誰だと思う?
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花祭り休暇が終わり、いつも通り教室で授業を受ける日々が再開した。カインは、午後授業のない日や休息日には、引き続きジャンルーカの家庭教師のアルバイトをしている。
魔法の練習についてはエルグランダーク邸にて行っているので、コーディリアが一緒になって練習することもしばしばある。コーディリアとジャンルーカは、お互いにリムートブレイク語とサイリユウム語の砕けた話し方を教え合ったりしているようで、良い影響を与え合っている様だった。
コーディリア任せに出来る部分が出来たことで少しあいた時間を、カインは自分の勉強に充てている。次も飛び級で五年生に進級するつもりのカインは、入学当初に思っていた以上に勉強に追われていた。
カインは、留学前の時点で「アンリミテッド魔法学園」卒業までの学習はほぼ終えている。学校へは魔法や剣技といった実技を必要とする教科を同年代と切磋琢磨することによって磨いたり、社会性を身につけたり人脈を作ったりする為、という理由の方が強い。
だから、カインはサイリユウム貴族学校での飛び級もある程度は楽勝だろうと考えていたのだ。実際、一年生終了時に二年生の終了試験を一緒に受けて合格するのは苦ではなかった。
三年生になり、三年生の教科書が学校から配布され、四年生の教科書をバイト仲間の先輩から譲り受け、それぞれの中身を見たカインは焦った。難易度が格段に上がっていたのだ。
算術や物理や地学、外国語(リムートブレイク語)については、引き続きリムートブレイクで学んだ知識で乗り越えることが出来そうなのだが、それ以外の教科が急に難しくなっていた。
歴史は、一、二年生の頃はざっくりとした流れをさらっただけだった。それが、三年生以降は詳細に学んでいくことになる。歴史授業にはサイリユウムの国内歴史とサイリユウムやリムートブレイクを含めた大陸史の二つがあるのだが、そのどちらも大変なのだ。
サイリユウムは百年ごとに遷都するという伝統があり、それぞれ王都の名前を取って『”王都名”暦○○年』と表すのだが、同じ都市でも王都になる度に都市名を変えていたりするし、慶事にあやかって過去の別地域の王都名を再利用していたりするので、単純に覚えるのが大変なのだ。王家も、三代ほど前から一夫多妻制が始まっているため子だくさんになっており、継承争いによる事件や事故、も増えているし、何より単純に王族の人数が増えているので名前を覚えるのが大変なのだ。
大陸史も、リムートブレイクで習ってきた内容と、サイリユウムで教えられる内容で異なる部分などがある。自国と隣接していない国についてはどうしても浅くなるのだが、リムートブレイクとサイリユウムでは隣接している国も違うし、その関係性も違うのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、一度たたき込んだ情報との差異に戸惑うことが多い。基本的に歴史は暗記教科のため、単純に暗記対象が膨大であるという事がカインを苦しめていた。
地理や宗教学、法律といった国によって変わる物についてはリムートブレイクの知識はほとんど役に立たないため一から勉強する必要があったし、倫理や経済といった根っこの部分が同じ物でも、過去の論説やそれを提唱した人物の名前などはまた違うためにやはり暗記のし直しとなっている。
文学についても、魔法の有無や貴族と平民の距離感、道徳観などの国毎に違う背景を理解した上で読み込まないと、物語の解釈が異なってしまう事になる。ただ文を読むだけでなく、登場人物の心情や行動理念を理解するためにはその背後にある物についても勉強をする必要が出てきてしまう。
そんなこんなで、大卒アラサーサラリーマンの記憶を持っているカインではあったが、その知識が生かせる教科というものが異世界の学校では少なく、一度勉強すればほぼ忘れないという優秀な脳みそを持っていても、単純に覚えることが多い教科の修得には時間をかけねばならなかったのだ。
そんなこんなで、割と根を詰めて勉強をしていたカインであるが、あるときから喉の調子が悪い日が増えるようになっていた。
大きな声を出そうとすればかすれ、喉が詰まるような感じがして声が出しにくくなった。それと平行して膝や肘などの関節が痛むことがあり、歩くのに苦労する日もあった。
「もしかして、風邪だろうか」
カインは最初、喉が痛み、関節痛があるということは風邪による喉の炎症や発熱痛だろうかと疑った。
この世界には、正確に熱を測る道具というものがまだ存在していないので、関節痛を伴うほどの高熱を自分が出しているかどうかの判断が出来なかったが、同室のジュリアンが額に手を置いてくれたところで冷たいとも思わなかったので発熱はしていないだろうと判断した。
勉強に集中しすぎて水分を取るのを怠ったせいかなと思い、水を飲んで三日ほど自主勉強を休んで早寝してみたりもした。
移すといけないからと、ジャンルーカの家庭教師も一時中断して休息日も休んでみたりした。十二時間寝たらすごいすっきりとして晴れ晴れとした気持ちになれたが、やはり体調はいまいちだった。
そんな喉の違和感と関節痛を抱えながら、授業を受けたり四年生分の勉強を予習して三ヶ月も経った頃、さすがにおかしいと思ったダレンがエルグランダーク邸へと医者を呼んでくれた。
その医者が言う所によると、
「声変わりと、成長痛ですね」
という事だった。
喉を潤す効果のあるハーブティと関節用のテーピングを置いて医者は帰っていった。
骨の成長に肉体がついて行くように、しっかりと食事と睡眠を取って、適度な運動をするように、という医者からのアドバイスを受けて、カインは少し勉強のペースを落としたのだった。
「ところで、声変わりと言うことは・・・・・・。これが終わったら俺の声ってばあの人の声になるって事じゃね!?」
カインは一人、この世界で誰にも共有出来ない事柄で興奮し、歴史の教科書の署名欄の自分の名前の後ろに(CV:)とお兄さん系イケメンボイス声優の名前を書いてもだえていた。
夏休み直前にはすっかり声変わりも終わっていたのだが、自分の声は自分には違えて聞こえるということを思い出し、果たして自分の声が本当にお兄さん系イケメンボイス声優の声になっているのか確かめようがないことにがっかりしたのだった。
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誰だと思います?
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