そして再会

「ディアーナお嬢様じゃありませんか。サッシャは? まさか、お嬢様達二人でここまできちゃったんですか?」


支えていた腕を引っ張ってしっかり立たせてくれたその人は、赤い髪に赤い瞳。


「駄目じゃ無いですか。まわりは暗黙の了解で見て見ぬふりしてくれてますけど、ご令嬢って丸わかりなんですから、誰か連れてこないと。ねぇ、カイン様」


ディアーナの体をざっと見渡し、怪我が無い事を確認してからイルヴァレーノが振り返る。その視線の先、一緒に並んでいたのはカインだった。

目を見開き、大粒の涙を静かに垂れ流し、唇は薄く開いたままプルプルと震えて言葉を出せずにいる、挙動不審で怪しさ満点の様相のカインだった。


「あーあ。ディちゃん独り占めもここまでですわね」


ケイティアーノはぼそりとつぶやくとディアーナとつないでいた手を離す。

イルヴァレーノがすっと位置をずらし、ケイティアーノの後ろに回った。


「お兄様!」

「ディアーナァアアアアア」


顔面崩壊を起こしたカインが服がぬれるのも構わずにその場に跪き、ディアーナに抱きついて叫ぶ。

ディアーナもそんなカインの頭を撫でつつ、時々ポコポコと叩きながら怒り笑いしていた。


「もう! なんで帰ってきているのに鐘の列に並んでいるんですの? 王宮前庭にいらしてくだされば良かったのに! ずっと待っていたんですのよ!」

「ばずでぼどじでばいでだがっだんだぼぉ」

「何を言っているのかわかりませんわ、お兄様。ホラ、ハンカチを貸して差し上げますからお顔を整えてくださいまし」

「ぼああああでぁーだぁー」

「お兄様は相変わらず泣き虫ですのね」


感動の再会をしている兄妹の側では、イルヴァレーノが後ろに並んでいる人たちに「避けて進んじゃってください」と誘導をしていた。


「ケイティアーノ様。申し訳ありません。鐘を鳴らすのは僕と一緒でもいいでしょうか? 多分あの二人しばらく動きませんので」

「イル君様はよろしいのかしら? カインお兄様のおそばを離れても」

「あんな感じですが、ディアーナ様のおそばに居るときのカイン様は無敵です。何かあれば自動的にシャキッとしますから」

「相変わらず、頼もしいのかどうなのかわからないお兄様ですわ……」

「広場にいらしたって事は鐘をならしに来たんですよね? お一人で並ばせるわけには参りません」

「構いませんわ。ディちゃんと一緒に居たくてきただけですの。ここで感動の再会が落ち着くのを待つことにいたします」

「そうですか」


それから三十分ほどでカインは立ち直り、四人で一緒に並んで神渡りの鐘を鳴らした。

ディアーナがなかなか戻ってこない為にしびれを切らして広場に出てきたアルンディラーノとクリスは、ソコにカインがいることに驚いてディアーナとケイティアーノを責めるのも忘れて喜び、再び六人で並び直して仲良く鐘を鳴らしたのだった。




「あ、雪が降ってきた」


そう言ってクリスが空を指差した。


「夜も更けて気温も下がってきたもんな」


手のひらを外套の隙間から差し出して、雪を掬いながらアルンディラーノも頷いた。

王宮の前庭会場とちがい、王城前広場は松明で明るく照らされているものの、暖房の魔石は設置されていないのでとても寒い。

雪かきも平民達の手で行われているために広場の端の方には避けられた雪が積まれている。泥で汚れたその雪の山に、新しい雪が積もっていく。

金髪ショートカットが五人も固まっていると却って怪しいと言うことで、ディアーナとケイティアーノはすでにカツラを外して髪を下ろしている。


「みて、お兄様。新しく積もった雪は柔らかいから手形が残りますわよ」


寒さから逃げて、松明の側に立っていたディアーナがぺたりと触った雪の跡を指差した。隣に立っていたカインも、その隣にぺたりと手を置いて手形を付けた。


「本当だ。僕の手形も残ったよ。おそろいだね」


そう言って向き合ってにこりと笑う。


「じゃあ僕も付ける!」


対抗心を燃やしたアルンディラーノも雪山にぺたりと手のひらを押しつけ、そのまましばらくはクリスやケイティアーノも参加して手形残し大会を開催して遊んだ。

夢中で薄い新雪に手を押しつけて、体も冷えてきたところで王宮前庭へ戻ろうと言うことになった。

見下ろすディアーナの頭に薄く雪が積もっているのをみて、カインは優しく頭の雪を払った。


「ニットの帽子はどうしたの?」

「今日はアル様大勢大作戦でカツラを被るので持ってきておりませんの。そもそも、お兄様が編んでくださった帽子はもう小さくなってしまったのでかぶれませんのよ」


背伸びして、カインの頭の雪も払おうとしてくれるディアーナの為に、カインは膝を曲げて頭を下げた。


「そっか。ディアーナも今年はもう学園生になるんだもんな。そりゃおっきくなってるわけだ」

「そうですのよ。いつかお兄様だって追い越してしまうんですからね」

「それは楽しみだな。でも、僕もディアーナに追い越されないように一生懸命大きくならなくちゃね」


ディアーナが雪を払い終わったのを見計らって、カインは膝を伸ばす。そうして手を差し出せば、ディアーナがその手をしっかりと握ってきた。


「お兄様。神渡りが終わってサイリユウムに戻ったら、試験があるんですのよね? 大丈夫ですの? ちゃんと今年から一緒の学校に通ってくださらなきゃ許しませんわよ」


わざとらしくほおを膨らませ、上目遣いで怒った顔をするディアーナに、カインは顔を緩ませる。


「もちろんだよ。準備は万端。進級試験と卒業試験を絶対にパスして、冬の終わりに帰ってくるよ」




雪の降る王城前広場。久々に再会したカインとディアーナは肩を寄せ合いながら王宮前庭へとつながる通用口へと向かって歩いた。

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