魔法の学校

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アンリミテッド魔法学園には入学試験がない。入学するために必要なのは入学金と魔力のみ。その魔力についても、入学前に測定検査などがあるわけではないので本当に『入学する』だけなら入学金が払えれば出来るのである。

ただし、授業が始まれば魔力が無いことはすぐにバレてしまうため、そんな意味の無いことをする者は居ない。

 アンリミテッド魔法学園では、爵位や学問の出来不出来ではなく魔法の能力で組み分けをする。入学試験がないので入学時点では各生徒達の魔法の能力は不明となるので、入学式終了後に組み分けテストが実施されるのだ。


「はぁい。では、組み分けテストを実施しま~す。本当は一年生だけでやるんですが、今年は四年生に転入生がいるのでその子も一緒にやることになりました~。みなさん、仲良くしてくださいね」


 教師のその言葉で生徒達の前に出てきたのは、カインである。


「去年まで隣国サイリユウムに留学していました。カイン・エルグランダークです。四年生への転入ですが、魔法の勉強は皆さんと同じスタートになります。よろしくおねがいします」


 そう言ってサッと紳士の礼をするカインに、新入生の女子学生から「きゃぁ」「かっこいい」という声が掛かる。教師の隣から見渡せば、後ろの方でケイティアーノ達と一緒に居るディアーナの姿が見えた。ディアーナも目が合ったのがわかったようで小さく手を振ってくれた。


「組み分けテストはシンプルです。自分の一番自信のある魔法を一つ、先生の前で披露して貰います。属性も出し方も得意な物でかまいません」


 そう言って、カインの隣に立っていた教師は魔法鍛錬所の何カ所かの壁際を指差した。壁際にはそれぞれ教師が立っていて、指がさされる度に手を振って生徒達に存在をアピールしていた。魔法を披露するのはどの先生でも良いらしい。



ド魔学の魔法鍛錬所は八角形のホールのようになっていて、天井はドーム型になっている。何カ所か天窓があってそこから光を取り入れ、光魔法の掛かった鏡の様なものが空中でくるくると回転していて、キラキラと光を増幅して室内を明るくしていた。


カインは感慨深げに鍛錬所のホールを見渡す。ゲームでの組み分けテストはミニゲームだったので、背景にドット絵で表現されたこのホールの壁が描かれているだけだった。八角形の頂点に当たる部分にある柱は装飾も美しくなっているが、辺にあたる壁は基本的にクリーム色で塗られているだけ。なんの特徴も無いので『ゲームと同じだ!』とはしゃげるものでもなかった。


「あそこはこんな風になっていたんだな」


 その後も、同級生魔道士ルートに入れば度々この鍛錬所に来ることもあったのだが、ラトゥールの立ち絵の背景も壁と柱が描かれているだけだったので、ホールの全体像が出てきたことは無かった。

 天井を見上げれば、光魔法を帯びて窓からの光を拡散させている鏡が回転しながら浮いている。魔法の鏡の向こうには、天井の中を鳥の影が移動しているのがみえる。

玄関ホールのミスマダムの様に、平面の中で暮らしている魔法の鳥がいるようだ。入ったときから聞こえてきた「ピチュピチュ」という鳴き声は、窓から入ってくる外の声では無く、この平面の鳥の声だったのかもしれない。

カインとは反対側の壁際に居た教師が手を振ると、壁から光の板が天井に向かって階段状に現れ、教師がそれを登っていくのが見えた。生徒の魔法を上から見る為らしい。

講堂から魔法鍛錬所に移動する時に登ったらせん階段も、手すりの蔓が生きていて花が咲いていた。登るために手すりを掴もうとすると葉や花がするりと避けてくれていた。

どこを見渡しても、不思議な建物である。


「さ、カイン君。あなたもテストに参加してくださいね~。私が見ますか? それとも別の先生がいいかな?」


 魔法鍛錬所を見渡して感動していたら、隣に立つ教師から声をかけられた。思う以上にぼんやりしていたようだ。


「すみません。色々とすごくって、見とれてしまっていました」

「ふふふ~ん」


 カインの言葉に、なぜか教師がどや顔で返した。学校が褒められて嬉しいのだろうその態度に、教師の学校愛が見えた気がする。イヤイヤ教師をやっていないのであれば、良い先生なのかもしれない。


「エルグランダーク家ほどであれば、お家のなかにも魔法道具は沢山あったでしょう。でも、ここまででは無いでしょう~?」

「ええ、凄いです。魔法であることはわかりますが、どうやってるのかさっぱりわかりません」


 教師の言う通り、エルグランダーク家にも魔法道具は沢山あった。暖炉を使わずとも部屋の中を暖める暖房器具や、湯沸かしポット、光魔法が込められた魔石を使ったランタンやライト等。

その他にも、カインの目に入らないところでは洗濯室には大きな湯沸かし器があったり、厨房には火起こし不要なかまどやオーブンも有るらしい。

 しかし、必要なときだけ壁から出てくる階段や、壁の中を移動する鳥、話しかけてくる絵画などはエルグランダーク家にも無かった。……必要なものとも思えなかったが。


「卒業するまでには、わかるようになりますよ」


 そう言って、教師はポンとカインの頭に手を置いた。頭を撫でようとしたようだったが、カインの髪型が思ったより複雑だったのでポンポンと軽く叩いて終わりにした。


「わかるように、なるでしょうか?」


 カインも、ティルノーア先生から『教えることは無いかな』といわれる程度には魔法を習得している。それでも、この学園に入ってきてからたったの半日の間に見た不思議な出来事はどうやれば再現できるのかさっぱりわからないものばかりだった。


「わかるようにするのが、わたしたち教師の仕事なのですよ」


 そう言ってニカッと笑う教師の顔を見上げてカインは思った。イヤイヤ教師をやっていたマクシミリアンを、排除しておいて本当に良かったな、と。

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悪役令嬢の兄に転生しました6巻、コミカライズ3巻 本日発売!

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