新たな刺客

おまたせ!

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進級試験の準備期間を、ディアーナの居ないさみしさに泣きながら勉強して過ごしたカイン。その翌週の進級試験を通過して無事に三年生になることが決まった。

 進級試験週間が終われば、翌週は進級進学の準備のために丸々一週間休みとなる。新規に入学してくる一年生などは、この期間に寮へと入ってくる事になる。

そのため、寮内はざわざわと騒がしくなり、カインとジュリアンの部屋にも廊下や窓の外から喧噪が聞こえてきていた。

「そうはいっても、既存学生の部屋替えは無いんですね」

「よっぽど相性が悪いとか、親の派閥替えがあったとかの事情でもなければ無いな」

進級決定後の準備休み初日。カインは寮の部屋で一年生の教科書を片付けたり三年生の教科書を用意したり、新学期に向けた準備をしていた。

 カインが飛び級したことでジュリアンとは学年もクラスも別れることになるが、寮の部屋替えは無いと言うことなのでまた一年間同室である。

「まぁ、また一年よろしく頼む」

ジュリアンがニカッとわらって右手を差し出した。

「ジャンルーカ様の語学と魔法の家庭教師も引き続き引き受けましたし、同室の方が連絡とりやすいかもしれませんね」

カインはジュリアンの右手を軽く握るとペシッとはたきながら手を離した。

 新学年向けの準備を一通り済ませたカインは、クローゼットから外套を出して服の上から着込む。

「なんだ、カイン。どこかに出かけるのか?」

「今日は家に帰ります」

「愛しのディアーナ嬢はもうおらぬのに?」

「イルヴァレーノから、今日はどうしても帰ってこいと言われているんです」

 ジュリアンから、ディアーナがいなければ家に帰らないと思われている事に眉をしかめつつ、カインは外套のボタンを締めてマフラーを巻き、帽子をかぶる。

「そうだ、カイン。その帽子なのだけどな。フィールリドルとファルーティアが耳付き帽子かわいい欲しいとうるさいのだ。買い取るゆえ編んでくれぬか?」

「そういえば、ディアーナも二人の王女からねだられた上に強奪されそうになって喧嘩したと言っていました」

「・・・・・・すまぬ。言って聞かせておく」

「進級準備休暇中に、編めたら編んでおきます」

 カインはそう言ってジュリアンに手を上げると、寮を後にした。


 エルグランダーク邸の玄関を開けると、イルヴァレーノが待っていた。

「お帰りなさいませ、カイン様」

 そう言いながら、カインの外套を脱がせて軽くたたんで片手で抱えた。

「今日って何か用事あったっけ? 学校は休みだけど寮室の整理をするからジャンルーカ様の授業は休みにしておいたと思うんだけど」

「ええ。ジャンルーカ様はおいでになっておりません」

イルヴァレーノに先導されて、たどり着いたのはティールームだった。カインは茶葉で入れるお茶よりも砂糖漬けの果物を湯で溶かす果実茶の方が好きなので、積極的にはティールームを利用しない。

 イルヴァレーノもそれは知っているはずなので、ここに連れてこられたと言うことは誰か客が来ていると言うことである。

 母とディアーナは帰った。こちらの国での知り合いと言えば学友ばかりなので、家に訪ねてくるということはあり得ない。

 カインは全く想像できない来客に、緊張しながらティールームのドアを開けた。


「来ちゃった♡」


 かわいくポーズを決めつつ、そう言ったのはカインの従姉妹、コーディリアだった。



「めちゃくちゃ既視感なんだけど」

カインが目頭をもみながらそうこぼすと、コーディリアが首をかしげながら口をとがらせた。

「おっかしいなぁ。おばさまとディアーナから、これをやればカインが大ウケするの間違いなしって言われたんだけど」

「コーディリアは僕にウケたくてここまでやってきたの?」

「違うけど」

カインはコーディリアの向かいの席へと座ると、背もたれに体を預けて腕を伸ばした。思ったよりも緊張していたようで、肩がこっていた。

「久しぶりだね、コーディリア。元気そうで何より」

「カインもね。兄さんがよろしくって言っていたわよ」

「キールズは元気? スティリッツとの仲は進展してる?」

「兄さんはすこぶる元気よ。結婚までに痩せようと頑張るスティリッツと、そのままで良いってお菓子を食べさせようとする兄さんで良く喧嘩してるわ」

 コーディリアが肩をすくめた。

「犬も食わない奴だ」

カインも、従姉妹たちの元気そうな様子に破顔すると、イルヴァレーノが用意してくれた果実茶を飲んで一息ついた。

夕飯前なので小さな砂糖菓子を少しだけつまみつつお茶を飲み、カインとコーディリアはしばらく近況を報告し合った。

「ところで、コーディリアはどうしてここにいるの?」

飲んでいたお茶のカップが空になったのを機に、カインが尋ねた。

コーディリアも、カップをソーサーに戻すと両手を膝の上に置いて背筋を伸ばした。


「今年からサイリユウム貴族学校に入学することになりました。カイン先輩、よろしくお願いします!」


そう言って元気よく頭を下げたコーディリアのつむじを、カインは目を丸くして見つめるしか無かった。

何でこうなった?

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