアンといった魔法にゆかりのある攻略対象者の立ち絵が表示され、「負けないから」といった簡単な台詞がウィンドウに表示される。
いずれも好感度が低い状態だと「……」とウィンドウに表示されたあげくどこかに去ってしまう事もある。
また、全行動に一ポイントずつ振り分けると、行き先にどこを選んでも「一週間頑張って疲れちゃった。ここでひと休みしよう」とヒロイン自身の台詞が表示され、人物の立ち絵無しの背景のみが表示されたりする。ハズレイベントのようにも思えるが、ランダムで「街にお忍びで来ていたアルンディラーノを見かける」といった特別ミニイベントが発生する事もあるので侮れない。ミニイベントで立ち絵の表示された攻略対象は、ほんのわずかだが好感度があがるのだ。
この一週間のルーチンを四回繰り返すとひと月が終わり、ひと月の終わりには行事イベントが発生する。入学直後の一月目にはオリエンテーリングイベントが、二ヶ月目にはダンスの合同練習が、三ヶ月目には運動会、四ヶ月目には合唱祭といった感じだ。
そして、これらのイベントは乙女ゲームらしくパートナーとして登場するキャラクターがその時点での好感度によって変わってくる。さらに、ヒロインの能力値によってムービー内容やイベントの成否も変わってくる。
例えばダンスの合同練習では、敏捷性と筋力、社交性が足りないと「沢山足を踏んじゃった……」とヒロインが反省する台詞がウィンドウに表示されて終わるが、能力値が十分にあれば「周りから沢山の拍手を貰えたわ」という台詞に変わったり、「君と踊れてとても楽しかったよ!」と攻略対象者から褒められて特別なダンスシーンのスチルが表示されたりする。
一年生の時点ではダンスイベントまでに八回しか能力アップ機会がないので、どう頑張っても失敗に終わる。ド魔学のプレイヤーは、この毎月末のイベントに向けてあげていく能力値を調整したり、ゲーム開始直後のイベントは捨てて目標の(見たいスチルのある)イベントに向けて集中的な能力アップを目指したりする。ド魔学はそういった部分でプレイヤーの個性が出てくるゲームであった。
以前アウロラが学校の廊下で覗いていた「アルンディラーノが剣術の補習授業の見学に誘う」シーンも、『魔法』と『剣術』を半々で行動選択した週に学校の廊下に行くことを選択すると見られるミニイベントなのであった。
この一週間のルーチンと週末ミニイベント、四週間おきに発生する月末イベント、それを十二回繰り返すと年に一回の能力テストイベントが発生し、学年が繰り上がってまた一年を繰り返す。コレを六回やっていくのがド魔学というゲームである。
ゲームのシナリオが進み、学年が上がっていくと当然能力値もどんどん上がっていくのでイベントのムービーやスチルが豪華になっていく。
カインルートは三年経つと先に卒業してしまう為、序盤からかなり計画的に頑張らないと豪華なムービーやスチルが見られないという難易度の高いルートであった。
ただし、一週間のルーチンを四回繰り返して月末イベントを一回発生させるというパターンにも例外がある。特別イベントが発生して学園が休校となり授業が潰れる場合や、誘拐・家出等の学園外で話が進むシナリオが発生した場合。そして、夏休み期間である。
「とはいえ、ヒロイン不在の状態でメイン攻略対象者がほぼ全員ここに集まっちゃってるんだよな」
カインは馬車の中をぐるりと見渡して独りごちる。カインの右隣にはディアーナがうとうとしながら座っており、左隣にはラトゥールが座って本を読んでいる。向かいの席ではアルンディラーノとジャンルーカの王子様コンビがお互いの国の騎士のあり方について語り合っている。
外には馬に乗って併走しているクリスがいて、時々窓越しにアルンディラーノと会話を交している。馬車からは視えないが御者席にはイルヴァレーノが座っているはずだ。
攻略対象のうち、大人の教師枠であったマクシミリアンと、来年入学してくるはずの年下下級生枠の攻略対象だけがここにいない。
ヒロインであるアウロラは王都に残って両親の手伝いをすると言っていたので、魔導士団に所属しているマクシミリアンとは顔を合わせることもないだろうし、入学前の貴族家子息と平民の娘が出会う接点などもそうそうあるものではない。
「一年生の夏休みイベントは……なんだっけ?」
カインになって十五年。カインとしての思い出が増えていくに従ってだんだん薄れていく前世の記憶と、ゲームのシナリオ内容。
子どもの頃に父から貰った鍵付の日記帳に書き写しておいた物はあるが、各キャラクターの設定関係や重大イベントに関連するフラグ関係、各ルートでのディアーナの破滅方法などを端的に書き出しておいただけで、ミニイベントや六年間毎年ある月間イベントの全てを網羅しておいたわけではない。好感度が0.1アップするだけのミニイベントなどを全部書き出していたら日記帳が何冊あっても足りなくなってしまうだろう。カインが前世で動画撮影用に繰り返しプレイしたり、編集のためにキャプチャー動画を繰り返し見たことで印象に残っているイベントなどはまだ記憶に残っているのだが、一年生の夏休みイベントについてはっきりとは覚えていなかった。
「宿題を一緒にやるんだっけ……。誰かの避暑地の別荘に招待されて遊ぶんだっけ……」
避暑地にご招待だと、好感度の問題で二年生以降だったかな……? カインは首をかしげつつ、向かいの席に座っているアルンディラーノの顔を見る。二年生どころか、アルンディラーノは入学前からエルグランダーク家の領地に遊びに来ている。
「なんだ、カイン。僕の顔に何か付いてる?」
「いえ、いつも通り可愛い顔をしてますよ。アル殿下とも長い付き合いになったなぁとしみじみ思っただけです」
カインの言葉に、アルンディラーノは頬を桃色に染めて、その様子をみたジャンルーカが若干体を引いていた。
カインは幼い頃に、ディアーナを突き飛ばしたアルンディラーノを魔法で殺しかけたことがある。なのに、何故かその後からアルンディラーノはやたらとカインに懐くようになった。ゲームであれば一年目の夏休みなんて好感度も上がりきっていないのでこうやって一緒に旅行に行くなんて事も考えられないが、カインとアルンディラーノは幼なじみである。ジャンルーカも、留学中の三年間で家庭教師として付き合ってきた実績があるので、好感度はそこそこあるという自負がカインにはある。
「お兄様、お城が視えてきましたわよ!」
ディアーナがカインの袖を引っ張って窓の外を指差した。ディアーナの指先をたどって窓の外をみれば、白い石壁に青い屋根の美しいお城が木々の上から視えていた。
「領騎士団の皆さんに馬上訓練を見ていただいたり、馬車のなかでカードゲームをしたり、楽しかったですね」
「四日間あっという間だったな」
ジャンルーカとアルンディラーノも身を乗り出して窓の外をのぞき込んだ。ラトゥールは無視して相変わらず本を読んでいる。
「お城に着いたらついたで、また楽しいことが沢山あるさ」
カインは気持ちを切り替えて、明るい声でそういった。ゲームのイベントとかはどうでもいい、今、ここに一緒にいる皆で色々楽しく遊べば良いか。ディアーナと攻略対象者達が友人として仲良くなっていくことこそが、ディアーナを破滅から遠ざける最大の方法に違いないのだから。
「だからって、恋愛は別だからな」
「?」
先ほどと違い、今度はキツい目で見てくるカインに対してアルンディラーノは小さく首をかしげたのだった。
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