新学期
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「アンリミテッド魔法学園にも入学できるけど、私の魔力的には成績が真ん中ぐらいになっちゃいそうだなぁと思って。かといって、領地の学校だとどうしても騎士養成と農地管理の方に力を入れているから、それはちょっと学びたいこととは違うかなって思ったの」
コーディリアの乳兄弟であり侍女見習いであるカディナが、空になったコーディリアのカップにお茶を注ぐ。その姿をみて、カインは小さく頷いた。
「カディナもついてきたんだね。寮には使用人は連れて行けないよ」
「承知しております、カイン様」
カディナがすまし顔で一礼しつつ返答し、静かに壁際に下がった。
「一人でこの国に来て、一人で勉強しなくちゃいけないんだったらサイリユウムの貴族学校という選択肢は思いつきもしなかったと思うの。でも、今なら先輩にカインがいるし、伯母様がこちらにおうちを購入されたからカディナも連れてこられる事になったでしょう? 寮には一緒に入れないけれど、近くに居てくれると思えば心強いと思うの」
学力や魔力、学びたいこと等を鑑みたときに、ちょうど良いが、不便さや心細さなどの理由で選択肢から外されていたサイリユウム貴族学校だったが、カインが先に留学していることやエルグランダーク別邸が出来たことによって最有力の選択肢になったと。
「言葉は大丈夫なの?」
「ネルグランディ領はサイリユウムとの国境だからね。領民も半分ぐらいはサイリユウム語が話せるのよ。もちろん私も日常会話なら話せるし、読み書きは・・・・・・頑張ればなんとか」
カインの心配の言葉に、コーディリアは胸を張って答えた。確かに、前にキールズもそんなことを言っていた気がする。
何にしろ、もう入学が決定している状態でカインが何を心配しても覆ることは無いのだろうから、反対したり必要以上に心配したりするよりも、今後お互いに楽しい学園生活を送れるように協力すべきだろうとカインは考えた。
「わかった。僕もこっちに来て戸惑ったり困ったりした事もあったし、たぶんコーディリアも同じような事で困ったことになるかもしれないから、先に色々アドバイスするよ。入寮の準備は明日から? それも手伝うし、必要なら書き込みされている教科書とノートもあげるよ」
「至れり尽くせり!」
「でも、僕に頼りすぎないでちゃんと友人も作るんだよ? コーディリアは立場が子爵家令嬢って事になるんだよな。もし立場を笠に着ていじめられたら言いなよ? 公爵家令息の立場でやり返してやるからね。あと、寮は二人部屋になると思うからルームメイトと仲良くするんだよ。カディナは連れて行けないんだから、おなか出して寝ないようにね」
「カインは私の乳母なの!?」
「かわいい従姉妹が心配なだけだよ!」
カインとコーディリアは一歳しか違わないが、カインがアラサーまで生きた記憶を持っているせいか、十二歳で親元を離れて寮暮らしをするという立場に対してつい親心が出てしまっている。
その後、コーディリアに「カインにかわいいとか初めて言われた気がする」とか言われてしまったカインだが、照れ隠しだろうと流していた。
入寮の準備や作業については使用人や外部の人足を雇って寮内に入れることも可能なため、カインやイルヴァレーノ、カディナ、その他邸の使用人たちに手伝ってもらってコーディリアの入寮準備はつつがなく済んだのだった。
カインだけが「女子寮の方がきれいで広くて調度品が豪華だった」と若干の不満顔になっていた。
入学・進級準備休みも終わり、授業が始まった。
級友たちと別れて一人三年生へと進級したカインだったが、学内アルバイトなどで知り合った先輩が数人同じクラスに所属していた為、スムーズにクラスに溶け込むことが出来ていた。
進級に伴ったクラス替えなどは無いのだが、二年生から選択授業が始まるため、クラス外に仲の良い友人などが出来たりするらしい。三年生ともなると、二年生の時の選択授業で意気投合した友人などと昼食を取る者も多く、クラス内の人間で固まって何かをするという事は少なくなっていた。
そのため、カインは引き続きジュリアンやアルゥアラットたちと昼食を取っている。
「カイン様は、三年生で選択授業何を選んだの?」
ディンディラナがフォークで鶏肉を突きつつ話しかけてきた。行儀が悪いとジェラトーニが肘でその脇腹を突いて居るが、ディンディラナは気にしていなかった。
「選択授業を選ばないのも有りって話だったから、今のところ何も取ってないよ。飛び級の為の勉強で一杯一杯だったから、選択授業の事調べるの忘れてたよ」
サイリユウム貴族学校の選択授業は、カインの前世の様な「美術か書道か」「工作か家庭科か」といった物では無く、「騎士科」「家政科」「他国言語・文化科」と言った将来の就職に結びつく選択となっている。特に騎士科は貴族の三男以下の者には人気が高く、熱心な者は一年生の頃から騎士科の放課後訓練に参加していたりする。ジュリアンの乳兄弟で側近候補のハッセなどがそうである。
また、子爵家以下の家格の子どもなどは、高位貴族家に侍女や侍従、執事などとして働きに行く可能性も高いので、そういった将来を目指すのであれば家政科などを選択するようだった。
自分で調整ができるのであれば、選択授業を複数受けることも可能である。
「騎士になる気は無いし、一応公爵家の長男だから家政科も必要ないしなぁ。あぁ、でも髪の結い方とかドレスの手入れの仕方とか習っておくと、ディアーナを着飾ったり出来る様になるのかな」
「そういえば、最近のカインは髪の毛がツヤツヤしてますますまぶしくなってきておるな?」
「イルヴァレーノがこちらに残ったんで、進級準備休暇中ずっと手入れされてましたから」
食事を進めながら雑談をし、そろそろ食後のお茶でも取ってこようかとじゃんけんをしようとした時だった。
「カイン! 助けて!」
食堂の奥から、コーディリアが早足で助けを求めてやってきた。
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